ひたひたと、しかし確かな実感を持って水は満ちていく。
「あ・・・あっ」
岩に縋りついた指が自身の重さに耐えきれなくなった。元より全身の消耗が激しい。
崩れた泰明が水に沈んだ。
「・・・!!」
もがいて一度は水面に顔を上げたものの、波打った水が気道に入り込み、咽る苦しみが
増しただけだった。
濡れてしまうと、手が岩肌を滑るばかりで掴まる事など出来なかった。
緑がかるほど薄い色をした髪が水に広がった。夜の闇を吸い、それは黒々とさえ見えた。
「助け・・・」
唇が微かな言葉を刻む。
星明りに、水が輝いた。
それだけが光源のはずだった場所に、ふいに一つ朧な光が灯った。
何物の気配もない。
ただ、一つだけ。
水に沈む泰明を照らし、見つめている。


「−−−−−−!!」
泰明の意識は突然覚醒した。
全身が汗に濡れる不快感に顔を顰めつつ、瞳を開く。映った物は見慣れた天井。
物の少ない殺風景な部屋。
泰明自身に与えられた場所だった。
では今までの事は全て夢だったのか? あの水の感触の生々しさも。安堵が湧いたが、納得
しきれない部分もあった。
泰明は夢を見た記憶があまりなかったから。
夢見は陰陽師の重要な務めではあるが、人の話を聞くばかりで自身はほとんど経験がない。
全くといって良いほど。
わからない」
混乱する頭の中を持て余し、泰明はごろりと寝返りを打とうとした。
「・・・?」
脚が異様に重くだるかった。
本当に自分の体の一部かと思うほど、両足は痺れている。
「夢では・・・なかったと・・・」
悪寒がした泰明が肩を抱いた。
しでかした失態と、与えられた罰という名の責め。友雅の意図がわからぬまま、泰明は
それを負った。
夢という妄想ではなく、現実なのだとしたら泰明が師の屋敷に戻されるはずもない。
腕の間に伏せたまま、視線を覗かせ周囲を探る。
「君の部屋に似せたのだが?」
ふいに声が掛けられて、泰明がびくりと震えた。
「何時からそこに・・・」
「ずっと。君が目を覚ます前から」
脇息に身を預けたともが面白そうに笑みを浮かべた。
「君の心が少しでも落ち着くように用意したのだが、気に入ってもらえたかな?」
「私を惑わして楽しいか?」
泰明の問いに、さてと友雅が首を傾げた。
「どうかな。実は私自身にもわからないのだよ」
近づいたともが泰明の上に覆い被さった。腕を押さえられても、泰明はじっとしていた。
「抵抗があると思ったが・・・」
「これも私の咎だ・・・違うか?」
「結構。君はどこまで大人しくしていられるだろうね」
首筋に口付けされた泰明が小さく震えた。組み敷く華奢な体が強張るのを楽しみながら
友雅が肌蹴た夜着の間に手を差し入れた。
「な・・・」
泰明は本能的に友雅を退けようと広い胸を両手で押した。
「大人しくしていると、言わなかったかい?」
色の薄い泰明の瞳が見開かれ・・・そして切なく顰められた。
晒していく白い肌が内より起こる紅に染まっていた。熱く火照った皮膚に指を走らせ、悪戯に
友雅が乳首を摘み上げる。
「は・・・っ!!」
ぐぐっと泰明が撓った。
体lはだるく疲労を残しているというのに、感覚だけは研ぎ澄まされたように鋭敏だった。
「あ・・・あ・・・嫌だ・・・」
「まだこれくらいで」
友雅が指で弄る場所に唇を落とした。
「ねを上げてしまってはつまらない」
帯を残し、裾を割り広げた友雅が細い脚を肩の方へと抱え上げた。二つ折りにされる苦しさ
に喘ぐ間もなく、突き刺さった視線に泰明が顔を背けた。
「こんなに奥まで他人の目に晒すのは初めての経験かい?」
岩に繋がれていた時でもこのように恥ずべき姿ではなかった。無防備に背を向け、友雅に
嬲られていても、尚。
瞳を閉じたまま、泰明は答えられるはずもない質問に唇を噛み締めた。
「だから、そうして固く目を閉じて現実を否定する」
枕もとから友雅が香油を入れた合わせ貝を取り上げた。
「どんなに目を瞑ったところで・・・現実がなくなるわけでもないのに」
突然剥き出しの秘所に指が触れて堪えきれずに泰明が瞳を開けた。
「君がした事も・・・。そう・・・目をきちんと開いて現実を見なさい」
香油を絡めた指先は何度か小さな入り口を撫ぜた後、ぐっと潜り込んだ。
「あああっ」
泰明が跳ねた。
「我慢しなさい。少しだけ・・・」
「・・・い、や・・・」
「すぐに悦くなる」
友雅がさらに指を深く沈めた。

・・・友雅、言葉責め・・・。

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