通された部屋は広く、毛足の長いカーペットが引かれていた。木の椅子などが、
暖かみを出している。
  落とされていない火が暖炉で燃えているせいで、室内が心地よい。
「火の前に座ったら?」
  促されて、二人並んで腰を降ろす。
「この山には人が住んでいないものとばかり・・・」
「野生であれだけ一所に椿が咲くとでも?」
「・・・いえ」
  あそこは手入れされた椿の森だったのだ。
「僕は何も知らずに・・・申し訳ございません」
  楊ゼンは頭を下げた。
「根ついているのを抜かれるのって痛いんだよ」
  普賢が膝を抱えた。
「僕が友達と植えた椿も入ってたんだ。君が持って行った中に」
  短い髪が火の熱気にふわふわ揺れる。
「ねえ、花盗人君」
  何かが楊ゼンの本能に触れた。理由はわからないのだが・・・。並んで座った
仙は、相変わらず、穏やかに笑んでいるだけだ。口調は静かで、彼が怒っているの
かどうかもわからなかった。
「枯らせてはいません。全て玉泉山にあります。すぐにお返しします」
「また、僕達の椿にあの痛みを与えるんだ」
  悲しそうに普賢の瞳が翳った。
  腕に残ったままだった宝貝が抱きしめられる。
  楊ゼンは言葉に詰まった。彼は何を望んでいるのだろう。
「平気で返すなんて言えるって事は、君が花達の痛みを知らないからだよね」
  指が動いた。
「−−−・・・!」
  凄まじい重圧が楊ゼンを襲った。座った姿勢を保てず、床に押し付けられる。
「僕の宝貝は重力も操るんだ」
  普賢が手を伸ばしてきた。彼自身は宝貝の影響を受けていないようだ。
「ふ・・・げん・・・さ・・・ま・・・」
「口も利けない? じゃあ手足くらいにしてあげる」
  力が緩められた。しかし、四肢の先には重圧が残っているので、床に縫いとめ
られたままである。
「いつか気づいてくれるかなって期待してたんだけど、今年も結界を破って君が来る
気配がしたから、あそこで待っていたんだ」
「雪に寝てですか?」
「大地に耳を澄ませば、樹木や草花の声が聞こえるからね」
  真上から普賢が覗き込んだ。
「だから彼らの悲鳴も。この山にいたいって」
「ならば最初から何故お止めにならなかったのですか」
  楊ゼンは反らす事なく見つめ返した。
「実際・・・初めの何年かは、どうして結界が破られるのかってそればかりが気に
なっててね。調査に時間が取られてしまって、花達には可哀想な事をしてしまった
んだ」
  熱いね、と言葉を区切り、普賢が楊ゼンの襟を寛げる。

「何を・・・っ」
「しっ、黙って」
  唇に指が当てられた。
「ずっと調べてわかったんだ。僕の結界は人にしか効かないって。・・・僕の力不足
なんだけど、悔しかった」
  上衣の前がすっかり開かれてしまった。成長途上の薄い胸につつっと指が滑る。
「止めて下さい」
  ぴしりと楊ゼンが拒絶した。
「嫌」
  返答はあっさりと。
  楊ゼンはかっとなり、自由のある口で唾を吐きかけた。
「やってくれるね」
  顔にかかった物を、普賢が楊ゼンの肩布で拭った。
「君って生意気で反抗的だって言われないかい?」
  両手で頬を挟まれる。
「上下が厳しい仙界で、目上の者に逆らう愚かさ」
  体をずらせ、普賢が馬乗りになった。
「僕を抱かれるのですか?」
「え?」
  普賢は目をぱちくりさせた。次いで、楊ゼンの言った事がわかり笑い出す。
「あははっ、君って男に抱かれてるの? お生憎さま。今日初めて口をきいたばかり
の君に手を出すほど、僕は飢えていないよ
  ・・・でも君がそんな子だったのなら、それなりに扱おうかな」
  止まらない笑いを普賢は続けた。笑い上戸な性格らしい。
  そんな彼の手が下履きにかかった。
「やだっ!」
  脱がされようとして、楊ゼンが身を捩る。
「無駄だと君だってわかっているのに」
  足が持ち上げられて、すっかり抜き取られてしまう。屈辱に楊ゼンの顔が蒼ざめた。
  広げられた下肢の間に普賢が身を割り込ませた。
「キスマークあるね」
  腿の付けねがくっと押される。
「んくっ!」
  楊ゼンが背を撓らせた。
「へえ・・・感じやすい。君みたいな子を屈服させて躾たのは誰かなあ?」
「あ・・・なたには・・・関係・・・ない・・・」
「そうだね」
  黒目がちの大きな瞳が和んだ。