降り注ぐ月の光を浴びて、泰明は縁に座っていた。植えられた木々の間を
渡る風が秋の冷たさを乗せて、火照った肌を嬲る。
緩く身につけただけの夜着から覗く皮膚は桃色に上気していた。
湯を使った名残を払おうと、こうして体を秋風に晒していても、こもった熱は
容易に去ってはくれなかった。
垂らしていた足を片方だけ持ち上げ、膝を抱く。裾が割れて直に風が脚の
付け根に触れ、泰明が竦んだ。
そこんは炎が存在する。体を洗浄された時、晴明の手に包まれて高ぶら
されたのだが、達かせてもらえなかったのだ。
鼓動に合わせてずきずきと鈍く痛む。
「は・・・」
溜め息が漏れた。
泰明は自ら処理するという事を知らない。浮遊感を覚えるほどの快楽を伴う
解放へと導くのは、何時も他者の手であり、唇だったからだ。
しかし・・・泰明の頭が動いた。
その他者は、泰明の手や唇をさして必要としないのだ。彼らが求めるのは
もっと別の場所・・・与えられた快感も吹き飛んでしまうほど痛い所である。
泣き叫んで赦しを乞うても突き入れられられた。
手と唇で充分満たされる泰明にとって、何故そこが必要なのかがわからな
かった。
あるいはもっと大きな快さがあるのかもしれない・・・考えてみても未知の事、
答えが得られるはずもなく、また熱く息を吐いた。
今はこの熱を鎮めて欲しかった。
晴明が来る気配もないのに焦れて、泰明は立ち上がり、自ら赴く事にした。
師ならこの疑問を解決してくれるだろうか?


頼久は突然訪れた泰明に驚きはしたが、部屋に迎え入れた。藤姫の館内の
別棟に住まう彼の居場所は、見事なまでに物がなかった。
泰明が不思議そうに見回すのに、命じられれば何処でも行かなければならない
武士に私有物などいりはしないと告げる。
「そうなのか。師も私も呪具の他はあまりないが・・・」
人の部屋を眺め渡す無作法に気付いたのか、正座した姿勢で真直ぐ顔を上げた。
「茶でもいかがですか?」
「いや。今日は尋ねたい事があって来たのだ」
「私に、ですか?」
常に身分を気にする頼久は、従7位という下位の泰明に対しても腰が低い。
戸口に近い下座に膝をついたままなのだ。
「抱くとは何なのだ」
「いきなり何を・・・?」
「おまえしか聞ける者が思いつかなかった。他の八葉は望んで私に手を出す・・・
だから尋ねられはしない」
軽く瞳を見開いたが、頼久は自分を頼って来た泰明をむげには出来なかった。
「知っているか?」
泰明は真剣そのものの顔をしていた。
「私にはわからない。師も教えてはくれなかった。だから・・・、抱けばどうなる
のだ?」
「お待ちを、泰明殿」
手を上げて頼久が制した。
「・・・わからないのか」
目に見えて泰明が落胆した。それがあまりにも顕著だったので、頼久の方がうろ
たえた。
「詳しくは知らないのですが。無常の快感を得る為ではないかと」
「だからどうしてだ」
「人を交わる事自体だと思います」
「・・・だから何故、それが快感なのだ」
堂々巡りになっている事をお互いわかっているのだろうか。
泰明の知る快楽とは違うようだから・・・はっきりと答えない頼久に苛立ちが募った。
「おまえも、無理なのか」
「選択を誤ったのだから仕方がない」
項垂れた泰明を宥めようと、立ち上がりかけた頼久の背後で扉が開いた。
「友雅か。何用だ」
「おやおや。君がここの主なのかい?」
肩を一つ竦めた友雅だったが、当たり前のように入り込んで来た。
「選択の謝りとはどういう事だ?」
色の違う二つの瞳がひた、と友雅を見つめた。
「頼久は、抱く方ではなく抱かれる方だからね」
「友雅殿!」
上擦った声を立てる頼久の背を押さえつけ、床に手をつかせる。きつく結わえた
紫紺の髪が、大きく波打った。
「私が君を抱くように。だからこの頼久には言葉ではなく、体に尋ねるべきかな?」
ふふ、と友雅が笑う。
「お止め、下さい・・・」
もがく頼久の腕を後ろ手に捩り、苦鳴を漏らさせた。
「泰明、その箱を開けると縄が入っている。持ってきなさい」
動こうとしない泰明に再びきつく命じる。
「抱くといい」
「あ・・・」
「疑問を解決したいのだろう?」
泰明がぴく、と反応した。
「答えは知りたい。だが、頼久は嫌がっている」
「では、嫌がらなければ構わない?」
背中から回した手で、引き裂くばかりに頼久の着物を寛げる。
「友、雅・・・」
しなやかに動く友雅の指が、すいと細い筋肉を纏う胸板を滑った。
「ん・・・」
頼久から漏れた声音に、泰明が信じられない思いで凝視した。
「君だって同じだよ」
泰明に見せつけながら、焦らす事もせず、性急に頼久に熱を灯していく。
「苦しそうだろう? こちらに来て触って、愛撫してやりなさい」
とろりと渦巻き澱み出した空気に導かれたのか、泰明がおずおずと近付いた。
「さあ・・・」
今一度泰明は友雅を見上げ、それから熱い体に手を当てた。
「ああ、あ・・・」
上半身を嬲られていて注意がそこばかりに向いていた頼久は、意外な所から触れ
られて、ひっと仰け反った。
「な・・・っ、嫌だ、どうか、お二人とも・・・っ!」
「煩い。君だって泰明に答えてあげたいと考えていただろう?」
乳首を捩り上げ、苦痛に頼久を身悶えさせながら、友雅は泰明を見やる。 
「いきなり下に愛撫の手を出すな。君がするのは奉仕ではない」
友雅が屈みかけた泰明を留めた。
「誰もが感じる場所だけが性感帯ではない。例えば・・・」
頼久の首筋をすっと撫ぜる。
「んんんっ!」
「ここや・・・」
滑らせてわき腹へ。
「感じさせるほど、君の主導権は強くなる。痛みを与えた後で行えば効果はてき面だ」
「・・・熱いな」
「まだこんな物じゃないよ」
「止め・・・」
半ばずり落とされた服を踏みしめる足が滑り、友雅に倒れかかる。
「本当に大事ないのか」
「正確に言えば、そうじゃないかも知れないかもね。ほら」
友雅が下肢を剥いだ。
「ああっ」
何とかして友雅を離そうと頼久が暴れる。
「どうか、もう・・・」
剥き出しにされた頼久のそこが、大きく立ち上がっていて、泰明は驚いた。
「こんな風にされて感じているのだよ。私達に愛撫されてね」
「・・・手で気持良くなるのはわかる」
泰明が何時もされている事だ。
「だが、今君に必要なのはここではないだろう?」
足を抱え上げ、奥まった場所を泰明に見せ
つける。小麦色の肌の狭間が、脚を開か
される事で浅くなり、窄まった蕾が露になる。
「友雅殿、そこは・・・っ」
「目を逸らすな泰明」
「う・・・あっ。見ないで下さ・・・」
固く閉じあわされた頼久の瞳から涙が流れた。
「頼久の口に君の指を入れて湿らせなさい。いきなりでは痛いって事、君ならわかる
だろう?」
乾いた場所を抉じ開けられる痛みを泰明は思い出した。
「濡らしたとしても痛いのだ・・・」
「仕方ない子だ。抱くという事を知りたがったくせに」
友雅が腕を伸ばし、泰明の手を取った。そのまま、自身の唇に含み指を舌先で嬲る。
「あ・・・っ」
「君が感じてどうする」
唾液を絡めさせた指を頼久の秘所へと誘いながら、友雅が笑んだ。
ひくひくと蠢く裂け目に爪が触れた泰明は、反射的に友雅を振り払った。
「私には無理だ」
「泰明?」
「例え内面がどうであれ、辛そうにしている者を使って、悦くなる事など」
首を振った泰明の方が涙を浮かべかけていた。
「止めてくれ・・・。頼久を、離せ」
「断る」
「お願いだ。友雅」
「堪えられないなら帰るといい。庇護してくれる者の所に」
これみよがしに友雅が頼久の耳を噛み、小さな叫びを引き出した。
見ている事も、これ以上頼久を嬲る事に荷担する事も出来なかった。泰明にとって、
そこを使うというのは、快楽への好奇心より、痛みへの恐怖の方が大きいからだ。
「失礼する」
挨拶もそこそこに泰明は、部屋を飛び出した。


「相変わらず、泰明は子供だと思わないか?」
友雅が囁いた。
「こんなになってしまったら、最後までしてやるのが本当の情けだという事がわかって
いない」
共同参加者がいなくなったせいで、頼久を起こしておく必要がなくなった。
「這え。獣のように」
力ずくで床に押さえ、貫くべく友雅が着物を寛げた。

これは8/18に紫宸殿さんで行われたCHATの内容を元に書いてあります。
なので、これは中森馨子様、宮薇レイカ様に捧げさせて頂きます。
泰明を主人公にしてあるので、頼久サイドとかあったら嬉しいなあ。
レイカ様、いかがです?(すごく期待してます)