開け放たれた窓から、温かな春の風が吹き込む。時折闇の中に、赤い花弁が混じっていた。
散り行く、桜。月が変われば、散るのは綿毛に似た柳花になる。
風が流れ巡っているのにも関わらず、室内は暑く澱んでいた。
太乙が苦し気に喘いだ。
白い肌はうっすら汗ばんでいた。肩口で切り揃えられた髪が頬や額に貼りつき、半ば伏せられた
瞳と共に、ぞっとするほどの艶めきを醸し出している。
「師、兄・・・」
「どうした?」
玉鼎の手が優しく太乙を撫ぜた。掌の下で、華奢な体が小刻みに震えているのが伝わった。
「もう赦して・・・」
「赦すとは?」
玉鼎は笑み、手を胸元へ滑らせた。乳首が摘まれて、太乙が激しく仰け反る。長時間嬲られ続けた
乳首は、腫れて熱を持っていた。
「触らないで、いやあっ」
首を振って拒絶しても、太乙は逃げられない。四肢は大きく開かされてベッドの柱にそれぞれ拘束
されているのだ。これでは、僅かに身を捩るだけで精一杯だった。
「あ、あ、あ−−っ!」
幾止めかの放出が訪れる。それ自体には何もされていないのに、胸だけの刺激で太乙は達って
しまう。
ぐったり弛緩した体に、容赦なく愛撫は続けられて、太乙が涙で潤んだ瞳で玉鼎を見上げた。
「・・・お願い、だから」
飢えていたのは太乙の方。抱かれたかったのも、太乙の方。
新たに弟子を取った玉鼎に憚り、しばらく足を遠のけていた太乙が金霞洞を訪れた時、玉鼎は何も
言わずに迎え入れた。
眠る幼子を隣室へ移し、ベッドへ誘い・・・縛められた。
「待って、苦しい・・・あ、うっん・・・ひっ!」
びんっと胸が弾かれる。衝撃はきつく脳天に突き抜けた。
「師兄、師・・・」
「煩い」
「・・・んんっ」
唇が深く合わせられた。喘いでいた唇は抵抗の為に閉じられるより早く割られ、玉鼎の舌が侵入する。
逃げる太乙を絡め取り、根元が痛くなるほど、きつく吸い上げられた。
最後にきつく乳首を捻ってから玉鼎が離れた。
「あ・・・」
太乙はふいに淋しさを覚えた。
霞む視界で、ベッドから降り、背を向けている玉鼎を追う。
「・・・行かないで」
玉鼎は振り向かなかった。
「ねえ、師兄・・・どうして・・・」
涙が溢れた。ぽろぽろと頬を伝い、流れ落ちては白いシーツに吸い込まれていく。
「師兄!」
「私から離れたのは、おまえではなかったのか?」
冷たい玉鼎の言葉が投げられた。
「違う、私は師兄の事を・・・」
水を満たしたグラスが、こつんと額に当てられた。
「・・・え?」
「飲ませてやろう」
玉鼎はあくまで太乙に絡まる縛めを解く気にはならないようだった。
太乙がそれとなく力を入れてみても、縄は弛む事はなかった。
「解いて・・・」
秘部を全て晒され、与えられる物を抗いも出来ずに受け入れさせられるのは堪らない。
「駄目だ」
「じゃあ理由くらい言って、んっ!」
口移しで水が含まされた。熱く火照った体に水が染みていくのが心地良かった。
「・・・もっと」
太乙が望むまま、甘い接吻を伴って水は流し込まれた。
「ふ・・・うう、ん・・・」
鼻に掛かった声が漏れ、玉鼎がそのつんとした鼻先に唇で軽く触れた。
「解いてしまえば、またおまえは去ってしまうだろう?」
指が太乙の手首にある縄を辿る。ぞくりと背が痺れるのがわかった。
「弟子を取って・・・師兄がもう私だけの存在でないと知ってるから・・・。でも私にとってそれは辛すぎる」
ともすれば流されてしまいそうになる意識を引き止めて、太乙が訴えた。
「昔の私は独りだった。また独りで行けるはずなのに。師兄に強くしてもらったから、もっと楽に独りで
生きていかなければならないのに」
涙ぐむのを見られまいと太乙は顔を背けた。
「・・・太乙」
「心が乾いて堪らないんだ」
「独りが辛いのならば、ここにいれば良い。今まで通りに」
頬に手が当てられ、太乙は背けた顔を戻された。玉鼎の闇を表す視線がじっと注がれる。
「何を一人で抱え込んでいる。自分だけで勝手に結論を導くのはおまえの悪い癖だ・・・太乙」
もどかしげに太乙が身を捩った事に気づいた玉鼎が、拘束から外してやった。華奢な腕が伸ばされ、
きゅっと玉鼎にしがみついてくる。

「離れるなんて出来ない」
「誰が離してやると言ったか? そのような事、私は許さぬ」
「・・・うん」
「さあ続きだ。今度はおまえの意思で胸を突き出せ」
ぴく、と太乙が震えた。散々に嬲られた胸。そこだけを執拗に愛撫されたせいで、皮膚は赤剥け、ずきずき
痛んでいる。
さらにそこを触られるのか。
「あ・・・」
「太乙、どうした?」
抱きついていた腕を太乙は離した。怯える瞳で、それでもしっかり玉鼎を見つめ、ベッドに体を預けた。
「・・・師兄」
「良い子だ」
玉鼎は囁き、唇を太乙の薄い胸へ落した。

ちょぴり久しぶりっぽい玉乙です。でも玉鼎は相変わらずの性格でした。