........ 長時間ただ座している太乙を、玉鼎は後ろから抱きしめる。項に唇を這わせると白い肌に漣のような
震えが走った。
震えつつも色の薄い瞳は虚空に向けられたまま、何も映してはいない。
太乙が心を閉ざしてから、幾たびもの夜と昼が経過した。
「・・・太乙」
玉鼎の指が絹服の襟を寛げて侵入する。触れる温もりが哀しい。人形のようでありながら、太乙の
体はあまりにも温かかった。
「愛している」
囁く言葉は空しいのか? 閉ざされた心はあまりにも遠い。
それでも・・・玉鼎は数えきれないほどの言葉を注ぐのだ。力で蹂躙され続けた脆い魂に染みるまで。
「あ・・・」
与えられる愛撫に太乙がしっとり汗ばみ始めた。内側に熱が点った身体は、赤い花びらを溶かした
ようなピンクに色を変えていた。
「はっ、はあ・・・ああ・・・」
呼吸が苦しく荒い。涙さえ浮かべて太乙はゆるりと頭を振った。
人形が静から動へ移る時。
抱いているのが玉鼎とも気づかず、太乙は様々な相手に嬲られ、犯される悪夢の中に存在していた。
「や、許し、て・・・もう・・・」
華奢な指先が玉鼎を拒んだ。カチカチと歯が鳴るほど、太乙は怯えていた。
太乙にとって、抱かれる行為は苦痛でしかない。
誰もが、自身を満たし、太乙を貶める事ばかりを望み、彼を労わってやらなかったから。
宝貝開発の才故に異例の十二仙昇格を果たした太乙への暗い羨望。また、太乙があまりにも儚すぎて、簡単に力で捩じ伏せられた事も、苛む原因だろう。
受け入れる機能のない男の体・・・慣らしもせず一方的に挿れられるのは辛い。
太乙は優しさを知らなかった。
「−−−太乙」
今一度きゅっと強く抱きしめ、玉鼎は太乙を寝台に押さえつけた。
「嫌・・・」
怯えた瞳が見開かれる。着物を脱がせようとする玉鼎に抗い、必死に身を丸める。
敵うはずなどないのに。
玉鼎は細い腕を取り、体を伸ばさせながら、逆の手で無防備だった裾を捲くり上げた。
「ああああっ」
悲鳴が迸った。剥き出しにされた下半身が切なく戦きを放つ。
「赦して、やあ・・・」
香油が塗られ、蕾が解されて、玉鼎の指が入り込んだ。つぷりという音が淫靡に響いた。
太乙を達かせるだけの日を続けた後、玉鼎は後ろを使い出した。指だけで序々に本数を増やし、たっぷり
濡らせて。
性感を探る動きは、極めるのを妨げはしない。そうして、前後の快楽を同調させていく。
「あ、ん・・・う・・・っん・・・」
「達きたくなったか?」
粘膜を弄る指はそのままにして、太乙自身に手を添える。ただ、添えるだけ。
今の太乙は後ろの刺激だけで達く事だ出来た。
荒い吐息が繰り返される。流れた汗が双丘の狭間を伝った。指を咥える肉が蠢いて絡みつき、無意識に
締め付ける。
ざらりと体の内側を擦られるのは、傷ついて皮の剥けた場所に触れられるのに似ていた。
竦み上がってしまうほどの衝撃。既に玉鼎は三本を含ませ、それが内部でバラバラに動く。
「う・・・っ」
「達くがいい」
鉤状にくっと折れ曲がった指がある一点を強く突いた。
「ああ、あああっ!!!」
背が撓り、太乙が反り返ったかと思うと、瞬間くたりと脱力した。
指に絡んだ精を玉鼎は舐め取った。青くて苦く、それでいて僅かに甘い。
「・・・ん・・・えっ」
太乙は嗚咽していた。歓喜を覚えるべき時に、この踏みにじられた心はすすり泣く。
前が解放されたせいで、秘裂に咥える指が苦しくなっていた。
「今日は私を挿れる」
太乙の耳元に囁く。抱きしめる体はぴくりと反応したが、反射的な物で、意味が届いていない事は
わかっていた。
うつ伏せに這わせ、腰を引き上げる。背から臀部まで屈曲しないこの体位が一番受け入れ易く、負担が
少ない。
されるがままの太乙だったが、指が抜かれ、熱い塊が宛てられた途端、暴れ出した。
「嫌、いやああっ」
「太乙!」
捩りかける肩を押さえ、一息に玉鼎は狭隘な秘所を貫いた。
「あ−−−・・・っ」
指で執拗に慣らされていたせいで、驚くほどすんなり太乙は受け入れた。何時もの凄まじいまでの
激痛がない事に、太乙は気づいたようだ。
「あ・・・」
安堵の溜め息が漏れた。
シーツを握る指から力が抜けていく。肩口で切り揃えられた髪がぱさりと揺れた。
「交わるのは痛みばかりではない」
玉鼎が太乙の胸に手をやり、乳首を摘んだ。
「・・・ひっ」
「感じるだけ感じてそれを識ると良い」
抽送を玉鼎は始めた。


「−−−鳥」
太乙の呟きに、玉鼎は身を起こした。空は既にうっすら白んでいた。
窓辺に名も無き鳥が訪れている。
否定と拒絶意外の言葉を太乙が発したのは、心を閉ざしてしまってから初めてだった。
「・・・可愛いね・・・」
透明な涙が一筋、太乙の頬を伝い落ちた。
「そうだな」
身じろいだ太乙を上掛けで包んでやる。
「肩を出していると冷える。おまえは丈夫ではないのだから」
「うん・・・」
太乙が頷いた。また、涙が溢れた。

  前回、中途半端に終わってしまったような気がしたので、リベンジさせて頂きました。
  なので、氷輪様に差し上げたいのですが、気づいていただけるでしょうか。どきどき。

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