太乙の指がテーブルの脚を撫ぜた。
       「濡れて色が変わっている。こんなにも入っていたんだ」
         くちゅりと淫らな音。楊ゼンは堪えられずに顔を背けた。
       「少しの時間だったのに熱い・・・君の中は炎でも宿しているみたいだ」
       「どこまで僕を嬲るのですか・・・っ!」
         楊ゼンが悔しげに太乙を睨んだ。
       「私の気が済むまで」
         起き上がりかけた楊ゼンを床に組み敷く。
       「ほら、その表情が可愛い。感じているのに、必死で我慢して。倒れるまで放っておいた
       方が良かったかな? 全然満足していないだろう? もう一回やるかい?」
       「や・・・っ、太乙様っ」
       「湯を使っておいで。君の体、香油の匂いがきつい」
       「あなたが入れたくせに」
         楊ゼンに挿入する前、太乙はテーブルの脚に香油を塗りつけたのだ。
       「何もないよりは良かったはずだけど。私の優しさだよ。乾いた所を穿って捩じ込まれるのは
       痛いからね」
       「あなたなんて・・・」
         楊ゼンが拳を握り締めた。
       「私が?」
         返事をせず、楊ゼンは踵を返した。
       「こまっしゃくれた子供だけど、苛めがいがある」
         テーブルを元に戻し、太乙は散らばった物を片付けた。手早く終わらせると、ベッド脇に
       置かれた電話に手を伸ばす。
       「もしもし・・・」


       「どうして・・・っ!」
         楊ゼンは後退さった。
         太乙の部屋に、漆黒の闇を思わせる長身が一つ。
         西域産の茶の香りがふわりと漂っている。テーブルについている太乙が片手を上げた。
       「おまえの具合が悪いから迎えに来いと連絡があった。よほど悪いのかと思ったが」
         玉鼎が歩み寄った。長い指が天空を映した髪に触れる。
       「湯を?」
       「気分をさっぱりさせようと・・・」
       「そうか」
         見つめてくる視線に、楊ゼンは自分が襦袢一枚の姿のままだったのに気づいた。
         太乙が用意してくれたものだが、下着に等しいなりでうろついた事を咎められている
       ようだ。
       「おまえくらいの時に太乙が着ていた物だ」
         纏っていた上着を玉鼎は掛けてやった。
       「私は物持ちがいいだろう?」
       「何故楊ゼンがこのような格好をしているのか説明しろ、太乙」
       「私が?」
         オーバーに太乙が肩を上げて見せる。
       「出かける前の楊ゼンに変わった所はなっかたが」
       「理由はこの子に訊くべきだよ。今回は」44
         後ろから楊ゼンの体に腕を回して抱き、前髪を掻き上げる。ふいうちの行動のせいで、
       楊ゼンは抵抗が遅れ、されるままになってしまった。
         襦袢の襟が寛げられる。
       「止めて下さい!」
         楊ゼンの叫びを無視して、大きく胸元をはだけさせた。
       「何もない。君がつけたの以外はね。楊ゼンは君に顔向け出来ない事はしていないよ・・・ねえ」
         赤くぷっくりした乳首を捻ると、楊ゼンがびくりと身を竦めた。
       「だから連れて帰ってくれる? 勉強は終わってるから」
         楊ゼンを解放し、その背を玉鼎の方へ押した。
       「否、まだだ。楊ゼン、襦袢を脱いでテーブルの上に這いなさい」
       「私の言った事を信じていないのかな?」
       「おまえには偽りがある」
       「やっぱりわかった?」
         太乙は舌を出した。
       「玉鼎に隠し事は出来ないなあ。楊ゼン、言われた通りにした方がいいんじゃない?」
       「嫌です。こんな所で」
         陽の光が明るく差し込む室内で、全てを曝すなんて!
       「打たれたいのか?」
         冷たい玉鼎の言葉に、楊ゼンがいやいやと首を振った。
       「疚しい事がなければ出来るはずだ」
         声が更に険しくなった。
       「許して下さい、師匠・・・」
         膝を付き、楊ゼンが頭を垂れた。
       「私はおまえと太乙に起こった事を知らない」
         楊ゼンを立たせ、半ば抱えるように無理矢理テーブルに上げてしまう。
         反対側に回った太乙が、道服の袖で、楊ゼンの顔を隠してやった。
       「じっとしておいで」
         顔は隠されても、下半身は襦袢を捲くられ、剥き出しにされているのだ。
         二人の前に曝している恥ずかしさに、楊ゼンから嗚咽が漏れた。
         玉鼎の爪先が触れる。
       「ひ・・・っ」
         とたんに跳ねる体を、太乙が肩から押さえつけた。
         入口は、先ほど含まされた事を忘れたくらい、固く口を閉ざしていた。見える限りでは、
       何の変化もなかった。
         しかし、内部までは回復しきれていない。慎ましい楊ゼンの唇は、今、熱く蕩けて玉鼎の
       指を包んでいる。
       「何を挿れた?」
       「楊ゼンが乗っかっている物の脚、プラスちょっと切なくなる薬を混ぜた香油」 
       「原因は?」         

         指を増やしながら玉鼎が尋ねた。充分に潤っていた内部につられるように、楊ゼンの蕾は
       綻び始めていた。
       「ふうん、玉鼎が相手だとこんなに早いんだ。彼の指が嬉しいかい?」
         隠れている楊ゼンの耳元に囁く。
       「・・・太乙」
       「本当に、楊ゼンに尋ねるといい。確かに苛めたけど、私が悪いわけじゃない」
         玉鼎の眉が顰められた。
       「楊ゼンが?」
       「そうだよ。だからわざわざ私の前で楊ゼンに手をかけても、平気なんだ」
         指を引き抜き、玉鼎は楊ゼンを起こした。そのまま膝に座らせる。
       「あーあ、涙でぐしゃぐしゃになって」
         しゃくりあげている楊ゼンの顔を、太乙が拭いてやる。
       「私はもう怒ってないし、この子を抱いたのでもないんだから、許してやってくれないか?」 
         玉鼎が溜息を吐いた。
       「二人とも理由を言わないのでは、仕方ないではないか」 
         温くなった茶を取り上げ、落ち着かせる為に、一口二口楊ゼンに含ませた。
       「んん・・・」
         溢れた液体が、顎を伝って流れ落ちる。
         さりげなく太乙が棚を示した。
         それで玉鼎は理解した。
       「悪戯な、悪い子だ」
         玉鼎が苦笑して、震えを残す体を抱きしめた。
       「だけど、大事な子供、だろう?」
         唇をつんと太乙は尖らせた。