日付が新しく変わる頃・・・深夜に楊ゼンは一人陣から抜け出した。
小さいながらも個人の天幕を与えられているので、雑作もない事だった。
夜に飛翔するナイチンゲールに身を変え、周囲に数多く存在する湖の 一つへと向かう。
この季節故、水には厚く氷が張っていた。薄い場所を探してそれを剥がし、楊ゼンは
両手を浸した。冷たい水が痛みを伴って手の温もりを奪う。顔を顰めたが、今は冷たい
何かが必要だった。
躊躇した挙句、纏った道服を脱ぎ落す。冴え冴えとした月光の中、楊ゼンの肌が白く
浮かんだ。
楊ゼンは身を屈め、冬の水に体を入れようとした・・・。
「何をしている?」
ふいにかけられた声に楊ゼンは驚いて振り返った。変化までして来た場所、誰にも
はずはないのに。
海色の瞳が見つめた先に、闇よりも尚濃い影が映った。
「・・・っ」
慌てて取り上げた衣服で裸体を隠し、楊ゼンが後退さった。
「気でもふれたか? このように冷たい水に」
玉鼎が歩んでも、楊ゼンはもう動けなかった。腕を取られて風を遮る木立の間に連れ
られる。
「それとも、水で流さねばならぬほど、やましい事でもあるのか?」
ふるふると首は振られたが、瞬時に帯びた動揺の気配を玉鼎は逃さなかった。
「楊ゼン」
後頭部を固定され、深い接吻が与えられた。舌先が唇を割り、竦んでいる楊ゼンの
舌を絡め、吸い上げる。
舌の付け根がちぎれるように痛んだ。
「ん・・・っ、んんう・・・」
息苦しさに楊ゼンが身を捩る。呼応したのか、腰を支えていた玉鼎の手がすいと
離れた。
解放されたのか、と思ったのも束の間、楊ゼンがうめいた。
握られた拳が鳩尾に深く食い込んでいた。
見開かれた瞳が急速に光を失い、意識が暗く濁った。


扉には当たり前のように外から鍵が掛けられていた。窓ガラスは嵌め殺しで、楊ゼンは
閉じ込められている事を知る。
キングサイズのベッドと小さなテーブルがあるだけの殺風景な部屋。壁紙もカーペットも
調度は見事だったが、覚えはなく、金霞洞ではないと思った。
空は既に黎明を迎えていた。進軍する西岐の陣ではもう一日が始まっているだろう。
楊ゼンがいない事を気にしてくれる者がいるだろうか? それとも仙籍の者特有の
気まぐれで片付けられでもしているか・・・?
成すべき術は何もなく、楊ゼンは横になっていたベッドに四肢を伸ばした。
そのままうつらうつらしていたのだが、空気の流れる気配に現実へと浮上した。
「師匠・・・」
ぼんやり呟く。まだ頭は半ばしか覚醒していないせいで、とっさに状況が掴めなかった。
玉鼎が薄く笑った。
「良く眠れたか?」
「お腹・・・痛い・・・」
「そうか」
楊ゼンの上に玉鼎が覆い被さる。
「な・・っ」
「飢えた顔だ。物欲しそうな色が浮かんでいる」
指摘された事に楊ゼンは赤くなった。事実だったから。楊ゼンは確かに飢えていたのだ。
心が、体が。
玉鼎が着物をはだけさせた。
「や・・・師匠・・・」
指で秘所を探られ、狼狽した声があがる。 
入口に爪先が引っかかり、楊ゼンはざっと粟だった。伸しかかる玉鼎の胸を叩いて拒絶し、
力いっぱい暴れる。
例え飢えていても、求める事は楊ゼンのプライドが許さなかった。だから、深夜氷のような
水で体の熱を収めようとしたのに。
抵抗を止めない楊ゼンに、玉鼎は寝台を覆う帳の飾り紐を取り、両手を縛めた。
「お願い・・・、やだぁっ、、」
片膝だけを折り曲げて晒させたところに指が突き刺さった。
「痛い!!」
楊ゼンが仰け反る。 
「内部は蕩けているのに、入口ばかりが初めてのようにきついな」
顎に触れられ、楊ゼンは蒼ざめた顔を覗かれた。引き攣れる痛みに顰められている目じり
に涙が滲んでいる。
「そこまで辛くなる前に、何故戻らなかった・・・」
「僕・・・は・・・」
楊ゼンが訴える。
触れられて、永く抱かれていない体が、抱かれる事を知る体が、玉鼎を求めていた。
それでも言えなくて・・・。
「眠れないのです・・・夜になっても、辛くて、堪らない・・・」
「私がそうしたのだ」
楊ゼンに再び接吻が加えられた。
「おまえの体を開き、受け入れて満たされる事を教えた」
貫いたままだった指が抜かれた。膝がさらに曲げられて、挿入の恐怖に、上回る快感の
予感に楊ゼンが怯えた。
濡らされる事はしていないのだ。
「嫌、や・・・」 
「何故?」
楊ゼンに言わせようというのか。答えないでいると、蕾に硬いモノが宛がわれた。
「舐めてでも欲しいか?」
はっと楊ゼンの瞳が開いた。視界がくらむほどの羞恥に全身が震える。
「して欲しい事を言わねば、挿れて交わるだけだ」
久しく使っていない部分で、しかも乾いたままされる苦痛。玉鼎は素直になれない
楊ゼンに容赦はしないだろう。
「・・・なめ・・て・・・」
「では私がしやすいよう、伏せて腰を上げなさい」
啜り泣きが楊ゼンから漏れた。


「飢えているのに、私を頼らなかったおまえへの、これは罰」
去り際、玉鼎は言った。
「僕を閉じ込められるのですか」
「ああ」
「そう・・・ですか」 
「ここはおまえの為のカフェス」
ぐったりと寝台にいる楊ゼンが聞きなれない響きにふっと頭を動かした。
「・・・鳥篭」
赤く濡れた唇へのキス。残る涙も玉鼎が吸い取った。
「日毎夜毎私を受け入れて満たされるがいい。私はおまえが壊れていくのを望みはしない」
「はい・・・」
嬉しくて。
楊ゼンは微笑んだ。
           
鍵が掛けられる。
新しい住人を迎えた、鳥篭。
 


投票所企画の第1月目です。
結果は玉楊で、裏で、監禁とか縛ったり、でした。                                                
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