扉は外から滑るように開いた。
友雅の姿は、月光を背に受けているせいで暗い。漆黒でない髪だけが、僅かに光を弾いていた。
「意外だけど、大人しく待っていたようだね」
部屋の隅に膝を抱えて蹲る泰明に近付き、顎を取るとすいと顔を上げさせる。
「・・・それとも、諦めかな?」
「呪符を貼り、私を封じられていれば、諦めるより他はない」
苦笑が友雅かえら漏れた。
「最初からの諦感ではないようだ」
泰明の手首には、切られた縄の残骸が未だに纏わりついていた。
「私が出られぬと知っていて、石を与え、いたぶるのが楽しいか?」
「楽しいね」
頬に触れていた友雅の手が、肩に落ちたと思った瞬間、泰明は床に押し倒された。
「何をする!」
「抱くって言ったはずだが?」
「ふざけるな!」
泰明が足を蹴り上げたが、難なくかわされてしまう。それどころか反対に足首を掴まれ、大きく
開かされた。
「その華奢な体で私にどうはむかうのかな?」
面白がっている声。泰明の頭に血が昇った。闇雲に暴れても逃げる事叶わず、例え友雅から
離れても、部屋から出る事は出来ないのだ。
びりびり・・・
衣服が破られ、信じられないと泰明は瞳を見開いた。
「優しく脱がせるのが趣味なのだが、させてはくれないだろう?」
身につけていた物が布切れと化すまでにさほど時間はかからなかった。
「初めてなんだって?」
ふわりと見つめられる。柔らかい光を湛えた瞳がじっと泰明に注がれていた。
悔しさに泰明は涙を浮かべた。今まで親しくもなかった男。何故彼が自分を抱いたりするのか。
「泣けはするんだね」
「私に心などない、・・・そんな物、必要ない・・・」
「そうかな? 案外気づいていないだけかも知れない」
「何言って・・・」
「こういう事」
ふいに開かされたままだった下肢の間にあるモノをぎゅ、と握られた。
「はうっ!」
痛みに背が反り返る。
強く力が入っているはずなのに、動きは繊細で、ゆっくり追い上げ始めた。
「んん・・・あ・・っ、やめ・・・・」
ぞくりとした痺れに泰明が総毛立った。
「感じるだろう?」
「・・・感じる?」
「今味わっている事だ。機能は備わっているようだし、達く時にどんな顔を見せてくれるのかな?」
「嫌だ、離、せ・・・」
「指だけでは気に入らない?」
友雅が耳元に唇を寄せた。吐息が熱く触れ、泰明の意識がくらりと霞んだ。
「口でしてあげようか?」
「や・・・」
「普段、何事にも動じませんという感じの君が、取り乱すのも良いね、そそられる」
声が降りていく。長い髪が彼を追い、細い体の上に広がった。
「は・・・う、んんんっ」
刺激はねっとり訪れた。敏感な箇所が包まれ、未知の快感が湧き起こる。
「やめ・・・て・・・」
拒絶する手に力が入らず、ただ空しく友雅の頭髪を指がかすめるばかりだった。
「前だけでこんなになってしまっては、後ろを弄られたら、すごいだろうね」
袖口に隠していた小さな合わせ貝を友雅は取り出した。女が使う物に似ていたが、中身は紅
ではなく、とろりとした香油が詰められていた。
指に絡め、秘所に触れる。前方を嬲られる事に気の全てが向いている泰明をいい事に、強引に
一本差し入れる。
「・・・うっ」
異変、不快感。
「な・・・に・・・?」
「慣らさないと、君が辛い。さあ、どうやって貫いて処女を散らしてあげようか」
「はあ、あっ」
唇に含まれたモノに歯が当てられ、衝撃に泰明は果ててしまった。
「ずいぶん、呆気ない」
泰明を飲み下した友雅がくすくす笑った。
赤く上気した顔を逸らせているのを振り向かせ、深く口付ける。苦い味が口内に広がり、泰明が
眉を顰めた。
「君の味だ。苦くて・・・少し、甘いね」
「言う・・・な」
「何故?」
友雅の舌が無遠慮に動き回った。
「そろそろ、私も満たさせてもらおう」
羽織っていた上衣を床に広げ、泰明をうつ伏せに押さえつける。
「柔らかい褥でしてあげたかったが・・・」
脱力した体から、腰だけが引き上げられた。
「ここはどうにも、無粋だ」
泰明を、深く裂かれていく凄まじい痛みが襲った。
狭い空間に初めての絶叫が響いた。
「全てを投げ出した君の叫びが聴きたかった」
項に噛み付くような接吻が降った。


「次はこんな物が必要でなければいい」
呪符を友雅は破り捨てた。透明な涙を流している泰明に衣を掛けてやる。
「私を・・・辱めるのはもう止めろ・・・」
「それは出来ないね。私は君が気に入った」

扉の向こうは明るい月。
「この役目を私に求めたのは・・・」
友雅の言葉が最後まで聞き取れず、泰明は闇に沈んだ。

                 また気が向いたら続くかも。