沈黙が流れた。それは数瞬の事のはずだったが、泰明にとっては永遠に等しかった。
「それは本当かな?」
友雅の言葉は泰明をさらに追い詰めた。
「友雅・・・」
涙さえ浮かべた瞳が一度上がって・・・視線がまともにかち合い、また伏せられた。
「証明してごらん」
「どうやって・・・」
「抱かれるように自分で準備するといい」
言われている意味がわかって、泰明は頬を赤らめた。
「脱ぎなさい、この陽光の下で」
「私にそうせよ、と・・・」
「そうだ」
友雅は見つめてくるだけで、泰明を手伝おうとはしなかった。抱かれたいのは泰明で、
望みを叶えたいなら、自分でやれと・・・俯いたまま泰明は唇を噛んだ。
白い手が、かっちり締められた襟に触れた。悩むように指は触れては離れ、小刻みに
震えた。
器用に式や呪具を扱えるはずの手が、がちがちに強張り、ただ握り締めるのと変わらない
状態で着物に添えられている。
もどかしげに寛げようと何度も試みて泰明は気づく。
怖いのだ・・・と。
「出来ない・・・」
呟くように泰明が訴える。
「指が、動かないのだ・・・」
言ってしまってから、泰明は堪らず床に伏せてしまった。細い肩が友雅の前で無防備に
怯え震えていた。
「まるで幼子のように、駄々を言う」
友雅が苦笑した。
「望みを得る為の事も出来ないのかい?」
衣擦れの音がして、彼が近付いてきた。ぐっと力強く体を起こされ、衣が脱がされていく。
「ああ・・・」
「夏衣装など、落すのがさほど難しいはずもない」
帯が解かれ、前が肌蹴た。現れ出た胸に友雅の指が這い、悪戯に淡い紅をした乳首を
弄る。
「んんんっ」
びりっと背が痺れて、泰明は大きく仰け反った。下半身に熱が集まるのがわかる。摘まれて
尚も愛撫されると、吐息が切なくなった。
「あ、ああ、友、雅・・・あっ!」
突然指できつく弾かれた。感じている証に固く尖り始めていたそこが、刺激をまともに受け
止めてしまう。
「夜ではないのでね、床はないが・・・。君が固い場所でが嫌なのなら、用意させるが?」
この部屋に他者が入るのも構わないと友雅は思っているのか。
泰明は驚いて首を振った。
「ではせめて私の上掛を敷いてあげよう」
夏の花を染め抜いた華やかな衣が、板張りの床にふわりと広げられる。
「ここに、泰明」
優しく笑まれて、背を促された。
初めて抱かれたのも、同じ友雅の着物の上でだった。強姦に近い形で這わされ、貫かれた。
あの時から季節は巡った。
泰明の気持がゆらぐほどの時が。
押されるまま泰明は横になった。床の冷たさが、敷かれた着物を通して伝わってきた。軽く
震えた体に覆い被さった友雅が寄せた唇で耳元に囁いた。
「すぐに冷たさなど気にならないくらい熱くなる・・・」
「う・・・」
耳朶を舐められた泰明はぞくりとして背中を震わせた。友雅は宥めるように掌で胸元を撫ぜ、
さらに耳の穴に舌を潜り込ませてくる。
「いや・・・だ・・・・」
目眩がするほどの感覚が起こって、泰明は身悶えた。たかが耳を愛撫されているだけで
こんなにも感じてしまう自分に驚きを隠せない。
「ああ・・・、や・・・」
「嘘つきな唇はいらない。君が求めてきたというのに」
半ばまで漏れかけた新たな拒絶の呟きごと、泰明は吸い上げられた。脳が痺れる。視界が
白く濁る。
熱い、熱くて・・・!
何時解放を迎えたのかわからなかった。ぼんやりと目が周囲を映せるようになって初めて目に
したのは、掌に付着した白濁としたぬめりに舌を這わせる友雅の姿だった。
「何を、している・・・!」
止めさせようと伸ばした手が掴まれた。
「さあ、君の番だ」
腕が引かれ、ゆったりと座した友雅の前に据えられる。
「私が君のここをどう愛してあげるのかを思い出しなさい」
四肢をつかされた泰明が上目使いに、友雅を見つめた。
「今日、潤滑材として使うのは、君の唇だけだ。少しでも楽に受け入れられるよう、準備するといい」
「・・・・・・!」
頭に手が添えられ、下肢へ寄せられた。
欲しかったモノがこんなにも近くにある。泰明は唇を開いた。
「ん、んん・・・っ」
慣らしてもらえず、秘所が割られてしまう事への怖れも、彼を口にしている間にどうでもよくなった。
唇にあるものだけに意識が集中していく。このまま、果てしなく続いてもいいほどに。
しかし、友雅は泰明の陶酔をそう長くさせてはくれなかった。
ぐっと髪が掴まれた。乱れきっていたせいで、指に絡まり、引き攣れる痛みがあった。
這わされた下肢に友雅が移った。
「嫌だ・・・」
「今さらかい?」
友雅が聞き分けのない事への罰を与えるように潜らせた手で泰明のモノをきつく握った。
「ああーーうっ」
仰け反った泰明の首が激しく振られた。
「違う、この姿では、嫌、なのだ」
泰明は身を捩った。
「顔を見て・・・向き合っていたい」
瞬間、いとも簡単に泰明はひっくり返されていた。
固い床に背が当たる。
「友雅・・・!」
細い腕が差し伸べられ、友雅の首に絡まった。すがりついてくるのを友雅が優しく宥め、届く限りを
撫ぜ、愛撫してやった。
「欲しい・・・、おまえだから・・・だ・・・」
初めて発せられる泰明の告白。
友雅が秀でた額に接吻を与えた。

凍っていた、人形の殻にひびが入った。解けて流れた先には、まだこれから築かれるはずの、
未知の世界がただ、広がる。


Dollシリーズおしまいです。がっ、ずるずる長くなってしまったせいで、今回大事なとこが
すっぽ抜けてますよね。
なので、二人の熱いシーンのみを、番外として付け加えます。もうちょっと待ってて下さいねv

・・・もういいよとか言われそうな気もしますが。