「次は私の相手をして下さるでしょう?」
汗に濡れた泰継の体を永泉が絹で拭った。未だ穿たれているのと変わらない痛みを覚えて
いる泰継がひどく竦むのがあてがった布から伝わった。
呼吸をする度に、無理矢理引き裂かれた場所が疼いた。
「永、泉・・・」
「はい。何でしょうか?」
見つめてくる表情はあくまでも優しく柔らかだった。時親よりは上だと思うのだが、何処か年齢
では表しきれない不思議な気配が彼には存在した。
戦慄くばかりの唇に永泉が指を当てた。
「いっぱい泣いたせいで、乾いてしまっていますね」
にっこりと笑みを浮かべ、永泉は水差しを取り上げた。
「起き上がるか? 泰継」
時親が華奢な体を支え起こし、泰継を背後から抱いた。長い衣の袖に裸身が包まれる。凭れる
事の出来る安堵さに泰継がため息を吐いた。
「は・・・」
そんな泰継の肌に貼りついた後れ毛を時親は剥がしてやった。傍から見れば甘えているように
も取れる泰継の態度に一瞬永泉の瞳が冷たさを帯びた。
「さあ、お口を開けて」
永泉が身を乗り出した。
躊躇いがちにしか唇を開かない泰継に、警戒など必要ないと苦笑し、永泉は水を自らの口に含んだ。
「・・・?」
何をしているのかがわからないと、見つめる泰継の細い顎を永泉は捉えた。大きく開かれた視界
いっぱいに永泉が映った。
ふいに与えられた接吻。
甘い吐息が注がれるのと同時に、冷たい雫が泰継へと移された。
「ん、んん・・・」
注がれた水があまりにも気持ちよくて、泰継は夢中で喉へと落とした。乾いた全身に染み入る快感
に満たされる。
「もっと・・・」
唇が離れた時に、無意識に泰継の言葉は紡がれた。
「親鳥にでもなったようです」
覗いた赤い舌先を永泉は啄ばんだ。
「鳥・・・?」
「ええ。あなたは目覚めたばかりの雛と同じです」
「孵化するまで、ずいぶん時間を要した雛だが、な」
時親の手が胸元を擽り、充血した乳首に触れた。
「・・・あっ」
包まれた腕の中で泰継の身体が反り返った。未だ理解出来ない感覚。痺れにも似て、脳へと到達し、
意識を眩まさせる。
「水をもっとでしたね」
ゆったりした永泉の笑みが深くなった。
繊細な硝子造りの水差しが傾けられる。しかし、今度は永泉の口に含まれる事はなかった。零れるまで
に傾けられた壜から、透明な雫が滴った。
泰継の無防備な下肢へ向かって。
「ひああっ、あ・・・冷た、い・・・」
熱を帯びていた場所だけに刺激は強かった。弾力のある皮膚は水を弾いて流れとなり、幾筋にもなって
薄紅に染まった肌を彩った。
「胸の鼓動が聞こえるようです」
永泉が泰継の胸に顔を寄せた。
「どきどきしています・・・。ふふ、怖いですか?」
弄られてさらに赤みを増した乳首に口付け、水を追うように永泉の頭は下がっていった。
「嫌・・・」
捩りかけた体は時親が封じた。膝の下に手を回し、永泉の前に露に曝け出しさえもする。
「私を挿れる前に・・・快楽とは何かを教えてあげましょう」
凍りつく泰継を宥めた永泉が、小さく震えるモノの舌を這わせた。淡い茂みに縁取られたそこは、小ぶり
ながらもしっかり大人の男の型をしていた。
「心は無垢なままなのに、器はこうしてきちんと機能している・・・泰明殿と全く同じですね。ではあなたも、
開花させる度に見事に咲いていくのでしょうか」
「止め・・・あぁ・・・あ・・・」
泰継の手が永泉の髪を掴んだ。引き剥がそうとしたかったのだが、襲い来る波の大きさに、ただ震えて
握るだけになった。
濡れた、淫靡な音が響いた。
耳を覆いたくなるような淫らさに、泰継が頭を振った。
あえて聞かせるよう、永泉は音を立てているのだ。
時親が苦笑し、背後から泰継の耳朶を噛んだ。
「祖父、晴明を生んだのは河内に住む狐だという・・・。狐とは本来淫性の獣。彼の陰の気を継いだおまえ
はどうだ?」
「私、は・・・」
泰継の瞳が見開かれ・・・そして、翳った。
「秘める矜持の高さと、体から沸き起こる物との葛藤。それがあなたらしい」
囁いた永泉の指が奥へと忍び入り、秘所を探りあてた。
「一度開かれているから、指などは楽に飲み込んでしまうでしょうが・・・。力を抜きなさい」
「−−−−!!」
躊躇いもなく根元まで突き入れられて泰継から掠れた悲鳴が漏れた。
「好きです、泰継殿」
「違う、違う・・・。おまえは・・・私など・・・」
「いえ、あなたを」
ぐいぐいと容赦なくえぐりながら永泉はさらに囁いた。
「これからは、あなただけを」
前方への愛撫が再開される。男を受け入れる場所と連動させて追い上げる事で、快感を植えていく。
普通の男が覚えるのと違う方法で。こうして仕込んでいけば、泰継は後ろの刺激で達く事に、より満足を
覚えるだろう。
「私を咥えて、達きなさい」
永泉が細い足を抱え上げた。
座位の形に時親に支えられ、逃げる事も出来ずに・・・。泰継は再び傷ついた場所を開かれた。

終わりの見えない薫風は何処までいくのでしょう。
ご感想など頂けましたら幸いです。→