褥のあまりの冷たさに泰明は目を覚ました。最初からそうだったのか、眠る前は温かかったのか、
記憶は奇妙に曖昧だった。
暦は既に春。休む体にかける上掛の着物も、毛を織り込んだ温かい物ではなくなっている。
だからだろうか。
乱れた髪を煩わしそうに頭を振って払い、泰明は手をついて体を起こそうとした。
した・・・つもりだった。
「・・・っ!」
下肢から鋭い痛みが突き抜ける。それは泰明の動きを止めるには十分だった。
「あ、あ、あ」
夜具を握り締めて泰明が呻いた。無理に膝を立てれば、とろりと流れる物を感じ、生々しいおぞま
しさに竦みあがってしまう。
抱かれたのだ。
この褥は慣れた泰明の物ではない。四方に垂れる絹には繊細な模様が描かれ、その向こうにある
几帳や壁代さえ、格が違う。
震える足を宥め、柱に縋ってやは立ち上がった。かろうじて体を覆っていた着物が落ちる。
その下には何も着ていない事に、泰明の頬が赤く染まった。
さりとて、夜具代わりの着物を羽織るような無様な真似も、他人の部屋を探る無礼な事もしたくな
い。
先ほどから、妻戸の外に気配を感じる屋敷の主に着物を貸してもらうべきだろう。
外気を遮る扉は、つかえがしてあるかのように重かった。
ぎ・・・と軋む音に、廂に座していた友雅が肩越しに振り返る。
「弥生、三月・・・」
歌を口ずさむように言葉を紡ぎ、杯に口をつける。
「薄紅の桃花はもう散り行く頃だが、朝はまだ寒いだろうに。おはよう、泰明」
「おまえが奪ったのではないか」
「違うね。私は命じただけだよ」
優美に笑って友雅は手を差し伸べた。
「おいで」
招かれるままに近づけば、腕を取られて膝をつかされる。その衝撃に泰明は顔を顰めた。
「どうした?」
後ろ向きに胡座した友雅の上で抱きしめられ、耳元に囁かれる。
「痛い、のだ」
「一体どこが?」
滑らかな胸に悪戯な指を走らせ、ぷつりとした突起を掠める。
「んん・・・っ」
昨夜散々弄られたそこは、赤く充血して腫れ、熱をもって疼いていた。
「や、嫌だ、触る、な・・・!」
「触って欲しくないのはここだけ?」
泰明の訴えを無視して、固さを増している乳首を摘み上げる。
「あああ、あっ」
「私の腿に触れる、君の可愛いお尻は、体以上に熱いね」
「それは・・・」
躊躇いに視線を彷徨わせた泰明は、酒瓶の横に置かれた鞭に瞳を見開いた。
「友雅・・・」
泰明を酷く打ち据えた物だ。
仕舞われる事なく、手元にある事に泰明は怯えた。
「君が良い子なら、このような物を使わずに済むのに」
「おまえの望むようになど、出来ぬ」
「何故? 私は君が愛しいからこうして側に置いて抱く。快楽に素直になれないのはどうして
かな?」
俯く顎に指を添えて仰向かせ、喉を擽る。
「性を知らない幼子ではあるまいに」
友雅の言葉に、泰明がぴくんと反応した。秘めている・・・否、秘めておかなければならない
秘密が泰明にはあるから。
姿相応の年齢ではないという事。友雅の言う通り、泰明は何も知らないのだという事を。
褥に引き込まれ、押さえつけられ、抱かれる事は恐怖だ。逃れる為に抗うのは本能だ。
それが何故いけないのかが、わからない。
「私の事を嫌っているのかな?」
「違う!!」
即座に否定した泰明を僅かに振り向かせ、赤い頬に口付ける。
「嬉しいね。だからこそ・・・」
胸に手を当てれば、突き破りそうに速い鼓動が感じられた。
「全てを私の物にしてしまいたい」
つつ、と指を滑らせ、無理に開かせていた脚の間にあるモノを包み込む。
「ひあ・・・っ」
「敏感な体はもう、感じているね」
柔らかく揉みしだけば、嫌々と頭を振った泰明が、膝を閉じあわそうと身じろいだ。
しかし、友雅の手を挟んだままだったせいで、よりその感触を生々しく感じてしまう結果となった
だけだ。
「やあ、やっ、あ、あ、」
固く強張る泰明をより強く腕で抱きしめ、止める事なく友雅は愛撫を続けた。
「駄目、だ・・・止め・・・」
「ほら、吐息が甘くなった」
溢れ出した蜜を絡め、さらに泰明を追い詰めていく。
「君が・・・愛しい。この私がこんなにも一人に縛られてしまうとは、ね」
「ん・・・あ・・・っ」
泰明から漏れる声が色を帯びる。
友雅に蕩け、脳が真っ白になった瞬間、泰明は極めさせられていた。


くったりと凭れかかる泰明に薄物をかけて抱き、友雅が溜息した。
寒さに目覚めたはずが、今また気だるい眠りに落ちている泰明の横顔を見るとはなしに
見つめる。
「何があるのだろうね。君のこの心の内側には」
頑なに閉ざす泰明の秘め事を、暴いてみせようと、決意し汗で濡れた髪に友雅は指を
絡めた。

泰明の続編のような感じでしょうか。