木々の間に張り渡されたロープに、洗い上げたばかりの洗濯物が翻っていた。
その濡れた着物達の中に楊ゼンの青い道服もあった。結局貸してもらった太乙の薄紅色の
上着の襟を合わせ、楊ゼンは干し続ける彼を眺めた。
指先にはゆったり凭れられた太乙の温もりがまだある気がした。華奢な体は一度楊ゼンに
委ねられたものの、すぐに離れ、それからはずっと背を向けられていた。
もっと抱きしめていたかった楊ゼンは大いに不満で、後ろから太乙に近付き、襟に手を掛けた。
「うわっ!」
ふいうちに太乙がみゃっと跳ねた。
「楊ゼン、君ねえ・・・」
色の薄い瞳が振り返って楊ゼンを睨んだ。
楊ゼンは軽く唇を尖らせたが、手をさらに動かし、戯れに胸元から侵入した。
「そんな事、何時でも出来るじゃないですか・・・」
「今しないと、君の服乾かないよ? 私のじゃ、趣味に合わないって言うから貸せないし、ね・・・っ!」
敏感な乳首を摘まれて、声が上擦った。
「いい、加減に、しないか・・・楊ゼン・・・」
膝が震える。急に身を支えるのが困難になって、太乙は木に両手をついた。
「あま・・・り・・・悪戯が、すぎると・・・」
「すぎると?」
耳元に唇を寄せた楊ゼンが囁いた。熱い吐息に太乙の背がじんっと痺れた。
「宝貝で封じて、私が君を抱く・・・」
楊ゼンはくすすっと笑った。
「太乙様は・・・」
さりげなく下ろした手で、太乙のモノを包む。
「んんっ!」
俯きかけた顔は顎を取られて正面に固定された。
「こちらへの直の刺激より・・・」
一、二度揉みしだいてから手は離れ、腿を回って双丘を割った。
「ここを弄られて・・・」
指が一本つぷりと潜り込んだ。立っているという、下半身に重心がある姿勢に太乙が震え、きつく指を
締め付ける。
「達く方がお好きでしょう? ああ、そんなに締めないで下さい。食い千切るおつもりですか?」
力の入っていない脚を小突くと、あっさり太乙の膝が崩れた。咥えさせていた指は、内壁を抉って抜けた。
「服を乾かすって、僕に早く帰って欲しいからですか?」
「ちが・・っ」
太乙は頭を振った。
「金霞洞に戻って・・・師匠に抱かれるかもしれません」
「それは脅しにはならない」
地に這わされた太乙が言う。
「師兄が君を抱くのは、私には関係ない事。君としても、師兄は私を抱いてくれる」
楊ゼンは溜め息を吐いた。
「あっさりした所は太乙様らしい。では・・・正直に言います。太乙様を、抱きたい」
「うん、正直だね」
肩口で切り揃えられた髪がパサリと揺れた。
「そう言えば、許してあげるのに」
桃の小枝を楊ゼンは一本折り、太乙の着物の肌蹴てしまった襟に挿した。
「紅梅や、桃・・・薄紅・・・太乙様のお似合いです」
単衣姿の楊ゼンもまた、膝をついた。


太乙の浴びるシャワーの音がしていた。
両手で挟んだカップからゆっくり温もりが伝わる。カモミールの香り漂う茶を口に含み、楊ゼンは体を
落ち着けた。
熱を静めなければ、また太乙を組み敷いてしまいそうで。
鎮静効果のあるハーブティーを煎れたのは太乙だった。この茶を選んだ事に彼の気持ちが表れている。
もう終わりだよ、と。
テーブルの上の桃の枝を楊ゼンは突いた。太乙から離されると、桃色もくすんでいるように見えた。
桃が咲いた。桜が次に来て、地上より遅い春が崑崙にも訪れる。
「君もシャワー浴びなよ」
ゆるく一枚だけ衣を纏い、太乙が向かいにすとんと腰掛けた。濡れた髪が質量を失い、頭部に貼り
付いていた。
「あれ? お茶飲んでないの?」
「少し苦いです」
「ハーブだからね」
太乙が苦笑した。
「じゃあ私が頂くよ。湯を使った後は、これくらいぬるいのがいい」
楊ゼンが口付けていたカップをためらいなく太乙は傾けた。小さな赤い唇が開いて、薄黄色の液体に光る。
何気ない仕草が開いてを誘っていると、このきゃしゃな仙は知っているのだろうか。
「どうしたの? 浴室に行ったら?」
見つめられているのが気になって、太乙は手をひらひら振った。
「・・・はい」
「晩ごはん、食べてくよね? その頃には着物も乾くかな? 今日は天気いいし」
今日はどうにも道府に泊めてくれないらしい。
師が来るのかもしれない・・・そう思うと、心が痛んだ。ノズルを捻り、熱い湯を頭からかぶりながら、楊ゼンは
太乙を考えた。
独占出きるはずがない。
元々、師のものだった彼に、横から楊ゼンが手を出したのだから。さっぱりした太乙故に、許されている
だけだと、わかっていた。
だけど・・・