満ちた月が大きくかけ始めた夜。星々の輝きが目を覚ます。
そんな夜に、玉鼎は一人杯を傾けていた。
既に空の瓶が何本も転がっている。
楊戩を早々に寝台に追いやり、散ってしまった花の名残を惜しむように夜を過ごす。
あの子が一緒に過ごすにはまだ早い。体が成長しきっていないのだから。
ふと思いを巡らせる。
微かに酔いを滲ませた玉鼎の瞳が、すっと細められた。
「・・・楊戩」
銀の盆に皿を乗せた楊戩が、近づいてくるのが見える。
「眠れないのか?」
「はい」
夜着に薄物を羽織っただけの楊戩が少し離れた場所に膝をつき、盆を置いた。
「お酒だけでは、体に障ります」
「世話焼きだな。それとも、ここへ来たい言い訳か?」
玉鼎が手を差し出した。
「おいで」
「僕を未成年だと、言われたのに」
「そうだったか?」
わざととぼけられるのに、ぷっと楊戩は頬を膨らませたが、拒む事はしなかった。
楊戩が差し伸べられた手を取ると、ぐっと引き寄せられた。
「あ・・・っ」
ふわりと玉鼎に押し倒され、上から覗き込まれる。
漆黒の髪が滝のように流れ落ちてきた。
「師匠・・・」
続ける言葉は唇で遮られた。
重ねられた唇からは、甘い香りがした。
「んん・・・っ、師匠、酔われて・・・」
「黙りなさい」
諭されては、何も言えなくなってしまう。
ただ、奪われるまま、楊戩は口づけを受け入れた。
口づけの間、玉鼎は楊戩の前髪を梳き、愛おしそうに頬を撫ぜてくれた。
その優しい仕草が嬉しい。
頬を撫ぜていた玉鼎の指が、首筋を伝い降り、襟の合わせから侵入した。
ぞくりと背に痺れが走る。
月も星も見つめているというのに。
襟を大きく広げられ、肩が剥き出しにされる頃には、楊戩の吐息は熱く変化していた。
腕を回し、玉鼎を抱きしめる。
そんな楊戩にくすりと笑った玉鼎が、さらに大胆に胸に手を差し入れてきた。
「や・・・」
思わず制止しかけた手は、逆に取られて地に縫い止められた。
軽くしか押さえられていないはずなのに、振り払う事は出来なかった。
しかし、玉鼎とて楊戩を抑えているせいで、腕の自由をなくしているのは同じだった。
もう悪戯はされない、と高を括った楊戩の首に、玉鼎がかり、と歯を立てた。
「あうっ!!」
朱く散らした噛み跡を舌で舐められる。仰け反り、無防備になった胸に、唇を彷徨わされ、
小さな尖りを捉えられた。
「ん、あ・・・」
敏感な箇所を容赦なく愛撫されて、楊戩は声にならない喘ぎを紡ぎ出した。
「ダメ、駄目です、師匠っ」
ともすれば、胸だけで達ってしまいそうになる。
そう、楊戩は躾けられている。
つと顔を上げた玉鼎が楊戩の耳元に囁いた。
「愛している」、と
普段は滅多に言って貰えない言葉。やはり師は酔っているのだろう。
既に楊戩は押さえつけらてはいなかったが、それに気づく余裕はなかった。
玉鼎の指が、緩慢に楊戩の中心に触れてきた。
焦らすように内腿を撫ぜ、中々そこに到達しようとしない。
「師、匠・・・」
楊戩が、玉鼎の衣の袖を強く握りしめた。
その弾みで肩が落ち、玉鼎の象牙色の肌が露わになった。
体を起こして襟を引くと、玉鼎は苦し気な表情の楊戩を見やった。
「そんなに欲しいか?」
玉鼎に顔を向ける事は出来なかった。
「・・・はい」
背けられた項に、唇が落ちた。
「浅ましい事だ」
玉鼎は苦笑したが、縋ってくる楊戩を退けはせず、熱を帯びたそこに指を絡めた。
「はうっ」
悲鳴が楊戩の喉の奥から絞りだされた。
びくびくと撓る体は、抱きしめられた。
もう逃げられない。
指と手で楊戩は追い上げられていく。
精通を覚えた頃より、こうして愛撫され、達く事を教えられているのだ。
どうすればより感じ、どうすればより羞恥を感じさせられるか、全てを知り抜かれている。
玉鼎が、頬に落ちる髪を煩そうに掻き上げた。
「う・・・ん・・・っ」
時間をかけられると、辛い。
達きそうになる度に巧みに遮られて、楊戩は襲い来る熱い波に身悶えた。
「や・・・、もう・・・っ、」
楊戩が涙を溢れさせた。
「わかった。では、達け」
促すような愛撫。
掠れた悲鳴が長々と尾を引き、楊戩は背を反らせ、長い髪を震わせた。
吐き出された白濁を受け止めた手を拭い、玉鼎が体を起こした。
「この先は、わかっているな」
「・・・師匠が望む通りに」
玉鼎は先ほど正したばかりの衣服を緩めると、座を組み楊戩を招いた。
気だるげに楊戩は身を起こし、玉鼎と向き合う。
縋るように腕を玉鼎の首から背に回した。
そんな楊戩の前に、玉鼎が自身の指を差し出した。
「濡らしなさい」
「あ・・・」
一瞬、楊戩は身を引いたが、瞳を閉じてその指を口に含んだ。
おずおずと赤い舌が動き、指先からまんべんなく根元までを濡らしてゆく。
充分に濡らされたのを見計らい、玉鼎が楊戩の口を開かせて指を戻した。
その指が秘所に宛がわれる。
つぷ、と音を立てて潜り込まされた。
「うう・・・っ」
濡れていても、痛みがないわけではなかった。
穿たれた指が、徐々に本数を増やし、内部から固い入口を解していく。
何度受け入れさせても、頑なさを失わない場所だった。
最終的に三本まで受け入れさせてから、玉鼎が指を引き抜いた。
弄られ、楊戩のそこは熱く熱を持って疼いていた。
「・・・さあ」
目で促される。
自分から受け入れろ、と。
体を戦慄かせ、楊戩は玉鼎の肩口に顔を埋めた。
それでも、許されるはずもなく・・・。
楊戩は唇を噛み、おずおずと腰を落とした。
「く!ああ・・・あ」
容赦のないそれは、楊戩を引き裂いた。
玉鼎が少し動くだけで、楊戩の体は苦痛を訴え、腰が引けた。
「駄目だ、楊戩」
逃げかける腰を掴んでさらに深く受け入れさせた。
首筋に楊戩の息づかいを感じる。
荒い吐息の中に啜り泣きが混じっていた。
それが玉鼎の熱をも呼び覚ます。
深く突き上げられて楊戩が悲鳴した。
「師匠、もう、や・・・です・・・っ、苦し・・・」
掠れた声で訴えかけるが、聞いてもらえるはずもなく、行為は続けられた。
しかし、募る痛みの中、楊戩は確かに感じ始めていた。
気づいた玉鼎は、楊戩の耳朶を軽く噛み、首筋を舐めてから徐に告げた。
「自分から動いてみなさい」
楊戩の耳にその言葉は届いたのか、玉鼎に縋ったまま、首が横に振られた。
「どうした、楊戩」
促されても、首は縦には振られなかった。
「仕方がない」
それきり玉鼎は、腰に回していた手を解き動くのを止めた。
「師匠・・・?」
いぶかし気に見つめた楊戩をそのままに、体を倒して横たわる。
「あ・・・」
体勢を変えられ、玉鼎の背を離れた腕が、縁をなくして彷徨った。
前へ傾いだ体を支えられる。
がくりと項垂れた肩口から青い髪が流れた。
「や・・・だ・・・、離し・・・っ」
いきなり無防備だった前を掴まれる。
「もう一度、してやろうか?」
あくまでも笑みを湛え、楊戩をぎりぎりまで追い詰める。
「楊戩?」
指をゆるゆると這わせて返事を待つ。
「う・・・んんっ・・・」
煽られた体は再び火がついた。
芯から湧き上がる物を無視する事は出来ないが、立て続けでは辛い。
「い・・・いい、です・・・」
楊戩は玉鼎の言葉を否定した。
「そうか」
しかし、楊戩の拒絶を軽く受け流し、玉鼎はさらに指を妖しくした。
絶え間ない指の動きに、楊戩の喉が二、三度小さく鳴った。
仰け反った顔から、汗が顎を伝い落ちる。
霞みかける意識の中、熾火のように燻りを掻き回される体はもう、限界まできていた。
玉鼎の胸についた手を握りしめ、楊戩は一秒でも早く、呼び起こされた熱い
高まりが去ってくれるのを願った。
それなのに、待ち望んだ解放は得られなかった。
楊戩の指は焦らすだけで、追い上げてはくれないのだ。
「あ・・・師匠・・・」
見つめれば、先ほどより艶やかに玉鼎が微笑していた。
絡められていた指は離され、楊戩がどんなに目で求めても、それ以上は触れてこなかった。
ますます熱は高まってくる。
切なくて、悔しくて・・・、でも、もう玉鼎を待つ事は出来なかった。
楊戩はゆっくり腰を動かし始めた。
「う・・・く・・・」
玉鼎が、そんな楊戩に手を添えてきた。
ヒヤリとした指に、一瞬体が震えた。
「ん・・・あ・・・師・・・」
玉鼎の名を呼びかけた言葉が飲み込まれた。
唇からは、喘ぎと荒い息づかいが漏れている。
胸についた腕が酷く震えていた。
「あ・・・あ・・・っ」
ぐらりと傾いだ楊戩が、倒れ込んでくるのを玉鼎が支えた。
「もう無理か」
体を起こした玉鼎は、細い体を組み敷いた。


傍らで目を伏せ、胸に頭を預ける楊戩の髪を玉鼎は撫ぜた。
「落ち着いたか?」
楊戩は答えなかったが、しがみつく手に力を込め、小さく頭を振った。
その仕草が愛しいと、顔を上げさせて額に口づけた。
熱が去った今、夜の風に冷えぬよう、衣を着せかけてやる。
「師匠・・・」
呼びかけた声は、指を当てられて遮られた。
「まだ、欲しいか?」
体は疲れ切ってはいたが、それでも玉鼎を欲していた。
「・・・はい」
言った途端、楊戩は抱き上げられた。
「!!」
「おまえはすっかり冷えてしまった。続きを強請るなら、屋敷に戻ろう」
「師匠が酔われてこんな所でされるから・・・」
きっと睨んでみたが、玉鼎には通じなかった。
酔いを残さぬ確かな足取りで、歩まれる。
触れ合う場所から感じる温もりに、楊戩は瞳を閉じた。


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