両手首を背で捕らえた紐は、肌に食い込むほどではなかったが、自然に解けるほど、
緩くもなかった。
縛められるとは思っていた。
酷く責められる前には、大抵体の自由を奪われてしまうから。
勿論、玉鼎にとって、楊ゼンの抵抗を封じる事など容易い。だが、本能が打つ反発の動きが
煩わしいのも確かだった。
後ろに、と言われるまま、腕は差し出した。しかし、光まで奪われるとは想像しなかった。 
金糸で繊細に模様が描かれた領巾が、立ち竦む楊ゼンの瞳をふわりと覆う。視界が白い色に
満たされる。
「師匠・・・」
「どうした?」
湯殿を出てから、衣類を与えられていない裸の胸に、玉鼎の長い指が触れた。
「ひ・・・っ」
ただそれだけの事なのに、見えないのでふいをつかれる。
「怯えているのか?」
「・・・はい」
隠しても仕方がないので、楊ゼンは素直に肯定した。
「そうか」
視界がないと足が竦む。玉鼎に手を取られ、誘われ、体を押されて倒れた先が、ベッドだった。
シーツには、染み付いた玉鼎と、楊ゼンと・・・そして太乙の微かな匂いがした。
「や・・・足が」
仰向けに倒れたせいで、膝が大きく開いてしまい、思わず身を捩りかけたのを阻まれた。
玉鼎の手が顔のすぐ横に付かれたのが、シーツの撓みでわかった。
流れ落ちた絹の黒髪が、楊ゼンの蒼天の青と混ざり合う。
「震えているな」
かちかちと歯が鳴るほど、楊ゼンは恐れていた。
数えきれないほど、玉鼎には抱かれた。時に優しく、激しく、・・・。楊ゼンの意思に関わらず、体は
受け入れる事を知り抜いている。
何時までも、慣れない。
広げられる苦痛は、溶けてしまいたくなるほどの羞恥は、何時までも楊ゼンにしがらみの鎖となって
纏わりつく。
「抱かれる事が辛いのか?」
楊ゼンが首を振りかけたが、途中で動きが止まった。
玉鼎は好きだ。だが愛される事は・・・?
「ん・・・」
冷たい接吻が与えられた。流し入れられた吐息もまた、冷たい。
永い口付けに息苦しさを覚えても、押しのける腕がない。だから楊ゼンは精一杯顎を逸らして逃れようと
努力した。
僅かに離れた玉鼎の唇が笑みの形を作った。
「・・・!!」
髪を掴まれて、がくりと頭が反る。
「上を向きたかったのだろう?」
曝された喉に、玉鼎が舌を這わせた。少しずつ、下へと唇が降りて行く。
「目の・・・、取って下さい、お願いです」
見えないのが嫌だ。次に何処を襲われるか見当がつかない。
「駄目だ」
楊ゼンの頼みは一蹴され、罰だと言わんばかりに、竦んでいたモノを握られた。
「ああっ!」
痛みが突き抜けた。
「嫌、痛い、離して!」
「・・・初めて大人にしてやった時の事を覚えているか?」
玉鼎が言葉を紡ぐ。もう何年も昔の事を。
体を開かれたのは12の時だった。玉鼎は、楊ゼンを貫く前に、精通を覚えさせたのだ。
楊ゼンは見えていない。だから知らなかった。玉鼎の右手に、かつて使われた、陶器で造られた花が
ある事に。
つぷっと、蜜が揺れるような音を立てて、花の茎が楊ゼンの前方に突き立てられた。
「う・・・あーーー!」
 これ以上は無理というほど、楊ゼンの背が反り返った。
衝撃が脳天に刺さる。
奥に到達するまで、捻るように差し入れる。
「体が成長している分、以前より痛まないはずだが」
軽く揺すって、内部の様子を確かめ、楊ゼンに再び高い悲鳴を迸らせた。
「大げさに騒ぐのは、憐れみを誘う為か?」   
 くくっと抜き差しが加えられる。
「痛・・・ぁ・・・い」
呼気も絶え絶えに、楊ゼンが苦痛を訴えた。領巾の下の瞳は既に涙でしとどに濡れている。 
「どうしようか?」
玉鼎が胸の突起を摘んだ。引っ掻くように刺激を与えてやると、時間をかけずに赤く立ち上がってきた。
「正直な事だ」
入れられた部分が、じんと熱い。
うっすら舌を出して楊ゼンが喘いだ。 
「師匠、師匠・・・」
太乙の香油は、執拗な洗浄で、清められたはずなのに。
「私が欲しいのなら、どうするのだ?」
楊ゼンが体を起こした。動く事で、刺さった花が新たな痛苦を発生させた。
唇を噛んでその痛みを堪え、ベッドを降り、座った玉鼎の前に跪く。危うく落ちかけた体も、助けられは
しなかった。
手が使えないから、全て口でしなければならない。単衣の合わせをかき分け、顔を近づける。
そっと、師に接吻をした。
挿れてもらう為に、奉仕を捧げるのだ。
楊ゼンの頭を、玉鼎が支えた。その指は触れている程度だったが、少しでも逃げるそぶりがあれば、容赦なく
力が入り、押さえつけられるだろう。
口内を通り過ぎ、喉に達するほど入れても、最後まで楊ゼンは含む事は出来ない。舌を動かす隙間もないほど
の容量に、うめき声が漏れた。   
楊ゼンが必死に、周囲を湿らせていく。この潤いが、受け入れる痛みを少しは和らげるから。湯を使った秘所は
もう濡れているので、玉鼎は上から潤滑油を入れてはくれないはずだと楊ゼンは考えた。
湿っているのが良かった。玉鼎が本当に酷く扱う時は、乾いたままに突き立てられる事もある。
では、まだ今日はましなのか?
領巾の下で楊ゼンは瞳を開いた。
下肢に刺されているのは何だ。これで酷くされていないと言えるのか?
玉鼎からふいに引き離された。
「何を考えている?」 
師の視線がひた、と当てられているのがわかった。
「私に奉仕しながら、前方は塞がれたまま、それでもおまえは感じているのか?」 
楊ゼンが項垂れた。
「もう一度ベッドに上がって膝を付きなさい」
「・・・・・・」 
「早く、私をもっと怒らせないように」

「鍵」は結論で終わらせようと思ったのですが、鬼畜な師匠とのリクがありましたので、続けます。
この「鍵の結果」は全て、望月乙夜様へ捧げます。(でもまだ終わってないですが・・・)
ナナコ様、私チャットの嘘つきになってしまいましたー。3人絡みは次へ繰越です。ごめんなさいー。

1と2に区切った理由は簡単。100行以上だと、読む人が大変だから。