永泉が重ね合わさせた泰継の手首を絹で縛めた。柔らかい肌触り。それは皮膚を傷つける
事なく、食い込む痛みだけを与えるのに適していた。

「あ・・・」
反射的に泰継は腕を引きかけたが、既に絹は幾重にも絡みついていた。
自由を奪われた事に不安がわく。手が使えなければ物に触れたり、危険を退けたりも
出来ないのだ。
「怖いですか?」
小さく震える指先を永泉が突いた。
「んくっ!」
「大丈夫です。落ち着いて・・・あなたに危害を加えるわけではないのですから」
背後から抱きしめ、白い項に口付けながら永泉は囁いた。吐息の生温かさに、漣にも似た
怯えが泰継に浮かんだ。
「懐かしいですね」
永泉の髪が泰継を擽った。
「本当に、懐かしい。またこの肌に手をかける事が出来るなどと・・・」
言葉に恍惚とした響きが混ざった。首筋にある永泉の唇。彼の命はすぐ近くにあるのに、
心は別の場所にある。
ふいに泰継は悲しさに似た怒りを覚えた。
「私は泰継だ」
「・・・そうでしたね」
「は、ああっ!」
いきなり永泉に胸に赤く咲く二つの実を摘み上げられ、泰継が仰け反った。嫌だと、首を
振る間もなく、摘んだ指先で擦り合わせられるとぞくりと痺れが走り抜けた。
「や・・・何・・・」
「気持ち良いですか?」
ふふ、と永泉は笑った。
「まずは快楽を教えてあげましょう。蕩けてしまうほどの」
「嫌、だ、離せ・・・」
「もっときつく縛りましょうか? この部屋はそう出来るように造られているのですよ」
驚いた泰継が硬直するのを、抱く腕で永泉は感じた。
「あなたが目覚めた部屋を・・・よく見てごらんなさい」
永泉が示した先には、床に穿たれた杭があった。
「あそこに繋いでみましょうか? 天井から吊るしてみるのも一興」
「永泉・・・」
「お嫌でしたら、大人しくしていなさい。良い子には優しくしてあげます。御仏が慈悲を与える
ように」
脅しを囁いても、口調は穏やかだった。声を荒げるなど、この生まれたばかりの魂を萎縮
させるだけだ。
俯いた泰継の瞳に、自身を嬲る永泉の手が映った。
「気になりますか?」
永泉が悪戯に先端を引っ掻いた。
「あああっ」
「これは楽しい事」
やんわりと弄られて泰継が身悶えた。全身から力が抜け、震えが止まらなくなる。
「息、苦し・・・」
早鐘のように脈打つ心臓が呼吸を圧迫した。
「私に委ねて・・・与えられる事に意識を向けなさい」
「やああ・・・あ、いや、ぁ、あ・・・」
泰継が前屈みに倒れて永泉から逃れた。ずきずき疼く胸を庇って身を丸め、滲んだ涙にすすり
泣く。
そんな泰継の肩を永泉が掴んだ。
「何をしているのですか?」
無理矢理仰向かせた体の上に乗り上げ、永泉は冷たく見下ろした。
「助け・・・嫌、誰か・・・」
「一体誰が助けてくれると?」
永泉の口元は笑っているが、纏う気は決して和やかと言える物ではなかった。優しい顔立ちも
内よりわいてくる闇をとうてい覆い隠しきれてはいない。
細い体でも、上の乗られると辛い。背の敷く形となった腕がぎしぎし痛んだ。
「続けましょうか。胸を触っただけでこのように騒がれては困りますね」
泰継の唇がひゅっと鋭い音を発して戦慄いた。
「・・・ちか・・・」
漏れた言葉。
「「時親! 時親!!」
「あなたが呼ぶ彼が私に託したのです」
涙をぼろぼろ零す泰継を黙らせようと、永泉は下肢に指を這わせ形を変えつつあるモノを捉えた。
掌に収めてしまうに丁度良い大きさを楽しみ、瞬間、力の限り握り締める。
「−−−−!!」
突然の酷い痛みだった。
泰継び叫びが苦痛のあまり途切れた。
「ここにいるのは私です」
「い・・・あ・・・痛、痛い・・・止め・・・」
永泉の紫紺の髪が吹き込む風に揺れた。
「泰明殿ではなく泰継と、あなたが仰られたように、私はただ一人。時親殿をお呼びになられる
とは・・・」
強い怒りを感じた泰継が怯えた。穏やかな姿をしている永泉はこんなに激しい物を体の中に
抱えている。常は抑えられている分、表に出れば畏怖を与えずにはいかない。
・・・尤も、今の永泉を知っているのは、泰継の他には、泰明だけだった。
「優しく開いて差し上げようと思っていたのに」
青みがかった瞳が眇められた。
「全てはあなたのせい」
上体を屈めた永泉が泰継に接吻した。

・・・という事で薫風4です。しかし、これって結末まで持っていけるでしょうか。