ごわごわと肌に触れる固さに泰明は目を覚ました。
何が原因かすぐにはわからなかった。無意識に動かした手が体にかけらてている布に
気付く。
泰明は床に上に寝かされているのだ。
頭の中が少しずつ明瞭になっていく。昨夜の記憶も、また。
頼久にされた事。今まで知らなかった痛み。思い出すだけで血がざっと引いた。
それから・・・急ぎ戻るという頼久に無理矢理馬に乗せられた。二人乗りの手綱は頼久が
持ったが、裂けた傷に与えられる刺激の強さに泰明は気を失ってしまった。
新たな外傷一つないのは、頼久に支え助けられたせいだろう。馬上で失神などすれば、
落馬して怪我をするのが当たり前だ。下手をすれば命さえ無くしてしまう。
泰明は溜め息を吐いた。
身じろぐだけで痛い体を宥めながら起き上がった。夜着ではない普通の着物をつけたままの
姿にされているのは武士の習いだろうか。何時いかなる事にも対処出来るようにと。
その証拠に泰明の横にはすぐに取れるよう、剣が置いてあった。
歩ける事を確認し、泰明は初夏の日差しに満ちた縁へ出た。
「頼久」
庭で黙々と木刀を振るっていた頼久が呼びかける声に振り向いた。
泰明の姿を見て一瞬優しく瞳が和んだが、すぐに元に戻った。
「私もそこに行く」
可とも否とも答えない頼久に構わず、泰明は下に降りた。受けた傷など何でもない事だと
装いながら彼の前に立ち手を差し出す。
「木刀を」
「何を言って・・・」
「体を強くしなければ私など、役に立たない。おまえがする事をやる」
今日になっても武士になりたいという泰明の気持ちは変わらないようだ。つい肩を竦めたくなる
のを頼久は堪えた。
「出来るわけがない」
「何故だ?」
「よくわかっているはずでしょう」
頑な泰明の肩を引き寄せて胸に抱いた。華奢な身体がびくっと強張るのがわかる。
「怖いですか?」
腰に回した手を滑らせ、頼久が袴の上から秘所を擦った。
「−−−−!!」
仰のいた顔の、瞳が見開かれている。ひどい痛みが背を突き抜け、悲鳴を殺す為か、唇は
戦慄いていた。
「わかりましたか?」
「うう・・・」
泰明が頼久の着物を掴んだ。
「い、痛、頼久、ああ・・・」
「どこが痛いのですか?」
探る指を止めずに頼久が尋ねた。弄られる度に泰明が腕の中で跳ね上がる。
「私の尻・・・おまえが、触っている・・・」
「どうして?」
答えるまで許す気はないとばかりに頼久の指は布ごと泰明の粘膜を割ろうとした。
「ひあ、あううっ! 嫌・・・っ」
腰を抱かれて逃げる事も出来ず、泰明は涙を流した。
「言いなさい」
「おまえが・・・おまえがしたのではないか! 私を引き裂いて・・・」
「小者を務めをさせただけです。ひどい事をさせたと思いますか?」
ようやく指は離れたが、疼く痛みが残った。
「は・・・く、っ、うう・・・っ」
「衣に血がついています。鍛錬が出来ないのなら、洗濯でもしていなさい」
離された泰明は膝をついてしまわないよう、体に力を入れなければならなかった。それが新たな
痛みを呼び、苦しめる。
「傷が癒えればいくらでも鍛えてあげましょう。あそこも慣れれば裂ける事もなくなる」
泰明は驚いて顔を上げた。
「あのような事を・・・またするというのか・・・っ」
考えただけで恐怖に包まれた。着物を握った指が震えているのを見て、思わず頼久は微笑んだ。
「離しなさい」
「本当なのか・・・」
「勿論、私の下にある限り」
去って行く頼久に悟られまいと、涙を拭った泰明に、空を飛ぶ鳥の影が落ちた。

ちょっと短かめです。次回完結