当然のように永泉は下肢を見せるよう命じた。
先日薬を与えてから五日の後の事である。蛤の内側に詰めた薬は決して多くは
なく、泰明が再び訪れる事はわかっていた。
「もっと早くお顔を見せて頂けると思っていましたが・・・」
教えた通りに使えば三日ほどしかもたない量だったのだから。
「貝もお出し下さい」
「それは・・・」
泰明が戸惑いを浮かべた。下履きを落としたものの、長い裾を持ち上げて身を晒す
羞恥に動きは止まってし
ついと首を傾げた永泉は手を伸ばし、襟元から覗く貝を取り上げた。繊細な絵が
小さな表面に描かれている。それが差し込む陽の光を反射させた。
「永泉っ!」
叫ぶ泰明を横目にしながら、永泉が合わせを開いた。
中にはいくらも減ってはいない薬があった。
「どういう事ですか? 泰明殿は私に薬をお求めになられたのでしょう?」
永泉は冷ややかに尋ねた。
「自分でなど・・・出来ぬ」
俯いたままで泰明は呟いた。一度は蓋を取ったのだ。しかし自身で身を屈め、秘所
に指を入れる事などとても出来なかった。
「では放置したままですか?」
「そうだ」
脇に垂れた手が固く握られていた。小刻みに震えているのは永泉の気のせいでは
ないだろう。
「私にまたしてもらいたい・・・?」
くすりと永泉が笑った。
「ここにまたおいでになられたのですから、勿論そうお望みなのでしょう?」
優雅な絹をさばいて立ちあがり、永泉は泰明の華奢な肩に腕を回した。紅を差した
ように赤い唇が触れ合うほどに寄せられる。
「永泉・・・」
「そう、ですよね。さあ、膝を着いて下さい」
「・・・わかった」
以外に素直に従った泰明の背を永泉が撫ぜた。
前と同じく突っ伏させ、裾を上げる。
「く・・・っ」
伏せた泰明から屈辱のうめきが漏れた。
冷たい手が触れてくる。紫がかった瞳がじっと見つめているのがわかって、泰明は
いたたまれなくなった。
「傷は目立たなくなっていますね。自然治癒されてきているようです。ずいぶん早い
ようですが、体質でしょうか」
入り口の襞を指先が擦った。
「嫌・・・、あっ」
ふいに肉を割られて上ずった制止を泰明が口にした。
「中を診ないとわかりませんから」
根元まで捩じ入れ、ぐるりと熱い粘膜を掻きまわす。
癒えきっていない傷を抱え、泰明の内部は炎のように熱かった。
優しい口元が静かな笑みを刻んだ。それは泰明から見えるはずもなかったが・・・。
「痛い場所はありますか?」
「この前ほどではない」
「それは良かったですね。では私にお付き合い出来ますね。少し知りたかった事が
あったのです」
探る動きはそのままに、永泉が囁いた。時折悪戯に柔らかな壁に爪を当てる。その度
に走るぴりっとした痛みに泰明は顔を顰めた。
「もう、指を抜け。おまえの言う事はきくから・・・」
「ありがとうございます」
嬉しそうな声が上から降ってきた。
「だから・・・服を直させろ」
「駄目です」
「何故・・・っ」
翻しかけた体を永泉が押さえる事で制した。
「だって私は泰明殿の中をもっと知りたいのです。でも指では無理ですから抜いては
差し上げます。望みを聞いて下さると泰明殿が言われたのですよ?」
首筋に空いた手を這わせ、顔を振り向かせる。青ざめているせいか、肌の白さが際
立っていた。
不思議な煌きを放つ瞳が不安気に揺れていたが、視線が絡まった事でふいと逸らさ
れてしまった。
「ひどい事はしません。人の体に私は少し興味があるのです。それを満たして下さい」
震える睫毛に触れ、そこだけが火照る頬を擽る。
「約束を違えて逃げるような事をされるとは思えませんが・・・予防を張りましょうか」
軽く考え込んだ後、永泉が泰明の未だ解かれていない帯の結び目を引いた。下肢
だけを晒すだけならば、帯を外す必要ななかったから、かっちり締められたままだった
のだ。
「・・・!」
締めを失って襟がはらりとはだけた。
「帯を預かります。留めを失った衣装で表に出るわけにはいきませんね」
くるくると小さく結んで永泉は長い袂に帯を隠してしまった。
「道具を用意します。すぐに出来ますので、無駄な事をあまりお考えになりませぬ
よう」
背を向けた永泉の姿を泰明は目で追った。
いくつかある厨子の一つに永泉が近づく。そこには鍵が掛けられていて、念の入った
仕舞われ方をしていた。
「これが・・・良いですね。無理があまりかからないでしょう」
呟きとともに、薄紅の絹で包まれた道具を取り出された。

 終わらなかったです・・・。
 純粋に永泉のお遊びで一回分を取ってみたくなったのです。
 今度こそ、次で終わらせます。このままでは折角今回少し黒から脱却した永泉がまた黒に
 戻ってしまいそうなので・・・。