藤姫はそっと、泰明の寝顔を見つめた。八葉が控える棟には、今まで訪れた事の
なかった彼女である。
それが急に出向こうと思ったのは、神子に対する泰明のふるまいがどうにも冷た
すぎると感じたからだ。
意外に気丈さのある茜は決して藤姫に苦言などしない。しかし、常に側にいる
者として、時折のぞく淋しげな表情に堪えられないのだ。
勿論、藤姫は茜が既に報復に出ている事など知りはしない。(cf.狂夜)
ただ純粋に茜の為に泰明を諌めようと、こうして初めての場所に足を向けただけ
だった。
だが・・・。
夏の日差しを御簾ごしに受けて泰明は眠っていた。言うべき事をいろいろ考えて
いた藤姫は、拍子抜けしてしまってぺたりと座り込んでしまった。
起こそうかと思ったものの、あまりにもあどけない顔をしているので、躊躇われた。
外は梢を揺らして夏の風が吹いていた。
「御簾の内など女の方のよう」
くすっと藤姫は笑んだ。
「何時もこのようなお顔をされていれば、神子様も落ち込まれないのに・・・」
ふいに人の気配を感じて、驚いた藤姫が振り返った。誰もいなかったはずの室内に
永泉が静かに座していた。
「あ・・・・・・」
「こちらに参られるのは初めてですね。ああ、あまり恥ずかしがらずに。泰明殿に
ご用がおありのようですが、目覚められるまでお待ちになられますか?
冷やした水桃をお出し致しますが」
「・・・ご迷惑でなければ」
顔を隠した袂の長い袖を藤姫は降ろした。
「丁度私も退屈していたのです。この暑さでは表に出て寺に戻る気にもなれませんし」
穏やかな微笑みで永泉は答え、桃を用意する為に立ち上がった。
出された果実は甘かった上に、あまり話した事もなかった永泉は優しく、藤姫は
かなり長居をしてしまった。
部屋が夕日で赤く色づき始め、はっとした顔が上がる。
「私っ、こんな時間まで・・・」
「神子殿が戻られるにはまだ早いですよ。でも・・・そろそろ泰明殿をお起し
しましょうか」
桃を入れていた桶とともに、永泉が運び込んでいた箱を手に取った。
「それは何ですか?」
「泰明殿に必要な物が入っているのです」
やんわりと永泉は言って、蓋を開いた。
「え・・・?」
収められていたのは、細いが頑丈に編まれた縄。他には彼女が目にした事の
ない物達。
「珍しいですか?」
永泉の髪が揺れ、彼が首を傾げた事がわかった。
初めて見る物であっても、それらが禍々しい気配を発しているように思えて
ならなくて、藤姫は言葉を失う。
「まだいたいでしょう? 藤姫、そのまま動かずに」
いざって泰明に近付いた永泉が、着物の襟をぐっと寛げた。
「・・・・・・っ」
現れた白い泰明の肌に、藤姫は顔を覆った。
そんな少女に永泉が含み笑う。
剥き出しにされた胸元を這った手が、下に降りて腕を捩り、縄を絡めていく。
「う・・・」
苦しげなうめきが泰明から漏れた。しかし、意識を取り戻してしまう前に、体は
身動き出来ないよう、きつく縛められていた。
「えい・・・せ、ん・・・?」
視界が霞むのか、泰明は何度も瞬いた。
「はい。よくお休みになられましたか?」
「何故ここに・・・」
体を起こそうとした泰明だったが、縛められているせいでバランスを取れず、
凭れていた柱から横に倒れてしまう。自由が奪われていることに、泰明が瞳を
見開いた。
「外せ、永泉」
声音は落ち着いていた。もうこうして、幾度もされた事故に・・・。
「朝になれば言われなくてもそうして差し上げます」
倒れた泰明を元通りに座らせてやり、唇に軽く接吻した。
「今すぐにだ」
「私にお付き合い下さい。今宵は泰明殿も楽しめます・・・きっと」
身を返した永泉が藤姫の肩を掴んだ。
「きゃ・・・っ!」
家族以外の男に触れられた事のない藤姫から、怯えを滲ませた悲鳴が上がった。
「落ち着かれて下さい、姫。泰明殿にご用なのでしょう?」
向き合う形に藤姫を泰明の前に引き据える。
「止めろ! 永泉」
「さあ。触れてあげて下さい。泰明殿が悦ばれます」
永泉が藤姫の手を取った。
「悦ぶ?」
「ええ」
人にはそれぞれ楽しいと感じる事がある、と女房達が口さがなく言っていたのを
藤姫は思い出した。
とても尋常ではないが、同じ聖獣を守護に持つ玄武・・・しかも優しい永泉が言う事、
偽りではないだろう。
「神子様の為にも、八葉の方にお仕えします」
少女の小さな掌がおずおずと触れてきて、泰明の肌が粟立った。
ひやりと冷たいくせに、吸いついてくるような感触に、最初驚いた手が離れかけたが、
永泉に促され、また這わされ出した。
「ああ・・・」
泰明が顔を背けた。それだけが出来る抵抗だった。
「見え透いたそぶりを」
淡く色づく乳首を永泉は捩った。
漏れかける悲鳴を唇を噛んで堪えるのが面白くないと、柔らかい先端に爪を食い
込ませる。
「あ・・・うっ」
押さえきれずに体が跳ねた。束ねられた長い髪が乱れ舞う。
「先程まで冷たかったのに・・・」
藤姫が頭を可愛く傾げた。
「お体、熱いです」
「気持良いからですよ」
「嘘・・・だ」
「嫌がるのは口だけですね。あなたは何時も」
散々に弄った乳首を、永泉の唇がねっとり包んだ。尖らせた舌で突き、押しつぶし、
様々な愛撫を加えていく。
「あ、ああ、あ・・・」
桜貝のような爪を持つ指が反対の胸に到達した。
ぷくりと立ち上がっているのを転がされ、吐息に切ない響きが混ざる。
指が動く度に返される反応が面白くて、藤姫は角度を変えてみたり、摘んで擦り
合わせてみたりした。
「くっ、くっ・・・」
横目で眺めていた永泉が笑った。
「もっと、いろんな場所を見られますか?」
永泉は箱から銀に夕日を弾く小さな刀を出し、泰明の着物にその鋭い切っ先を当てた。
「どうします?」
「して・・・」
「可愛い方ですね、星の姫」
「嫌、止めろ、永泉・・・」
泰明の首が振られる。
「ここまで来て止めてしまうなど、藤姫が可哀想ではないですか」
刃物に力が込められた。甲高い叫びにも似た音がして、絹の衣装はずたずたに
引き裂かれた。
「泰明殿が悦ばれている証をお教えしましょう」
細い永泉の手が下肢に降り、閉じれらないよう縛めていた両足の間から、既に
高ぶったモノを包んだ。
「ああ・・・」
びくびくと泰明が撓った。二人の視線が突き刺さり、羞恥が全身を覆う。
「なあに、これは?」
男の体を知らない藤姫が、不思議そうに問うた。
「興奮したり、悦んだりすると、男はこうしてここが大きく膨れるのです。普段は小さく
纏まっているのですが・・・ふふ、二人で触れてあげて、こんなになってしまっている」
「姫に差し上げようかと思っていたのですが・・・今日は私が頂いても構わない
ですか?」
意味はわからなかったが、藤姫はこくりと頷いた。
永泉がそんな少女に腕を回して抱きしめた。ふわりと良い香りがして、藤姫は気持
良くなった。
「・・・もう戻らないと」
赤く染まった頬を隠すように、藤姫が袖を上げた。
「お送りしましょう。廊下は暗いですから」
「でも泰明様が・・・」
「はい。後で私が慰めておきます。ご心配なさらずに」
永泉がふっと振り返った。
「たっぷりと」


二人の気配が遠のき、泰明は涙を流した。
堪える術を無くした瞳から、透明な雫が止めどなく溢れては、夏日の名残を残す床に
滴った。

発狂(いかれたとも言う)永泉帰ってきました(汗)
友泰のシリアスな話を書いた後にすぐこんなのを書いてしまう私って・・・。