「君が引き抜いた椿達の贖罪をあげる」
「な・・・っ」
  中心で竦んでいるモノが掴まれた。
「離・・・やっ、痛ああっ!」
  抜かれんばかりに引っぱられて、楊ゼンが叫んだ。
「土から出されるのはこんな感じかな・・・」
  淡々と普賢は楊ゼンを痛めつける。 痛苦の強さに涙する青い瞳を、普賢は指で
拭いてやった。
「泣けるだけ、いいね。感情表現は他者に訴えられるから」
「ああああっ!」
「痛いでしょ? 君がした事の報いだから仕方ないかな?」
  押さえられている手足の先を支点に、楊ゼンの体が反り返り、痙攣する。
「あ・・・あああ・・・」
「どれくらい持って行ったかな、君は」
  顎に手を添えて首を傾げる。止まった動きに楊ゼンが力を抜いた。
「まあいいか。君が一身に背負う事だし」
「−−−!!」
  再び力が加えられた。
「痛い、痛い−−−っ」
「わかってるよ、そんな事」
  先端の裂け目に爪を食い込ませ、普賢が冷たく言い放つ。
「何を物欲しそうに潤ませているんだい?」
  普賢は火にくべられる木々が積まれた中から細い一片を取り、楊ゼンの鈴口
に当てた。
「本当に、」
  ずっと押し込まれる。
  楊ゼンの瞳が見開かれた。
「ひっ、うああっ!!」
「動かないで。中で折れてしまったらどうするの? ただでさえ、淫らに濡れて
脆くなっているのに」
  ひくりと楊ゼンがすすり泣いた。
「も・・・赦して・・・」
「悪い子の哀願なんて僕はきかない」
  回転させ、ささくれだった木片が、内側に酷い刺激を起こす。新たな痛みに
楊ゼンが涙した。
「購いの涙かな。花と同じ血の色になれば、彼らも溜飲が下がるだろうね」 
「いや−−−っ」
  普賢は微笑んでいる。静かに、穏やかに・・・それなのに!
「ふふっ、何か可愛い。澄ましてる顔より全然こっちの方がいい。もっと僕に
見せてよ」
「ああ・・・」
  絶望を、楊ゼンは浮かべた。
  白い柔らかな手が膝裏にかかり持ち上げる。
  二つ折りにされた苦しい姿勢は、膝が胸につくほどで、伸ばして頭上に止め
られている手首と同じ場所に固定された。
  自身のモノを目の当たりにさせられて、楊ゼンの全身が朱を刷いた。
  逸らしかけた顔は普賢によって阻まれる。
「大地から抉り取られるのがどんなか、君もちゃんと見なきゃ」
  前方に刺さっていた木切れが引き出された。
「あうっ」
  楊ゼンが仰け反る。
  木片は楊ゼンの体液を吸って暗く色を変えていた。
「蜂の巣に棒を刺して抜くとね、こんな風に蜜が絡まってくるんだ。あれって美味
しいよ」
  赤い舌が濡れたそれを舐めた。
「君のは少し甘い。子供の味だ」
  存分に味わった木を火の中に投げ入れる。
「今度は根のように太い物を」
  笑みが深くなった。 
「これくらい」
  親指と人差指で輪を作ってみせる。
「ほら、ちょうどいいのが見つかった」
  翳されたのは、断ち割られたままの枝。周囲は円ですらなく、角が目立っていた。
「強張ってると、きついよ」
  天に向かされている秘口に宛がいながら、普賢が警告する。
  まさか・・・
「普賢様!」
  楊ゼンが叫んだ。
「冬の崑崙に雨はほとんど降らないでしょう?」
  肘を当て、力を込めて垂直に突き入れる。
「あ−−−っ!」
  裂けた入口や、角に擦られて擦り切れた内壁から血が流れ出した。背を伝い
落ちた血は滴って、カーペットに染みを作った。
「汚れてしまったね」
  普賢は内部を抉り回しながら、軽く唇を尖らせた。
「こうやって、土を緩めて抜いたんだ、きっと君は」
  自失したように楊ゼンは表情を無くし、時折体を震わせている。
「心臓、ばくばくしてる」
  胸に手をつけると、速い鼓動が感じられた。
「うーーん、はしくれでも仙道だから死ぬ事はないと思うけど・・・頭おかしくなってし
まったら、玉鼎師兄に申し訳ないなあ」
  付きたてた手は離さず、普賢は考えこむ。
  何気なく彷徨わせた視線が、小卓の籠に止まった。中には今日落ちた椿の花。
  握ると、花弁が分かれて散った。
「君の赤に似合う。寒椿は血の色により近い」

  はらはらと、楊ゼンの上に花が落ち続けた。