太乙は運んでいた桶をを置いて、んっと伸びをした。肩を回すとこきこき音がする。
  水がいっぱい入った桶は両手で抱えられるほどだったが、華奢な体格の太乙には
重労働だった。
  目的地の台所まではまだ長い廊下と階段の昇りがあるのだ。
  寒い日が何日も続いたと思ったら、今朝は大雪で、見事にポンプが凍っていた。故に
太乙は地下から水を汲んでくるはめになった。(金霞洞の地下には湯の湧く泉がある)
  屋敷に閉じ込められる雪は好きではなかったが、今回は違う。訪れていた金霞洞での
出来事だったから。
  雪が止むまで公然といられる。かえって何時までも止まないように願ってしまうほどだ。
「さあがんばろう」
  再び持ち上げようとした太乙の頭をコツンと小突く手があった。
「あ、師兄」
「しばらく姿を見ないと思ったら、何をしているんだ」
「水汲みだよ」
  見たらわかるじゃないかと、桶を指し示す。玉鼎はそれを軽々と抱えた。
「こんなに小さな物では台所の甕を満たすのに、一日かかってしまうだろうな」
「私にはそれが限界」
  太乙はペロリと舌を出した。
「お茶と料理に必要なだけでいいんだ。明日の事は明日考える」
「おまえらしい」
  玉鼎が苦笑する。
「誉め言葉?」
  桶がなくなったので、太乙の足取りは軽くなった。
「最近良く笑うようになったな」
「師兄のおかげだよ」
  二、三歩先を歩いていた太乙がくるりと振り返る。
「師兄がいるから私はこの仙界で生きていける」
  南方出身の者特有の色の薄い髪がふわりと揺れた。宝貝開発の能力のみをもって
十二仙になってしまった太乙は、修行時代もろくに経ず、仙としての力もない者が・・・と
虐げられ続けてきた。
  ただ堪えている事しか出来なかった太乙が、玉鼎に出会い、強かさすら身につけ
始めている。
「すぐにお茶を煎れるから。師兄は部屋で待ってて」
  太乙は、茶器のしまわれている棚に向かいかけたが背後から抱きしめられた。
「ちょっ・・・こんな所で・・・」
「茶など要らぬ」
「だって、寒いし・・・」
「おまえとて、こんなに体を冷やしているではないか」
「・・・地下に行ってたから」
  跳ね上がりつつある鼓動を必死に押さえ込もうとして声が掠れる。
「それだけではないだろう?」
  唇が耳に触れた。背筋にぞくりと痺れが走る。
「ポンプの管を見に外へ・・・」
「雪の中を」
「うん」
「獣でさえも、こんな日には表へ出ぬのに」
  壁に押さえられて、太乙が頭半分は高い玉鼎を見上げた。
「ここは寒いよ、師兄の部屋に連れて行って」
「わかった」
  先刻の桶と同じように太乙も簡単に腕の中に収められ、抱き上げられた。


  今日は雪のせいで太陽がなくて良かったと、寝台に押し倒されながら太乙は思った。
  昼間からベッドに誘われるのは激しい羞恥を伴う。しかし今は夜と変わらないくらい
暗いのだ。
  寛げる為に襟に差し入れられた玉鼎の指が、肌のあまりの冷たさに驚いた。
「太乙・・・」
「もう寒くなんかないから」
  腕を玉鼎の首に絡め、接吻を強請る。望むままに与えてやり、太乙がうっとり瞳を
閉じる頃、侵入した指が胸に触れた。
「んんっ」
  軽く掠っただけなのに、体が跳ねる。玉鼎が抱いてきた、敏感すぎる肢体だった。さらに
しつこく弄んでやると、涙混じりに制止を訴えてくる。
「師兄、師・・・兄・・・」
「どうした?」
「あまり苛めないで・・・」
「苛める?」
  玉鼎が首を傾げた。
「私が何時おまえを苛めたりしたのだ?」
「あううっ」70
  きつく摘み上げられる。皮膚に埋もれるようだった乳首は赤く充血して、ぷくりと立って
しまっていた。先端を爪で幾度か引っ掻き、玉鼎は囁く。
「言いなさい」
「や・・・師兄が、早く欲しい・・・っ」
  朱に染まった顔を見られたくなくて太乙は腕で隠した。玉鼎はそれを剥がし、シーツに
手首を押さえつける。
「良い子だ、あまり泣くな」
「だって・・・」
  すっかりはだけられた道服から覗く脚に手が添えられた。
「挿れてやろう」
「・・・うん」
  衝撃を予感して、僅かに華奢な体が強張った。