京の冬は北山から吹き降ろす風に晒されていた。
遥か北方の海の湿気を含んだ風はこの山に遮られて、雪を落とし、人の住む場所へは
乾いた冷たさだけとなって襲い掛かる。
平安の都は山に囲まれた場所に築かれたので、凍える風は逃げ場がない。
人を、獣を身体の芯まで凍らせて、絶え間なく吹いてくる。


火鉢には赤い炎が熾ってはいるが、そのような物では到底冬の寒さを払拭など出来
なかった。
板張りの床からしんしんと冷たさが上ってくる。空気はぴんと張り詰め、音もなく・・・否・・・。
ふいに濡れた響きがした。聞き取れないほど控えめに、しかしそれは途切れる事がない。
褥の帳が巡らされた中、柱に背を凭れさせた友雅が、落ちかかる髪を掻き上げた。
敷かれた畳と夜具が少しばかり寒さを和らげている。
それでも、吐く息が白く染まるほどだというのに、彼の前に跪いている者は一糸すら纏って
いない。
身を屈め、軽く寛げた友雅の夜着の合わせに顔を埋めている。
「拙いな」
呟いても、求められた口淫を必死に行っている泰明には聞こえなかった。奉仕と呼ぶに
相応しい動きで、口腔に収まりきらないモノを含んでいる。
「やり方は幾度も教えただろうに」
友雅は冷たい肩口に触れた。びくりと震えを返すのにも構わず、華奢な泰明を引き剥がす。
「あ・・・」
「時間だけが経過していると思わないかい? 私は退屈しているのだよ」
荒い吐息を繰り返す唇をなぞり、友雅は言葉を綴った。
「どう、すれば・・・」
「どうしようか」
くすりと笑って潤んだ瞳を見つめ返す。
「君ばかりというのもね」
「だからどうしろと!」
友雅の望んでいる事がわからずに、泰明は頭を振った。
「私にはわからないのだ」
尚も問うてくる泰明に返事を返さず、友雅は凭れていた柱から離れて夜具の上に横になった。
「向こうをむいて、私の顔を跨ぎなさい。私も君を可愛がってあげよう」
「な・・・っ、そんな事、出来るわけがない」
瞬時に上気した頬を友雅が両手で包む。その仕草は優しいのに、告げられるのは正反対の
強要だった。
「出来ない、ではなくてしたくない、だろう? 嫌ならば何故私の元に通う?」
「それは・・・」
「ここにいる以上、君に拒む権利などない」
やりなさい、と背を押しやると微かな嗚咽が聞こえた。悔しいのだろう。悔しくても、それでも、
泰明は友雅から離れられない・・・。
ぎこちなく足を開き、跨いだ下肢を友雅は引き寄せた。
「あっ・・・!!」
怯えた声は、上擦りへと変わった。
熱い舌が繊細な襞に包まれた場所に触れたのだ。中心には体の内へと続く小さな入り口が
あり、敏感な粘膜が控えている。
「い、嫌、あ・・・あ、ぁ」
泰明が身を捩った。床に着いた手で夜具を握り締める。ぶるぶる震える指先が白くなるほど
力を込めて。竦ませた肩はひどく強張っていた。
「あ、あ、っ」
「泰明、ただ悶えるだけなど、私は許可していないが?」
言葉すらが刺激となった。
緩む事のない愛撫に堪えるだけで精一杯の泰明に、友雅は口淫の再開を求めた。
涙で霞む瞳を上げれば、あれだけ苦しんで仕えたというのに、果てる気配もない友雅があった。
「続けなさい。君もまんざらではないのだろう?」
目の前で切なく揺れる泰明に友雅が手のひらを這わせた。
「はうっ!」
「私のモノを咥えただけで、このようになるとは、ね」
2、3度扱いただけで、泰明の先端からは透明な雫が滲んだ。
「言うな・・・言うな!」
「仰せのままに」
友雅は、笑みを浮かべた。握り締めるのに丁度良い大きさの泰明から漏れる物を、亀頭に指を
掛けて塗り広げていく。
「んん・・・っ、離せ・・・、友、雅・・・」
「少なくとも私が満足するまで、これも楽にはなれない」
そっと包んでいただけの手に突然力が入った。
「痛っ、あああっ」
「わかっているとは思うが」
ひとしきり泰明の苦鳴を上げさせてから友雅は手を離した。じんじんと疼く場所を咄嗟に宥めよう
と泰明は腕を伸ばしたが、あっさり跳ね除けられた。
「あまり私を手こずらせるな。君をもっとひどく扱ってしまいたくなる」
秘裂に指が捻じ入れられた。
「・・・!!!」
「このように」
異物を排除しようと絡みつく肉に友雅が爪を立てた。それは一瞬の事で、泰明を傷つけはしなか
ったが、与えた衝撃は強かった。
「あ、あ・・・」
「わかっただろう?」
指に替えて今度は舌先が優しく襞をなぞる。
泰明が落とした涙が友雅の着物に吸い取られた。
何故、と思う。
ここまで乱されても、それでも彼を拒めないのだ。
泰明は唇を開き、友雅を咥えた。
「そう、良い子だ」
ぎこちないばかりなのだが、必死になっているのがわかる。指先で弾いただけで達ってしまうほど
追い詰められているそれが泰明の内面を表していた。
さりげなく昇りつめるのを友雅は遮っている。
この苦しみから解放されたければ、友雅の求めに応じなければならないのだから。
「だから、ご褒美をあげよう。君に」
友雅が枕元に置いてある固い笏に手を伸ばした。

緋炎よりハードになるかもしれない、友泰冬編、「蒼氷1」です。冬が終わる前には完結
させたい物です。