『華舞』掲載の嵯峨竹涼のアレンジ風。
舞台は嵯峨の竹林に覆われた屋敷。色んなこもごもは華舞を見て頂けるとわかるかと・・・。
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妻戸が大きく開いているせいで、夜風が吹き込んでいた。風除けの几帳が置かれていない室内に、風は
遠慮なく入って来る。
格子から差すのは淡い月光。
満ちるにはまだ早い輝きが、僅かな燭しかない部屋を照らしていた。
何時までも暑いとばかり感じていた季節も、日が暮れるともう肌寒いほどだった。
夜着の薄い一枚を身につけただけの泰明の体は、初秋の冷気に浸され、四肢の先は冷たく凍えていた。
最初は指先を動かしたりと、血を巡らせる努力をしたのだが、それも疲れた。
高々と上に引き伸ばされた腕は、頭よりずっと高い位置で格子に括られているのだ。
手首は絹を巻かれた上で縛められたので、食い込む痛みこそなかったが、いくら力を込めてみた所で、解けて
しまうほど緩くもなかった。
背を壁につけ、座した姿のままで。もう長い時間、泰明はこうしている。
裾が寛ぐのを厭って、折った膝を崩した姿勢は、足を萎えさせ力を奪った。
「・・・退屈かい?」
泰明が身じろいだ気配に気付いたのか、縁に座っていた友雅がゆらりと立ち上がった。
逢魔ケ刻の頃より、月星の支配する今まで、楽しんでいた酒のせいで、友雅の頬は僅かに上気していた。
「琵琶でも奏でてあげようか? それとも、最近流行りの物語を聞く方が良いかな? かなで書かれた書は、
夜を過ごす慰みにちょうど良い」
「要らぬ」
俯いたままで泰明は伸ばされてくる友雅の手を拒絶した。
「これを解け。私の望みはそれだけだ」
「君は永の物忌みだから」
くす、と笑った友雅が細い顎を取った。
「いけない何かに冒されないようにしてあげているのに」
「ただの言い訳だ」
乱れた前髪の下から、泰明は視線だけを上げた。
「おまえが内裏にそう奏上している虚言にすぎない。私の暦で、今が物忌みでなどあるものか」
「君自身がそう言った所で、誰が信じるだろうね。・・・君の師匠くらいかな? 殿上人の私が直々に奏上したの
だから、暦がどうであれ、君は物忌みなのだよ」
顎から、滑らかな喉を伝い降りた指先が、固い鎖骨を撫ぜた。
泰明の喉がごくりと鳴った。
「離、せ・・・」
「怯えているのかな? それとも、恐れ、もしくは・・・」
言葉を切り、襟から友雅が手を差し入れる。
「ああっ、あ、何をっ!」
「期待」
なだらかで柔らかい胸を擽った指が、小さな突起を掠めた。軽く触れる程度の行為にも関わらず、泰明は背を
撓らせた。
「私に抱かれる事への」
「そんなわけ・・・」
「楽も書も、君の退屈さを紛らわす個とが出来ないのなら、退屈だという事自体、忘れさせてあげよう」
薄い芯の入った両襟を掴み、友雅が力づくで泰明の夜着をはだけさせた。
淡い光に曝け出された肌は、燐光を放つかのように白く透き通っていた。
その白さの上に、点々と散る、愛撫の跡。
幾夜、幾たびも泰明はここで友雅に抱かれていたのだ。
唯一与えられた薄物の着物の裾が乱れる事を厭っていたのは、抱かれた痕跡を自身の目にしたくなかった為
だった。
湯も・・・水さえもないこの部屋の中で、汚れるだけ泰明は汚れていた。
帯に遮られて着物は上だけが剥がされた状態で、泰明の腰に蟠った。
「鬱血した傷は、愛撫の名残。君の感じる場所だ」
髪を横の除け、項にある傷跡に友雅が口付けた。
「う・・・」
ちり、とした痛みに泰明は顔を顰めた。
「少しかまうだけで、君の体は熱くなっていく」
「や、嫌だ。こんな事は・・・」
拒む泰明の言葉を封じる為に、友雅が胸に赤く咲く小さな乳首を爪で弾いた。
「う、ああぁ・・・」
「慣らす必要など、もうないね? 乾く間もないほど、抱いたのだから」
折り曲げられた泰明の膝を拭い、残酷に友雅が告げる。
「挿れるな、嫌だ、苦しい、のだ! だから・・・」
疲れた儚い抵抗は簡単にねじ伏せられた。足先が宙に浮き、膝で抱えた友雅の腕に体重がかかる。
「君の全てで私を受け入れる衝撃を和らげたいのなら、格子に掴るといい。そうすれば、この場所だけで体を支え
なくて済む」
泰明の脚を抱えたまま、友雅が這わせた指で濡れた秘所を探った。
「ひあ・・・っ」
「ほら、しっかり掴ってごらん」
「出来な・・・っ、力など、入らぬ・・・!」
熱い友雅を押し当てられて悲痛に泰明が訴えた。
長時間括られた手で、自分の体が落とされる事を防げるはずがなかった。
勿論知っていながら、友雅は意地悪く教えたのだ。
「では、そのまま私を受け入れなさい」
既に満ちるほど注がれた物の滑りに導かれ、一息に最奥まで友雅は泰明を貫いた。
「−−−−!!」
空しく格子に縋った手が、ずるりと剥がれた。
縛めが手首に重くのしかかる。体の重さが受け入れる深さをさらに増していく。内臓が圧迫され、体内に言い
知れない苦しさが溢れてくる。
「嫌だ、助け、あああっ」
「月が助けてくれるとでも? この嵯峨の屋敷に、人は誰もいない。わかっているはずなのに」
ざわざわと風が鳴った。
竹林深く、隠れるように建てられたこの場所の風は、洛中よりも寒い。
「友雅、友雅ぁ」
泰明の頬に伝った涙は友雅にそっと吸い上げられた。
「沸き起こる熱を冷ましてくれるような風だね」
くくっと笑って友雅が仰け反った喉に噛み付くように接吻した。
「君の物忌みは、もっと・・・続く」
甘い囁きが泰明に注がれた。

括られ泰明の話は、もう1本続きます。ストーリー的には読みきり。舞台設定にのみ関連があります。