絹によって阻まれた泰明の唇からうめきが広がった。言葉を紡げなければ、
庭先で囀る鳥と何ら代わりはしない・・・覚えたばかりの意識が、そう、言う。
ならば何故このように苦しまなければならない−−−?
「−−−!!」
泰明が大きく仰け反った。
深く咥えさせられた晴明の指が、敏感な粘膜に爪を立てたのだ。痛みに分類
して良いか理解しかねる感覚が背筋を貫き、泰明は新たな蜜を零した。
また、指が熱くなる。
止めて欲しいと泰明が頭を振った。叶わぬならせめて少し休ませてもらいたい。
窓が大きく開け放たれているにも関わらず、部屋には濃い気がとろりと澱んで
渦巻いていた。
泰明の体は汗ばみ、心臓は早鐘のように脈打っていた。立て続けの吐精は、
新しい肉体から、力を根こそぎ奪い取っていく。
苦しい、苦しくて溜まらない!
瞳を開いても、涙で満ちていれば視界などないに等しい。もとより、床に這わ
されていれば、映る物などありはしないのだが。
体の左側に、式が扇ぐ風が触れる。それすらも安らぎではなく、今は疎まし
かった。
自分の気持ちを訴える術がない事が辛かった。空しく身を捩り、悶えるしか出来
ないのがもどかしい。
指が蠢く。
空っぽで痛みさえ覚えるモノが、巧みに内壁を弄られて切なく頭を擡げた。
迸らせた精で白くしとどに濡れて、それ自身も泣いているように見える。
立ち上がっても、震えるだけだった。幾度達かされたかわからないほど、昇り
つめさせられ、膝を立て、腰を掲げる事すら出来なくなりかけている。
がくりと泰明の体が傾いだ。
それが為に深く内部を抉られてしまう。
「うう・・・っ、・・・・」
「何をしている? まだ終わってはおらぬ」
晴明が冷たく言葉を掛ける。
空いた手で尻をきつく抓られても、もう体を支える事は無理だった。
背後で吐息がした。同時に指が抜かれ、差し出された布で晴明は泰明を弄った
全てを拭う。
「まだ力を全て染み込ませていないのだが・・・」
薄い泰明の髪を掴み、顔を上げさせた。そのまま華奢な体を起こし、膝に後ろ
抱きに座らせる。
肩で大きく喘ぐ泰明に腕を回し、抱きとめる事で落ち着かせていった。
落としていた泰明がつと視線を上げた。その先には撒き散らせた大量の物が
あって、羞恥にまた俯いてしまう。
「私の指だけだったのに」
耳元で晴明が囁く。
「ずいぶん面白い体に仕上がったものだ。花から創りあげたのだから、仕方ない
のかも知れぬが」
花は、性器を上に向けて曝け出す、淫らな存在。己を誇示して、繁栄を望む。
「涙が多いな」
濡れた目元に晴明が触れた。涙を指に絡めながら下に降ろして行き、泰明の言葉
を封じていた絹を外してやる。
「は・・・あ・・・」
突然自由になった口腔に大量の空気が流れ込み、激しい咳が泰明から溢れた。
そんな彼の顎を取り、苦しむ呼吸ごと、晴明が接吻で奪った。
「んんん・・・っ」
泰明がもがいて、袂の長い晴明の着物の袖を掴む。
・・・口付けは残酷なまでに長く続いた。
透明な糸が二人を繋ぎつつ、唇が離れ、次いで杯が宛がわれた。つんとした香りに
泰明が顔を顰めた。
「飲みなさい」
荒い吐息に開いていた唇に酒は注がれた。
強い刺激が喉を焼いたが、霞んでいた意識がすっきりしてきた。
「・・・ふ、うっ」
脱力しきっている泰明はしかり抱きしめられていた。崩れてしまわないように。涙ぐむ
のをあやし、そっと背後を振り向かせる。
扇で扇いでいた式の姿が消え、代わりに紫の花が敷き述べられていた。
「・・・・・・」
「私の力を注いでやったが・・・。人である私の気は、未だ完全でないおまえと相容
れぬ。後は花から補いなさい」
「私は人でないのか・・・?」
泰明がぽつりと呟いた。
「ただの式として創ったわけではない。桔梗の花が枯れてしまう霜月までには、落ち
着かせてやる。・・・私が」
薄い胸を掠めた手が、萎えた泰明のモノを包んだ。
密着した体がびくりと竦む。波のような震えが瞬時に起こる。
「止め・・・て、止めて!!!」
扱かれて立ち上がるものの、ソレは乾ききり、雫一つ滲ませなかった。下方に慎ましく
存在する双果実に締め付ける痛みが走り、泰明が弱々しく悲鳴する。
「あ、あ、あ・・・っ」
「前が嫌ならば、こちらにしてやろう」
花に泰明を押し倒し、晴明が圧し掛かった。
「嫌、だ!」
昨夜の痛みの記憶。晴明に貫かれて泰明は目覚めた。
「私を受け入れ、抱かれる事を快楽として感じろ、泰明」
指で散々嬲った場所に凶悪なまでに猛ったモノが穿たれた。
「あああああ!」
喉を振り絞っての叫び。
一面に敷かれた花々から力が流れ込むのと、与えられる激痛が体内でせめぎあう。
これが、快楽なのか?
泰明は混乱した。
これが・・・。

大地に根ざして咲く花が、泰明を包んだ。

地の楽園後編です。
このままで、あのお師匠様、って尊敬する師弟関係に
なれるのかなあ。