来客を告げるランプが、太乙の研究室に灯った。
「あれ? 誰かな」
  太乙に警戒心はない。訪れた者の精神波長を感知して灯る明かり。
悪意ある者には赤に、そうでなければ緑に。
  今は緑をしている。気を読んで玉鼎でない事はわかったが、自身が開発
した宝貝を信用して、無防備なまま外へ出た。
「こんにちは」
  扉を開いた先には太乙が初めて見る顔があった。
まだ少年といえるほどの
雰囲気を纏い、短い頭髪は空を映していた。
「君は?」
  太乙は問い掛けたが、視線は少年が抱える大きな冬薔薇の花束に寄せ
られていた。
「初めまして。今度十二仙に昇格しました、普賢といいます」
「燃燈師兄の代わりに一人上げると聞いていたかな。で、用件は?」
「師兄方の道普にご挨拶させて頂いているのです」
  冬の寒さに上気した頬が赤く、彼をより幼く感じさせた。花と外見で、太乙は
気づかなかった。空色の普賢の瞳の中にあるものに。
「折角来たのだから入ったら? 茶を入れてあげるから、温まって行くといいよ」
「ありがとうございます」
  屋敷に招じ入れられると、普賢いは珍しそうに周囲を眺めた。
「宝貝の開発者のお屋敷は機械でいっぱいだと思ってました」
「研究室はね。ここは私の生活の場でもあるから」
  暖かく火の焚かれている居間の、背の低いソファーを普賢に示して座らせた。
「好みはあるかな? 緑茶とか・・・、師兄から貰った紅茶もある」
「師兄?」
  先に付く固有名詞がないのに、普賢は尋ねる。
「玉鼎真人師兄の事。金霞洞の・・・、もう行った?」
「いえ、まだです。玉鼎師兄とはお親しいのですね」
  やんわりと笑みが浮かぶ。
「良くしてもらっている。私が十二仙になった時から」
「僕もあやかりたいものです。・・・紅茶を頂けますか?」
  理由ははっきりしないが、太乙は普賢の言葉に不快を覚えた。勿論普賢に
他意はなく、ただあやかりたいと言っただけだろうが・・・。
「太乙師兄、これを」
  普賢が花束を差し出した。
「僕の道府に咲いていた物です」
「入れる物も探して来よう。でも普通、花は女に贈るんだよ」
「知りませんでした」
  再び普賢はふわりと笑んだ。


  二段になったティーポットの下には蓋がなく、沸かした湯の蒸気で上のポットに
入った茶葉を蒸らす。茶の濃さは、下の湯で調節する仕組みになっていた。
「僕には薄くして下さい」
「あまり薄めてしまったら、味がしなくなるよ?」
「あなたの為でもありますから」
「・・・?」
  グラスを持った太乙が、普賢の言わんとしている事がわからずに首を傾げる。
「すぐにわかります」
  ガラスのグラスを受け取ってから、反対の手で太乙の手首を掴んだ。
「うわあ。本当に細くて華奢ですね。これで機械を扱われるのは大変でしょう?」
「離しなさい、普賢」
「太乙師兄」
  普賢は聞かずに、太乙の手の甲に接吻する。
「させて、頂けませんか? 今まで巡った四つの道府の方全てが、一度師兄を
抱いてみれば良いとおっしゃられたので」
「悪い冗談だ」
  無理に腕を引き、信じられないと、新しい仙を見やる。普賢に悪意はなかった
はずだ。太乙の機械は緑をしていた。なのに・・・。
「君は頭を冷やすべきだね。帰りなさい」
「試させて下さってもいいでしょう?」
  去りかける太乙の領巾を引っつかみ、首に回して締め上げる。
「ぐうううっ」
「多くの方としていらっしゃるのでしょう? 僕が一人くらい増えたって構わないと
思いますけど?」
  瞬間、普賢は頬を強かに打たれていた。
「私を馬鹿にするな! 誰が好き好んであんな・・・」
  瞳は屈辱の涙で滲んだ。
「女みたいな涙ですね。やっぱり師兄に薔薇を差し上げて良かった。お似合い
ですよ」
  足を引っかけて太乙を転ばせ、うつぶせの背に普賢が馬乗る。暴れる腕を
捻って領巾で結わえながら、超えだけは穏やかに問う。
「先ほど僕にお茶の好みを聞いて下さったから、今度は僕が選択肢を与えて
あげます。酷くされるのと、優しく抱かれるのと・・・どちらが良いですか?」
「うう・・・」
「僕が尋ねているのに」
  道服の裾を捲くり、白すぎる肌を露出させてしまうと、躊躇いなく双丘に指を
滑らせて、狭間に突き立てる。
「ひっ!」
  痛みに太乙が強張った。
「こうやって慣らさないで入れられるのと・・・」
  熱い紅茶のグラスを傾ける。火傷に近い衝撃が太乙を襲った。
「濡らしてするのと、これなら答えられますか?」
「・・・・・・」
「仕方がないなあ」
  普賢は肩を竦めた。
「僕の好きにさせて頂いて良いって事ですよね?」
  指が入口を広げる。
「中まできちんと湿らせます。乾いていると痛いですから。先輩の師兄には優しく
して差し上げたいから・・・」
  薄い液体がグラスから細い滝となって流れ落ちた。
「あ−−っ、あ、くう・・・っあつ・・・いっ」
  脆い内臓が熱く燃える。
「師兄のお味、堪能させて下さい」
  禍々しい笑いとともに、普賢が覆い被さった。


  立ち上がった普賢は、己のモノを、懐紙で拭い、丁寧に着物の乱れを直した。
「ごちそうさまでした。美味しかったです。友人が待っているから僕は帰らなくては」
  卓上に置かれたままだった薔薇から、一輪抜くと、太乙の色の薄い髪に挿す。
「十二仙末席の僕ですが、これからもよしなに」
 
  残された太乙は傷ついた鳥のように、ただ、衝撃が去ってくれるのを待つしか
なかった。
  抉られた傷が簡単に癒されるなどとは思わなかったが・・・。
  そして、また新たな訪問者の気配が近づく。


希様からリク頂きました。
普乙です。私の普賢は苛めっ子なので、きっつくなってしまいました。
すいませんです。
また懲りずにリクして頂けましたら嬉しいです。
読み返してみたのですが、リク内容をクリアしていない! ひー・・・!
急遽2行追加しましたが、後二人はどこ行ったんだー。
すいませーん。とっぷり普乙にはまりすぎていましたvv