高い位置にある窓から、朝の光が降り注いでいた。
ガラス貼りで、天井いっぱいに広がる窓から入る光は、微妙に和らげられていて、心地よかった。
金霞洞最上階に作られたサロン、太乙のお気に入りの場所である。
昨夜は星明かりが見事で、玉鼎の寝室で眠るより、ここにいたいと望んだのだ。ベッドなどない
部屋だが、太乙はここで玉鼎と過ごしたかった。
金霞洞を訪れれば抱かれる事はわかっている。しかし、根が淡白な太乙は、ただ腕に包まれて
鼓動を感じながら空を見上げるだけで満たされた。
勿論、そうはならなかったが。
春の光が柔らかい。
そろそろ季節は柳花が飛ぶようになっている。綿毛にも似て、雪にも似て、空気の中に舞い踊る
花。
太乙がんっと全身を伸ばした。
ソファーに寝かされたのだが、狭いそこが嫌で、床の上の敷物に転がるように降りたのだ。
下半身に残る疼痛も、慣らされた太乙にとっては、もはや快楽の記憶でしかない。
裸の体を惜し気もなく晒して、うつ伏せに、また押し寄せるまどろみの波にゆったり心を委ねる。
まだ朝は早くて、こんなに早くに目覚めた自分が以外だった。
独り住まいの気楽さ故、何時もは気の向くまま起きて寝て、の生活をしているのだから。
周囲に幾つもあるクッションを一つ取り、抱きしめる。こうして、何かを腕にしていないと落ち着か
なくなってしまったのは・・・。
「・・・全部、師兄のせい」
眠たい声は、はっきりした言葉になっていなかった。
長い睫毛に縁取られた色の薄い瞳がふわりと、閉じられた。

「太乙」
玉鼎が部屋に戻った時、太乙はまだ完全に眠りに落ちてはいなかった。
彼が僅かとはいえ起きていた気配が漂っているのに、玉鼎は気づいた。
横たわっている太乙の傍らに膝をつき、髪をそっと撫ぜる。梳かれるのに、太乙の頭が返され、
ぼんやり玉鼎を見つめた。
「どうした? 今日はずいぶんと早いな」
「ん・・・でも、眠いから、また寝る・・・」
あふ・・・とあくびが漏れた。濡れ光る唇が可憐に開いた。
「そのような形では、風邪をひくぞ?」
ソファーの上に上掛けは残されたままだった。
「じゃあ師兄が抱いていて」
太乙は腕を差し出した。
「ねえ、師兄・・・」
苦笑が玉鼎から起こった。太乙が抱いていたクッションを取り上げ、代わりに玉鼎が抱きしめて
やる。
細い手がしがみついてきた。
とくん・・・鼓動が聞こえて。太乙は頭を玉鼎の胸に擦りつけた。
とくん、とくん・・・言い知れない安堵を太乙に与える。
無意識に、太乙は胸に接吻していた。
「太乙、あまり誘うと、またおまえを抱くぞ・・・」
抱いた華奢な体がぴくりと震えた。抱かれるのは、愛してもらっていると実感出来るのだが、
激しい玉鼎を受け入れるのには、かなりの負担なのだ。例えそれが快楽にすりかわる物で
あったとしても。
逡巡するのか、肩口で切り揃えられた髪が揺れる。
「いい・・・よ・・・」
返事はあっさりと。
「抱いて、師兄・・・あなたが欲しい」
太乙からの接吻が幾度も触れる胸を覆った。
「わかった」
玉鼎が体を起こした。
昨夜の交わりは星明かりだけだった。今はこんなにも光が差している・・・そう思うと、身体を
晒しているのが急に恥ずかしくなった。
さらに突き刺さるような視線を感じて、太乙が身を捩る。
「やっぱり、や・・・」
上掛けをくるりと纏いかけるのを、玉鼎が制した。
「焦らされるのも、そそられる」
あっさり奪い取り、反動で露に覗いた項に、強く唇を押し付ける。舐めてやると、漣のような震え
が走った。
「んん・・・」
嫌々と首が振られた。拒みでもするのか、手が玉鼎の体を押す。
「おまえは抱かれる悦びを覚えただろう?」
玉鼎の指が優しく太乙の頬をなぞった。
「一体何を拒む・・・」
「だって・・・」
反論は口付けで封じられた。深い接吻は太乙の脳を侵食し、意識を朦朧とさせていく。
「はあ、あ、ん・・・」
角度を変えられ、舌を絡められ、唾液が唇の端から溢れる。
これは快楽、これは悦び・・・。
霞みかける脳裏に、言い聞かせる。

膝が持ち上げられた−−−。
「−−−あああっ!!」
叫びが喉を迸った。穿たれる衝撃がきつく、太乙に襲いかかる。息が出来ないほど苦しくて、痛み
をもたらしてくる肉塊が、容赦なく食い込んでくる。
痛みなのに、痛みのはずなのにそれなのに、与えてくるのが玉鼎ならば構わないと・・・思って
しまうのだ。79
「師兄、師兄、師兄・・・」
うわ言のように玉鼎の名を呼び続ける。細い体が、組み敷く玉鼎の下で、折れるほどに反り返った。
「愛している、太乙。永遠に」
彷徨う手を取り、抱きしめてやりながら、玉鼎が耳元で囁いた。
「・・・ああ・・・」
それだけで、幸せだと・・・。

朝日の差す部屋で。

舘ゆづき様からリク頂きました。
玉乙で、日当たりの良い寝室で、でした。
この話で使っているのは寝室ではないですが・・・。すいません。
金霞洞は部屋数多くてサロンやプールまである、と思い込んでいるのは輪脚だけでしょうか?
ちなみに太乙の家はこじんまりと・・・などと想像していたり。

舘ゆづき様、拙い話ですがお納め頂けたら幸いです。