鏡に向かって正座させた泰明の髪を、晴明は梳っていた。椿の油を櫛には
絡ませてあった
ので、梳く毎に長い髪は艶やかさを増した。
「ん・・・」
泰明が身じろいだ。
「どうした? じっとしていなさい」
晴明の言葉に、戸惑いの様子を乗せて、泰明は顔を上げた。瞬間、髪の中
に入ったままの櫛に毛が引かれ、眉がくっと寄せられる。
陶器じみた白い頬に指を這わせ、晴明が鏡越しに色の薄い瞳を見つめた。
大人しく泰明が座っていられない理由はわかっていた。それでも、命じれば
拒む事はせず、泰明は膝を折った。
見つめられて、大きな瞳がすっと伏せられた。
「辛いか?」
「・・・はい」
連夜の交わりに泰明の秘所は熱を持ち、疼いていた。意識を初めて与えら
れた時に負わされた裂傷は、手当てを施される事で癒えつつあるが、完全
に治りきる暇もなく体は開かれ、貫かれる。
「髪を結い上げた後で診てあげよう」
ぴくりと泰明が震えた。怯えが濃く未成熟な心を被っていく。
「嫌、です・・・」
泰明は項垂れた。髪の間から覗く耳が赤く染まっていて、羞恥を覚えている
事が晴明には窺えた。
「下肢は・・・隠しておくべき所です」
交わる度に泰明は人としての知識を増やした。桔梗の花から創り出した真っ
白な精神は、少しずつ晴明から”知”を植え付けられていた。
今では唯一与えている白の単を常に纏っている。一人でいる時でさえも。
無理に奪えば羞恥に怯え、脱げと命じれば涙を浮かべた。
「私の前では必要ない」
「どうして・・・っ」
「おまえは自分が人であると思っているのか?」
再び櫛が動き出した。梳りながら髪を右に寄せ、こめかみの横で丸く結んで
やる。
髪が崩れないよう、きつく結われたので生え際がちりちり痛んだ。
「流したままよりも、こちらの方が似合うな」
鏡に映った姿は目新しいように泰明は思えた。きっちりと結ったのだから、衣
を調えればもっと良くなるような気がした。
例えば晴明のような・・・。
「気に入らぬか?」
「いえ・・・」
腕が掴まれ、泰明は晴明へと向きなおされた。衣をと考えたせいで、乱れた
薄い単だけの姿が恥ずかしく、顔を上げる事は出来なかった。
震える手だけが晴明の袖を握っている。
「私に、衣を・・・」
躊躇いがちに泰明が口を開いた。
「師匠のような物が欲しい・・・」
「必要ないと先ほど言ったはすだが?」
晴明の答えは冷たかった。俯く顎にきつく指を掛け、上向かせる。
色の違う瞳は涙を浮かべていた。
その目元に口付け、優しく吸ってやっても、晴明は願いを聞く気はなかった。
「脱いで、そこに這いなさい。ああ・・・衣が大事なら下を捲るだけでも構わぬ
が」
冷笑に泰明はひどく強張った。触れ合った場所からそれは晴明にも伝わって
きたが、あえて突き放す。
ふるふると泰明が首を振った。
「言う事がきけないのか?」
反抗には罰が伴う事は教え込ませてある。逆らえはしないはずだが、何時も
より泰明は頑なだった。
「私は・・・」
晴明が力なく垂れている泰明の手を取り上げ、帯へと導いた。
「軽く惹くだけで解ける・・・」
「んんっ」
掴まれる手を払おうとするのだが、泰明の華奢な体から起こる力など、容易
く封じられてしまった。
泰明の手ごと、晴明が腕を引いた。握らせていた帯がするりと解ける。
「・・・あっ」
前がはだけ、薄い胸から腹までが露になった事で、泰明は身を捩った。
その僅かに離れた背に晴明が手を添えた。床に押さえつけ、纏った単を奪
い取る。
「嫌−−−!!」
結ったばかりの髪が宙に舞い乱れた。冷たい木の床に打ち付け、結び目が
弛んだせいだ。
ぱさりと顔に落ちかかり、涙に濡れた肌に張りつく。
「・・・泰明」
晴明が燭明かりに白く光る背を撫ぜた。
「おまえの覚えた感情は、私意外の人間に向ける物だ」
竦む背筋を指で辿り、尻の間にするりと潜り込ませる。
「やっ・・・」
神経の集まった秘所を擦られて、泰明が大きく仰け反った。
「傷にはなっていないな。充血してはいるが。ここを使われる事にも慣れてき
たか?」
爪先が固く閉じ合わされた襞を捲り上げた。指が半ばまで飲み込まされ、残
りは焦らすようにゆっくりと入って来た。
「師匠、・・・ああ・・・」
脱がされ、床に広がる単をきゅっと泰明は握り締めた。
滴った涙が白い着物に染みを作っていく。
「力を抜け。抱いてやろう・・・」
晴明の絹の衣がふわりと泰明に覆い被さった。

ちょっと久しぶりの晴泰です。泰明が少し賢くなってきたような・・・。