「ずいぶん呆気なかったですが、半分以上私の力で達ったという事をお忘れなく」
荒い吐息を繰り返して俯く泰明の顔を、鷹は上げさせた。
「それに・・・ここは内裏の治部省ですよ? いくら乱れても、このように床を汚されては困ります」
握った手から溢れた精は冷たい石の床に滴り、白い溜りを作っていた。
「おまえが・・・」
うめくように泰明が口を開いた。
「私のせいだとでも? 身分の知れぬ者らしい言いぐさですね。自らの否を決して認めようと
しない」
鷹通が机から降りて跪くように命じた。
「あなたのような方が何時までも私と同じ目線でいる事はおかしいですから」
引き摺り下ろした髪を掴み、鷹通は薄く笑った。
唇を噛み締め、泰明が膝をつこうとした時、部屋の外を歩いてくる何人もの気配に気づいた。
反射的にびくりと動きは止まったが、さらに鷹通は押さえつけ、自身は椅子に深く掛けた。
「口でして下さい。あなたと違って、私は部屋に撒き散らす事はとても出来ませんので」
わざと羞恥を煽り立ててからかい、泰明がもっと青ざめるのを楽しむ。
「嫌だ、人が・・・」
ふるりと泰明が首を振った。
素肌を晒す事は愚か、男に奉仕している姿など、人に見せられる物ではなかった。
「貴族が兆したモノを処理するのに、下々の者をはべらすなど、当たり前の事です」
「私は安部晴明の弟子で、陰陽寮に勤め・・・」
「それから八葉で」
言葉を遮り、鷹通が嘲笑する。裾の長い着物から覗いた靴が、床にいる泰明の股間を探った。
「あ・・・っ」
弾けて萎えたモノに靴先の圧迫が掛かって、痛みに泰明は顔を顰めた。
「尤も・・・下々とはいえ、三位以上の者がはべらすのは、下位とはいえ、貴族の子弟ですが」
逃げかける腰を鷹通が蹴った。
「やりなさい」
部屋の外など気にならないとばかりに、鷹通は泰明を引き寄せた。
「口が嫌なら、後ろに入れましょうか? このままで。裂けた血でもっとこの場所を汚したら、
あなたは捕らえられてしまうかもしれませんね」
鷹通が苛立ったように眉を寄せた。
「ご自分の立場がわかっているのですか? あなたは自身の不確かな身分を隠す口止めを
私にお願いしているのでしょう?」
床にたれた泰明の手がぶるぶる震えていた。
普段の行動から、彼の矜持の高さを知っているだけに、プライドの軋みは容易に鷹通には理解
出来た。
ここまでの精神を築いておきながら、出生、身分を証立てする物が何も存在しないのは返って
不思議だった。
「本当に自分が何者かわからないのですか?」
「私は先ほど言った以上でも以下でもない」
頑なすぎる態度。
それは何かを隠す為か?
「今、ではなく私が知りたいのはあなたの過去です。晴明殿が新たな弟子を迎えたのは、2年の
昔でしかありません」
「・・・知らぬ」
「ではもう言いません。私を満たす為だけの者になりなさい」
鷹通は着物の裾を寛げた。
泰明は一瞬だけ顔を上げ・・・それからおずおずと鷹通を口に含んだ。
熱い口中に包まれた快感に、鷹通がうっとうめいた。今まで経験した誰よりも、泰明のそこは熱く
滑らかだった。
「・・・舌を使いなさい、もっと」
流されそうになってしまうのを、椅子の肘掛を掴んで堪え、あえて鷹通はきつく命令した。
深く味わってみれば泰明の動きはぎこちなく、口淫に慣れた様子はない。態度からも、抱かれる事
自体、経験が少ない事が伺えた。
外のざわめきに怯えているのが、手に取るようにわかった。
ここを使うと鷹通は報告してあったので、人が入って来るはずもないのだが、泰明に教えてやるような
親切心など、持ち合わせてなどいない。
意思の力で反応を抑え、長く鷹通は泰明を苦しめた。
「その白い顔に掛けましょうか」
泰明が瞳を見開いた。衝撃を受けたはずみで歯が鷹通を掠めた。
「つ・・・うっ!」
かっとなった鷹通の足が泰明のモノを踏みつけた。
「ううううっ」
叫びかけて仰け反るのを髪を掴んで封じ、鷹通は喉奥深くに勢いよく迸らせた。
「こうした方が、部屋は汚れないですね」
鷹通はくすくすと笑って、泰明から自身を抜いた。
「ぐ、・・・ごほっ、あ・・・、ぐっ」
「顔に出されなかったと、私に感謝して下さいね」
咳き込むのを見下ろして、鷹通が冷たく言い、手早く乱れた着物を直した。
「良い物をあげましょう」
書棚に歩み寄り、中から一枚の紙片を取り出す。
「私の名であなたに戸籍を」
喉を押さえながら泰明が上向いた。
「故に、何時でも私の権限で取り消せます。この意味が理解できますね?」
書き上げた紙を持って、鷹通は泰明の前に身を屈めた。
「あなたは、これからも私に逆らえないという事です」
「鷹通!」
「汚した場所を清めて、今日はもう帰って結構です」
床に呆然と座り込み、きつい視線を向けてくる泰明を、靴がこつんと小突いた。
「・・・その舌でも使って」
泰明の驚愕を背で聞き流し、鷹通は振り返りもせずに出て行った。

Basis完結です。ねちねちした鷹通は、ねちねちしたまま終わってしまいました(汗)