逃げなければ、と楊ゼンは思った。普賢は危険すぎる。
幸い、ここは自分のホームグランドであり、広すぎる屋敷は楊ゼン一人隠れるのは容易い。
恐怖に震える脚で、何とか立ち上がり、扉へ向かうのを、晴れた空色の瞳がじっと見つめていた。
「それくらいで止まらないと危ないよ」
赤い小さな唇が言葉を紡いだ。
楊ゼンはそれを無視した。とたん・・・
すぱっと服の襟が裂けた。風が楊ゼンの周囲に満ち、襟の下、胸元にもうっすら赤い傷が開いた。
「君は囲まれているよ」
普賢は座ったまま、動いてはいない。
「さっき言ったでしょ? 君は僕に敵わないって。抵抗すればするほど、後の扱い、ひどくなるよ?」
凍りついた楊ゼンが振り返った。
「脱いで、服。僕、人形やぬいぐるみが服着てると、何時も取っちゃう方なんだ」
「嫌・・・・」
こんな明るい光の中で。
「何? 聞こえなかった」
「ああっ!」
楊ゼンの髪が一房はらりと切られた。
「今度はもっと下にやってみようかなあ」
くすくすくす・・・と面白そうな笑みが普賢から漏れた。
「早くやってくれない? 待たされるのは大嫌い」
顔を背け、楊ゼンは裂けた襟に手を掛けた。


白い裸身が現れ、見惚れたように普賢は近づいた。
「どうやったら、こんなきれいになれるんだろうね。僕もなりたい」
柔らかい指が胸を這った。
「く・・・」
楊ゼンの全身が鳥肌を立てた。
「動かない。手は後ろで組んでて」
無意識に普賢を拒みかけた態度を、意思で封じさせる。
すいと普賢は膝をつき、楊ゼンの脚を広げさせた。無防備に晒された、恥ずべき急所に、視線が容赦なく
当たる。
「可愛いね」
舌がちろりと舐め上げる。
「はあ・・・っ」
楊ゼンが苦悶に似た表情を浮かべた。
「僕は君とやりたいわけじゃないよ。おもちゃ相手に萌えたりはしないから、ね」
軽く嬲っただけで、普賢は離れた。
「薬室は何処? これ作って欲しいんだけど」
楊ゼンに一枚の紙片を渡す。可愛らしく整った文字が横書きに羅列していた。
目を走らせた楊ゼンが蒼ざめる。
「何処にでもある物ばかりだから、すぐ出来ると思うけど・・・。君が作るんだよ。さあ、連れて行って」
連行されるように廊下を歩かされ、薬室へと向かう。様々な薬草がきちんと棚に並べられていた。
「ふーん。他の仙の薬室って初めてだけど、あまり僕のとこと変らないなあ」
歩き回って、仔細を観察する。
「いろいろ見てるから、気にしないで、さっきの作っててくれる? 出来たら教えてね。それと分量通りにやった
方がいいよ。下手に悪知恵働かせると、君が余計に辛くなるだけだから」
玉鼎の書き記した書を手に、普賢が椅子に掛けた。
「わあ、細かい・・・けどためになる・・・」
それきり、しばらく沈黙が降りた。


渡された薬を満足そうに普賢は受け取った。
「こんな物かな。君にしては良く出来たと思うよ。試すのは別の場所で」
楊ゼンの唇にぴたりと指を当てる。
「外、行こっか」
「・・・外?」
「そう、外。今日は良い天気だし。まあ、君の素足じゃ残った雪冷たいかもしれないけど」
「外は寒いです」
拒絶を楊ゼンは口にした。普賢の意図はわからなかったが、衣服を着けないで、出るにはまだ季節が早すぎる。
「知ってるよ。でも、屋外プレイもいいんじゃない?」
靴が、楊ゼンの尻を蹴った。
「あ−−−!」
よろめいた楊ゼンが床に手をついた。
「這って行きたいの?」
普賢が小首を傾げた。
「おもちゃじゃなくてペットになりたいんだ」
「・・・普賢様、・・・」
「反抗的な目だね。そんな表情、とても嫌い」
空色の瞳が冷たく眇められた。冷たい空気が漂うのを楊ゼンは感じ、本能が恐怖に竦んだ。
「だからもっともっと押さえつけてやりたくなる」
薬草を磨り潰すのに使う、太い棒を、普賢は取り上げ、楊ゼンに突き刺した。
「あ、あああっ!」
乾いた秘所を広げられた苦痛に楊ゼンが叫んだ。冷たい鉄の感触に狭い場所がさらに竦んで収縮した。
「このまま行くんだ。ほら、ね。反抗したから扱い悪くなった」
靴先でさらにぐいぐいと押し入れながら、普賢が扉を促した。
「行きなさい」
それまで堪えていた涙が楊ゼンに浮かんだ。
「泣くにはまだ早いよ。君に貞操の裏切りとかさせてるわけじゃないんだし、泣く必要、あるのかな?」
この、若い十二仙は、羞恥心という物を知らないのだろうか?
貞操などの問題ではなく、今楊ゼンが涙しているのは、屈辱と羞恥の涙なのに。

まだもう少し続きます。次からは屋外でのお話。外で、というねたを下さった方に、第3話は差し上げますね。