泰明は朝から微熱を覚えていた。
最近、春には珍しく肌寒い日が続いたので、風邪を引いてしまったようだ。別段急ぐ用も
ないので、褥に泰明は横たわっていた。
時折こうして泰明は体の変調を覚えた。師は自分を創る時に、能力ばかりを考えて、
身体自体に気をかけなかったのだろうか。
死に至るとも思えず・・・尤も、創られた人形である泰明には死という物がわからないの
だが・・・ただ、ぼんやり天井を見つめうつらうつらしていた。
しかし、熱は一向に下がる気配はなく、昼を迎える頃にはさらに高くなった。
「水・・・」
広い屋敷は静まり返り、泰明の訴えを聞く者は誰もいなかった。
元より、泰明が住まう屋敷の一角は人が少ない。彼を顧みる者など、ごく一部を除いて
皆無なのだ。
唇が乾いていた。寝返りを打つのも億劫で、じっと獣のように、病が過ぎるのを堪える。
堪えれば、何であれ、やがて消え去っていく事を、泰明は短い生命の間に知識として覚
えていた。
「ん・・・」
幾度目かの浅く苦しい眠りから目覚めた時、泰明は部屋に人の気配を感じた。
「誰・・・だ・・・」
返事はなかった。
霞む視界を巡らせようとしたが、先に水を含ませた布が口元に宛がわれた。
無意識にそれを吸い上げ、やっと潤った口中に、溜め息が漏れる。
「うなされておいでのようでしたが・・・」
「永泉・・・・か?」
「はい。今日は藤姫の館に来られると窺っておりましたが、姿が見えませんでしたので」
そうだったな、と泰明は思い出した。一日姿を見せないと、この天の玄武は文を寄越してくる。
煩わしくて適当に返書を出しておいたのだ。
務めを疎かにしているわけでは決してない。しかし、陰陽寮の仕事もある以上、連日欠か
さず龍神の神子の側に控える事など出来なかった。
それは永泉とて同じだろうに・・・と泰明は苛立った。
「それでわざわざここまで、か。暇な事・・・だ・・・」
語尾が掠れた。気づいた永泉が、今度は直に水差しを差し出した。
「どうぞ」
永泉が泰明の頭を起こして支える。されるがままに水を全て泰明は飲み干した。
「熱がずいぶん高いですね」
日頃表に出ない永泉の白い手が、泰明の額に当てられた。
「離せ、永泉」
「・・・相変わらずですね・・・」
ふんわりと永泉が笑んだ。
「病を得ている時くらい、そう周囲に垣根を回らす事もないでしょうに」
「煩い。私の病んでいるのを確認したのだから、帰ったらどうだ」
「私はあなたの看病がしたいのです。対を成す玄武が病まれては、私も困ります」
「明日には治っている。私に構うな」
覗き込む永泉を払い除けようとした手が、逆に掴まれる。
「今日は私でもあなたを封じる事が出来ますね」
取り上げた手指に、永泉が唇を這わせた。
「な、にをする・・・」
「熱がある人って、私は好きです。とても熱くて気持ちいい。特に・・・」
ふいに褥に永泉の手が潜り込んで、泰明は瞳を見開いた。
「永泉・・・」
萎えたモノがぎゅ、と握られる。
「ほら、熱い。私に下さいませんか?」
平然と口にされた言葉の意味が熱のある泰明の脳に届くには、僅かな時間を要した。
「友雅殿とはされているのでしょう・・・?」
先程と変わらない笑みであるのに、何時の間にか永泉の纏う気配は変化していた。
「あなたが挿れられているとは思いますが」
「ふざけるな!」
永泉を拒み、起き上がった頭が熱でくらんだ。
「無理はしない方がいいですよ」
肩を押した永泉の手に逆らえない自分が悔しかった。
「聖職にある者のする事か、これが」
永泉の理性が戻る事に、泰明は望みをかけた。
「聖職にあるからこそ、ですよ」
にべもなく永泉がそれをはねのける。
包んだモノが扱かれても、顔を背け歯を噛み締めて泰明が堪える。
くす、と笑みが聞こえた。
「後ろに刺激がないと無理ですか?」
細い指がさりげなく滑り、固く窄まった蕾に触れてきた。
「んんっ・・・」
泰明がぴくりと反応した。抵抗を優しく、しかし、断固として押さえて封じ、永泉の指が潜り込む。
「このあたりですか?」
指が内部を抉る。永泉の細い物では満足出来ず、無意識に泰明が腰を揺らす。男を知って間も
ないが、既にそこを弄られる刺激を体は求めていた。
「ああ、立ち上がってきましたね。このままで・・・」
永泉が泰明の上に馬乗りになった。
「く・・・」
前方が、未知の快感に覆われた。狭い永泉の肉は絡みついて締め付けてくる。
「いい、です・・・」
永泉が背を反らせた。乱れた法衣から覗く首筋に汗が流れて伝った。
「あなたも、知っているでしょう・・・? この、感覚。・・・あ・・・心配はしないで、下さい・・・私も
して差し上げますから・・・。んんん、熱い・・・」
泰明は自分の体の上で快感を追い求める永泉を、別の生き物をのように呆然と見つめた。


事が終わり、永泉は泰明の精に塗れたモノに舌を這わせた。
「気持ち良かったでしょう? ね?」
答えられないのを承知で、執拗に嬲り舐め回す。その内、くるりと体の向きを変え、余韻に喘いで
いる唇に、己がモノを咥えさせた。
「しっかり濡らして下さい。私のでは物足りないかもしれないですけどね」
笑みはどこまでも穏やかで、優しげだった。
「ここで達ってしまいそうです。あまり喘がないで・・・」
そっと泰明を制し、引き抜いたモノを秘所に宛がう。
「力、抜いてて下さいね」
永泉が腰を進めた。
「・・・これからも、時々、こうして・・・」
抱いて欲しいのか、抱かれたいのか・・・泰明には彼の真意がわからなかった。

熱が呼んだ幻か・・・。

受けじゃないかも、これ・・・。反省。