永泉が笛を奏でていた。夜の闇に染みて溶けていくような、旋律。長い睫毛に縁取られた
瞳は伏せられ、一心に樂に集中しているようだ。
かなり長い時間をかけているのか、永泉の指が僅かに強張っていた。それ故に、思い通りの
音が出せなくなり、苛立たしそうに眉が顰められた。
遂に唇から笛を外し、大きな溜め息を吐く。
心を落ち着かせる為に奏でた音に、返って神経がささくれてしまった。
正座した膝に手を置き、開いた窓から、春の夜空を見上げる。
月がない夜なので、瞬く星がくっきりと広がっていた。
「きれいですね・・・」
永泉が呟いた。
「星がこんなに見事なのは新月の一時だけとは、残念です。星を隠す月などなくなってしまえば
良いのに、と思いませんか?」
ゆっくりと振り返り、薄い星明りばかりの部屋の奥に目をやった。
「ああ、その位置からはわかりませんね」
静かに立ち上がって、永泉は縁から離れた。
「でも光はわかるでしょう?」
膝を揃えて泰明の前に腰を降ろし、可愛らしく首を傾げてみせる。穏やかな気配を纏った永泉
からは、他愛のない話をしているだけのようだった。
ただ、それは一方通行の会話だという事。
「・・・・・・」
答えがないのを知っていて、多くの言葉を永泉は掛ける。
「風も丁度良い季節です。今宵はこのまま開けておきましょうか。日月の霊気のより近くにいた
方が、泰明殿も安らげるのではありませんか?
尤も・・・・」
永泉が顎を取り、泰明を上向かせた。
「この姿では無理かもしれませんが、ね」
着物の合わせから覗いていた乳首を軽く弾き、永泉が袖で口元を隠して含み笑った。
「−−・・・!!」
幾度か弄られ、泰明がぴくぴく反応するのを楽しむ。嬲るほどに、彼は感度を高めていく。
それが、楽しくてたまらない。
泰明は囚われていた。腕は後ろ手に身体ごと幾重にも縄で縛められ、口には轡を嵌められて。
非力な永泉では、肌に食い込むほどきつく縛る事は出来なかったが、その分執拗に、絡め
られている。
そもそも用いられた縄の材料は濡らされた革で、乾くほどにきつく締まっていくのだ。
泰明の体温で温められ、もう半ばは乾いている。先ほどから身に締め上げられる痛みが起こって
いた。
「苦しいですか? 少し加減して欲しいと思っておられるのでしたら、私に教えて下さい。例え
喋れなくても、表現する事は出来るでしょう?」
色の違う左右の瞳が永泉を睨んだ。
肩を竦めてそれに応え、泰明に身を持たせかけた。
くす、と笑みが漏れる。唇の端だけが持ち上がる、冷たい笑みだった。
細く白い指が、触れたまま、つつ・・・と下に降りていく。
「泰明殿が、こちらを慰めるだけで屹立して頂けたら、すぐに私は満たされるのに」
乱れきった着物の裾を割り、永泉が身を屈めた。
温かな吐息がそれに掛かって、泰明がびくりと体を震わせた。
「怯えないで下さい・・・。大事なあなたのモノに苦痛を与えたりはしませんから」
「うううううっ」
ねっとりと口腔に含まれて、轡の下から留めようもないうめきが漏れた。
翳りの中に小さく縮こまってしまっている泰明を慰めようと、永泉が舌を絡め、頭を前後に振り
立てる。
大きく広げられて固定されている泰明の脚ががくがく震え、膝が間に蹲る永泉をきつく挟んだ。
「気持良いですか?」
唾液に塗れたソレを握り、眉を寄せている泰明の顔を下から窺った。
「それとも、何時ものように後ろも愛撫して欲しいですか?」
鈴口を指がきゅっと摘んだ。
「・・・っ!」
快楽ではなく、苦悶の表情を浮かべている泰明に、先ほど押さえきれなかった苛立ちがまた
頭を擡げてくるのを覚えた。
掌が強かに頬を打ち据える。打ってしまってから、はっと永泉が息を呑んだ。
「でも・・・私はあなたに抱いて欲しいのです。例えどんな手段を使っても」
赤くなった泰明の頬に口付けると、ふいと顔が逸らされた。
「構いませんよ。どのように拒まれても」
一度離れた永泉が持参してきた包みから、おぞましい張型を取り出す。
「せいぜい出来るのが顔を背けるくらい。ふふ、泰明殿のお好きな物です」
先日茜に使われた物だった。思う様泰明の血を吸ったそれは清められてはいても、禍々しい
気配を濃く残していた。
怯えた色が泰明に浮かぶのを感じて、永泉が頬に押し当て、大きさを確認させる。
「口を開けて・・・。今日は湿らせる事を赦して差し上げます」
永泉が轡を外し、呼気の為に薄く開かれた唇に張型を捩じ入れ、喉奥まで幾度も突く。
「ぐ、うう・・・、う・・・っ」
最後にぐるりと回転させてから引き抜き、唾液を纏わせたそれを秘所に当てた。
「・・・や、止めろ、永泉・・・」
「こうしないと、泰明殿は私を満足させてくれるようにはなって下さらないでしょう?」
「ああああっ!」
穿たれる衝撃に泰明は頭を振りたてた。
「ほら・・・感度がとても良くなりました・・・」
ふわりと優しく永泉が笑みを浮かべた。
右手で張型を操りながら、再び唇を寄せていく。
「赤く染まって・・・素敵ですね」
「お願いだ・・・もう、こんな事は・・・」
泰明が苦痛に顔を歪ませ、永泉に訴えた。
「嫌です。私は・・・泰明殿が好きだから。何時も抱きしめて可愛がって・・・そして私を満たして
下さい」
先端にきつく歯を立て、苦鳴を耳に心地よく感じて、永泉は自身に挿入されるモノへの愛撫を
続けた。

もはやノーコメント状態。私の書く永泉って・・・。
こちらも今回は閑話休題中休み、なお話です。次からはまた他のキャラが絡んできます。
というか、永泉が巻き込む。