二人連れ立って、下の世界の小さな町を歩く。服装も目立たぬように
変え、立ち並ぶ市を眺めながら、どこにでもいる恋人同士のように。
今日は年に一度の星祭。
広大な大陸全体が、華やかに活気を帯びる日。
肩口で切り揃えられた髪なので、結い上げる事は出来なかったが、
夜になって少し冷たくなった風になびく黒髪は、艶やかささえ浮かべて
いた。
「すごい人・・・。師兄とこうしているのはとても幸せだけど、疲れて
しまった。人ごみって慣れなくて。
ねえ。町の外行こうよ」
くす、と笑みが、頭の高い所から聞こえた。
見上げると、玉鼎と視線が合った。
「−−−何?」
「もう帰りたくなったか?」
「違うよ。今日は一緒に過ごしてくれるはずでしょう?」
玉鼎が袂の長い袖で、太乙を包んだ。
「ちょっ・・・」
彼独特の香りが感じられて、それだけで太乙はうっとりしてしまう。
「では行くか。冷たい蜜氷でも携えて」
「うんv」
疲れた、と言っていたくせに太乙は喜んで氷屋に駆け出した。
残された玉鼎が、空を見やった。
「悪い雲だ。祭りの日だというのに、雨が降るかも知れぬ」
西から、夜空にも暗い雲が広がりつつあった。


乾いた草の中に、太乙が足を投げ出して座った。
「ひんやりして気持いい」
靴まで脱ぎ捨ててしまい、素足をゆらゆら揺すってみせる。
「太乙・・・」
「やってみたら? 師兄も」
仰向いた額に氷の入った器が当てられた。
「欲しい」
子猫のように舌を出して太乙は強請った。
「体がとても熱いんだ」
実際、風は若干冷たくなったとはいえ、華大陸は7月ともなれば、
信じられないくらい暑くなるのだ。
特に今は太乙の故郷に近い河南の地にいるのだから。
匙で掬った蜜にまみれた氷を、赤い唇の狭間に落としてやる。
「ん−−・・・」
太乙の口が、くちゅと動いた。
「冷たい」
眉間に冷たさが染みて、微かな痛みが起こる。治まると氷の冷
たさが、身に広がっていくのが感じられた。
「・・・もっと」
次々に欲しがって、一つ目の器はすぐに空になってしまった。
頭の上にあるせいで、それに気づかない太乙はまだ唇を開いて
いた。
玉鼎はそっと膝をつき、瞳を閉じている彼に接吻する。
冷たくなっていた口にそれはとても熱かった。
「師、兄・・・?」
訝しげな問いかけには答えず、華奢な肩を押して太乙を地に縫い
止めた。
抱きしめられて呼吸が苦しくなる。氷で冷やされていた体の中心
にぽっと熱が燈る。
「は、ああ・・・」
接吻の合間に、太乙から溜め息が漏れた。それを機に、長く繰り
返されたキスは終わった。
「酷い、こんな所で・・・。誰かきたらどうするのさ」
「誰が来るというのだ」
「だってここは下界だし」
言ってから太乙は周囲を見回した。
「・・・結界。何時の間に」
二人の周りを、ごく狭い範囲で透明な膜が覆っていた。色は無くても
外部からは切り離されて、中を窺う事など出来はしない。
地にある気脈を妨げないよう、小さく張ってあるのが、玉鼎らしかった。
「雨が降りそうだったのでな」
「言い訳だ」
太乙の色の薄い瞳が玉鼎を見つめた。
「ではそれでも構わぬ」
「だって空にはまだ星がこんなに見事に見える」
天頂だけしか映らない太乙には、黒雲がわからないようだった。
「音もない。風もないのに、心地良い」
肌蹴られた着物に触れるはずの草の感触まで存在しない。
「おまえの気を散らす物など何も必要ない」
「そうかなあ」
言いながら、太乙は腕を伸ばして玉鼎にしがみついた。
これから与えられるのは、めくるめくまでの快楽。初めて教えられて
から多くの日々が流れ、もう痛みなど感じはしない。
玉鼎も酷く抱いたりはしない。
「・・・好き、だよ」
「今からか?」
「意地悪。師兄に出会った時からずっと・・・あ、ああっ!」
優しくも激しい愛撫が始まり、太乙は思考を止め、体が受け止める感覚に
全てを委ねた。

10000HIT 鳥羽様からのリクです。玉乙で裏との指定でしたので、
甘々となりました。
拙い物ですが、貰って頂けたら幸いです。