何時の間にか、うとうととしていたらしい。水無月に入った頃より、体がだるく、浅い眠りばかりを
繰り返していた。
それが疲労となっていたのだろう。
永泉がはっと目を覚ましたのは、泰継が筆を置いた音によってだった。
開け放った窓からはうんざりするほど生ぬるく淀んだ風が入ってくるばかり。しかし、閉め切ると
蒸し暑さが際立つせいで、嫌でも開いておかなければならないのだ。
鉛のように重い我が身に、永泉は溜息を吐いた。
「もう、書き物は終わりましたか?」
手習いの文机の前に正座した泰継が顔を上げ、じっと永泉を見つめていた。
「・・・永泉」
「はい、何でしょう」
「顔色が悪い」
「そうですか? 何時もと変わりはしないと思うのですが・・・」
泰継の真っ直ぐした視線は、心の内を暴いてくるようで、永泉は居心地悪さを感じた。
瞳を合わせている事が出来ずに目を逸らせる。目覚めたばかりのこの脆弱な魂に屈服した
などと、認めたくない永泉があえて冷たく言葉を紡ぐ。
全てを覆い隠すように。
「あなたに、私を気遣う余裕がおありとは」
長い袂を口に寄せて、くくっと笑った永泉が立ち上がった。
「見せなさい」
「あ、・・・まだ・・・」
戸惑う泰継を制して、卓上の紙を取り上げる。上手いとはお世辞にも言えない文字がその半分
ほどを埋めていた。
「こちらのを3回、写し終えるまで取って差し上げはしない、と私は言わなかったですか?」
永泉が流れるままにしてある泰継の髪を掴んで上向かせた。
「それとも、小さな玩具くらいでは、つまらないですか?」
強引に華奢な身体を床へと引き据える。
「止め・・・っ!」
体格こそ永泉より大きいものの、泰継は未だどう抵抗して良いかがわからないのだ。
「離せ! 永泉!!」
手をかけた泰継の着物は汗ばんで薄く濡れていた。
「おや、ずいぶん熱を帯びておいでですね」
裾を割って剥き出しにさせた肌は、常の白さが体内から滲む紅に彩られていた。
「感じているのですか?」
「違う、」
泰継は唇を噛んだ。
「何が、どう違うと?」
脚を大きく開かせ、間に身を割り入れた永泉がにっと笑みを浮かべた。
腿に沿って這い上がった指が、泰継の秘められた部分に到達する。軽く撫ぜるように掠めて
から、永泉は掌で小さな高ぶりを握り締めた。
「ああ、うっ!!」
突き抜けた痛みに泰継が顔を顰めた。
「ほら、熱くなっている」
ゆるゆると扱いてやると、切ない喘ぎが漏れ出した。
「う・・・あ、あ、嫌だ・・・」
強制的に与えられる快楽は苦痛に等しい。それは肉体にではなく、精神により大きなダメージ
を加える。
永泉の瞳は冷めているのに、自分だけがこうして乱されてしまう。・・・時親の抱き方の、そうだ。
彼らは何処か・・・似ている。
空いた指が泰継の秘裂を探った。朝、一条の屋敷を訪れた永泉と、屋敷の主時親によって埋め込ま
された玉が咥えさせた指先に触れた。
「突いても動かぬほど、お気に召しているようですね・・・」
蠢く指の振動が、敏感な粘膜をざわめかせた。絡みつく肉を楽しんだ永泉が、突然指を引き抜く。
擦られる衝撃に泰継から掠れた叫びが溢れた。
細い脚を永泉はぐっと折り曲げさせる。
「このままで・・・」
あてがわれたモノに泰継がひどく強張った。未だ玉は体内にあるというのに!
「嫌だ! 永泉、嫌−−−あああっ!」
穿たれた瞬間の激痛は泰継の言葉を奪った。
慣れぬ華奢な体に容赦なく楔が打ち込まれる度、背を駆け上がる痛みが脳に突き刺さった。
「ああっ、あぁ、あ」
見開かれた瞳から涙が溢れた。濃い睫に絡まった雫が、目じりから頬を滑り髪の中へと消えていく。
温かな泰継に全てを埋めた永泉が泣く泰継を見下ろした。
「あの方はも、涙をたくさん流された・・・」
指が泰継の流した涙を拭った。
「でも・・・」
「止め、ろ。誰の事を、うぅっ」
震える泰継の手が永泉の袖を掴んだ。
永泉が、他者を思うのが辛かった。そうだ。彼は何時も、泰継の知らない存在と自分を重ねている。
「・・・永泉」
「そうですね。もういない方など・・・」
俯いた永泉の表情が翳える。それも束の間。ふっと顔を仰け反らせた永泉が再び泰継に向き直った
時は、変わらぬ笑みだけがあった。
「あなたが私を気遣うなどとは、笑止な」
「永泉!!」
より深く押し込んだ玉ごと泰継を嬲る動きが再開された。


泰継が失った意識を浮上させた時には、既に永泉の姿はなかった。
縁から、しとしとと重く降る雨が見えた。
全てを暗く淀ませるそれは、止む気配など微塵もなく・・・。
高い塀に囲まれた安倍の屋敷の敷地内にいても、京が瘴気に満たされているのが感じられた

久しぶりの薫風。話が少し飛んでいますね(汗)