足に直接触れた雪は、予想していたよりもずっと冷たかった。扉の外へ一歩踏み出した
だけで動かなくなった楊ゼンを、普賢が蹴った。
「ああっ!」
楊ゼンはよろめき、戸外に押し出されてしまった。
「冷たい?」
にっこり普賢が笑む。空色の瞳が面白そうに楊ゼンを見下ろしていた。
普賢はすいとしゃがみ、地に這った楊ゼンの手を取った。温かい吐息が吹きかけられる。
「ふふっ、ちょっとはまし? ねえ、あの木の下に行こうよ。葉を落してないから、下には雪もないし」
獣を扱うように楊ゼンを追い立てる。言う事を聞かせるのは、体内に突き刺した棒である。
寒さに赤くなって悴んだ手足を庇って楊ゼンが蹲った。濡れた指は雪と同じくらい冷たい。
這っている楊ゼンに、普賢が手を掛けた。
「嫌! 何を・・・」
「棒、抜いてあげる。薬入れられないからね」
「あああっ」
一息に身の内を埋める物が引き抜かれた。衝撃に楊ゼンが背を撓らせて、悶えた。
「はあっ、はあ・・・」
荒い呼吸を吐く楊ゼンを押さえながら、普賢は棒を投げ捨てた。
「・・・離して」
「僕にただ働きさせるの?」
普賢は心外そうに首を傾げた。そんな彼に抵抗し、何とか体を起こそうと楊ゼンはした。
「這ってないと、薬入らないでしょ? ・・・うーん、逆さに吊るしてやってもいいんだけど・・・」
僕が疲れるんだよね、と普賢は言い、足であちこち楊ゼンに触れた。
「ああ、反抗的でじれったい」
地団を踏んだ普賢だったが、ふと思い出して、持っていた袋から小さなカメラを取り出した。
カシャッという音に、楊ゼンが驚いて顔を上げる。
「普賢、様・・・」
「地上での新製品なんだって。こんなに小さいのにちゃんとポラロイド」
翳された写真に、裸で惨めな姿の自身がいて、楊ゼンが羞恥に身を染めた。
「返して下さい!」
「僕の言う事聞かないのに?」
ひらひらと写真を振って見せる。
「這いつくばって、薬を注入されるのと引き換え。君がしたらこれ、破ってあげる」
「あ・・・っ」
「どうする?」
体が震えた。脆い、体内を普賢は嬲るのだ。それも、楊ゼンに作らせた薬で。
「玉鼎師兄に見せちゃおうかな。こんなに淫らで、外で脱ぐほど露出狂の弟子だなんて、知らない
だろうから」
「止めてっ、それだけは・・・!」
悲痛に楊ゼンが叫んだ。
「じゃあやりなよ」
もう、拒めなかった。頑なに抗えば、普賢は躊躇いなく言った事を実行するだろうから。彼はそういう
人間だった。
再び手を付き、楊ゼンは普賢に腰を差し出した。
「最初から素直にすれば、いいのに。君は案外馬鹿だよね」
双丘に柔らかく触れられて、全身が竦んだ。細かく痙攣するように震えるのを、普賢の嘲笑が襲った。
「まだ、何もしてないよ?」
「く・・・」
涙が雪にぽたりと落ちた。
「力抜いて。指みたいに細いけど、締め上げたら、やっぱり痛いから、きっと」
針のない注射器に似た、器具の先端で、楊ゼンの蕾を突く。つい今まで異物を咥えていたのに、
慎ましく口を閉ざしている場所がひくひく蠢いた。
「色薄くって、可愛いね。処女みたい。数えきれないほどやってるはずなのに、すごいね」
「い、や−−−・・・」
散々弄ってから、つぷりと器具は潜り込んだ。
「入れるよ」
ピストンがゆっくり押されて行く。
「あ、あ、あ・・・」
注入が始まった瞬間、楊ゼンの瞳がかっと見開かれた。
「や、苦しい、ああ、止めて・・・冷たい・・・」
体内を氷のような寒さが覆った。液体は強引に飲み込まされ、渦を巻いて、腹腔に満ちていく。
「はい、終わり。たった500ml。可愛い物でしょ? 本当はリッター単位でやりたかったけど、それは別の
機会にでも」
普賢は冷たく笑い、近くの木の根に腰掛けた。
「約束だったよね」
写真を粉々に破り、風に散らす。取り合えず、楊ゼンの不安は取り除かれた。
楊ゼンは安堵し、体を起こして下肢を隠した。含まされた液体で、体が異常に重たく感じられた。
「あからさまに安心した顔して。気に入らないなあ。何時まで出来るかわからないけど」
頬杖を付き、瞳を眇めて楊ゼンを見つめる。
・・・変化はさほど時を経ずに現れた。兆候は、楊ゼンの小刻みな震えからだった。
「な・・・」
楊ゼンが腹部を押さえた。
「お腹、痛い・・・」
「だろうね。じきにもっと苦しくなる」
「屋敷に・・・僕を戻して!」
「駄・目」
すいと立ち上がった普賢が、上着を結わえる帯を取り、楊ゼンの両手首を合わせて縛め、木に繋いで
しまう。痛む場所に手を宛がう事すら出来なくなって、楊ゼンが苦しげに身を捩った。
「赤ん坊みたいにみっとみない事はしないよね? プライドの高い君だから」
「嫌、やああ、痛いっ! もう、許して!」
「無理っぽい? じゃあ、漏らしちゃえば? ここには僕しかいないんだし」
漏らせ、と殊更に羞恥心を煽る物言いを普賢は選んだ。
楊ゼンの首が振られた。
「せいぜい頑張るんだね」
普賢がカメラを構えた。
「普賢様!」
信じられないと、楊ゼンが叫んだ。
「撮影会。フィルムはいっぱいあるから心配しなくてもいいよ」 
シャッターを切る音が響いた。楊ゼンの苦鳴を伴奏にして。

後、もう一回ほど!