御帳台を覆う帳を潜り、私は友雅が身を休める為の空間に入った。夜具は片付けられて
いたが、残っている友雅の気は濃厚で眩暈さえ覚えた。
畳まれていた着物を腕に抱き、そこへ顔を埋める。友雅を抱きしめるように。そうする事で
少しでも心が落ち着くように。
言われた通りの姿になる事には抵抗があった。しかし、逆らったとて、与られる罰がひどく
なるだけだとわかっている。
友雅はそういう男だ。
私がぐずぐずする事さえ、苛立ちを増幅させるだけだ。
友雅の着物を下に置き、再び腕に抱いて体を伏せる。躊躇いを振り切る為に唇を噛み締め、
私は膝をついて下肢を掲げた。
その様子を眺めていた友雅が、近づいてくるのを感じた。
言葉はなかった。
前触れさえなく、空気を切り裂く鋭い音が響いた。
「あ・・・あっ」
友雅に向って差し出した臀部に焼け付く痛みが走った。冷たいはずの鞭が炎のように熱を
持って私の肌を侵す。
痛みは打たれた瞬間ばかりではなかった。その場所からじんわりと疼痛となり、尻全体に広がって
いく。殺したはずの呻きは、留めきれずに漏れ、ぎゅっと瞑った目の奥から涙が滲んだ。
鼓動が跳ね上がる。動機の激しさは受けた衝撃に堪える為なのか。
すぐに次の打擲を友雅は行わなかった。
それは労わりなのではなく、私が立ち直る為の時をわざと与え、いたぶっているのだ。
乱れた呼吸が治まってきた。
苦しかった胸の痛みが少しずつ去っていく。私のそんな様子は友雅にも伝わっているだろう。
とても振り返って確かめる気になどなれなかったが。
着物を握る手に力を入れた。その衣擦れが合図だった。
再びの痛み。
こうして打たれる事初めてではない。なのに、記憶している痛みより、遙かに今の方がきついのだ。
私はとっさに腰を揺らし、逃げてしまった。
自分でも意識していなかった。痛みを避けようとするのは、生き物の本能だから。私もそうしたに
すぎない。
しかし、それは友雅の怒りを誘うだけだった。
逃げた先にさらにきつくなった一撃が振り下ろされたのだ。
「ああああっ」
顔を埋めた着物から首を仰け反らせ、私は叫んでいた。
「逃げるな」
言葉少なく叱責された。
さらに一打。
「あ、あ、ああ、止めて、痛い・・・ああっ」
逃げてしまいたいという気持ちの私の脳は満たされる。
「・・・・っ!」
ふいに脹脛を踏みつけられた。重みに私は動きを止めた。
「じっとしていないと、打たれる回数が増えるだけだ」
意思の力で本能を退け、苦痛を受け入れろと命令。それは残酷極まりないように思えた。
「それとも、君は打たれるのが好きでわざとしているのかな?」
「馬鹿な、事を・・・っ」
足を押さえる事で動きを制限し、友雅はたて続けに私を打ち据えた。
呻きを堪える事などもう出来なかった。握った着物に額を押し付け、叫びと苦鳴と啜り泣きを絶え間
なく私は漏らした。
「元の姿勢になりなさい。いい子にしていればすぐに終わらせてあげよう」
嘘だ、私は胸の中で叫んだ。
友雅は怒っている。程度のほどは測れないが、そ怒りがわかるから、すぐにこの罰が終わるわけ
はないのだ。
でも・・・私は知っている。
打たれる痛みが終わった後に抱かれる事を。
それを期待しているのか、否か・・・、もう、わからない。
私は震える体を宥めながら、下肢を突き出した姿に戻った。
「君の肌は白いから、打った跡がくっきりと残るね」
つ、と膝をついた友雅にじくじく痛む皮膚を撫ぜられた。
「う・・・」
浮かんだ蚯蚓腫れを辿られているのだろう。指が動く度にぴりっと痛み走った。
無防備に打たれる事を待つ屈辱に、頭が痛んだ。脅されて言いなりになり、そしてそれを受け入れて
しまう自分も、嫌だった。
「すごく、いい眺めだ」
ふいに指が離れた。
鞭がまた、空気を切り裂いた。
もう、打たれていない場所など何処にもない、というくらい尻を打擲された頃、私は解放された。
何時、終わったのかもわからない。友雅に差し出したそこは痛みの余韻を残し、私を苦しめる。
堪えようと身悶える私を友雅は背中から抱きしめてきた。
顎に手をかけられて振り向かされる。涙に潤んだ瞳では、目の前にいる友雅の姿さえ滲んで見えた。
汗で貼り付いた前髪を掻き上げる事もせず、そのまま友雅は私の額に接吻をした。
口付けは目元を通って涙を吸い、少しずつおりてきて私の唇に辿りついた。
喘いでいたせいで閉じきっていなかった唇簡単に割られてしまい、口腔を思うがままに蹂躙された。
怯え、逃げようとした舌は巧みに捉えられてしまった。
長い口付けが終わる頃には、私はこの深い接吻にすっかり馴染んでいた。
差し伸べられた手に私は頬をすり寄せた。何故そうしたのかわからない。触れる友雅の温もりは、
私を痛めつけた相手だという事よりも、縋りたい思いにさせたのだ。
「体を起こしなさい」
腰を抱かれて私は友雅の前に膝をつかされた。
ふらつく体は支えられたたが、頭を押さえられ、私の前にゆったりと座る彼が求めている事に気付いて、
私の頬は熱くなった。
拒めばまた、打たれるのだろうか。
恐れは私を従順にさせた。
引き寄せた脇卓に身を預けた友雅の前に私は屈み、絹の着物を寛げて既に兆しを見せているモノを
取り出した。
拙い奉仕を始めた私に、友雅が声をかける。
「抱かれる悦びを、精神の奥まで染み渡らせた後に、様々な事を教えてあげよう。今はまだ、苦痛が、
羞恥が、先に立っているようだから」
そこで言葉は途切れ、苦笑混じりに小さな呟きが聞こえた。
「無論、躊躇いもなく脚を開くようになってもらっては困るのだが・・・」、と。
私の顔を隠していた乱れ髪が長い指に絡められ、除けられた。
「可愛い表情だ、泰明」
反論しかけたが、くぐもった呻きにしかならなかった。唇を塞がれているのだから当然なのだが、
そんな事にもすぐ気付かなかった。
頬を伝う涙が拭われ、濡れた手が私の体を愛撫してきた。
「ん・・・、ん、んっ」
深い場所から熱が起こり、漣のような震えが起こった。
私の仕草は友雅の情欲も掻きたてたのか。
強引に口淫を中断させられ、押し倒された私は友雅に貫かれた。

遅くなりましたが、泰明一人称SSこれにて終了です。ここまで感情が起伏したら泰明じゃないですね。
私は楽しんで書きましたが、何時にも増してエセ度が高いというか・・・。
この作品はドリーム小説(ナンバー11.私の古い作品です)のMISTERY?2の泰明目線の書き直し
版です。
MISTERY?の方は攻の一人称なので、友雅と限ったわけではないのですが・・・。
合わせてそちらもお楽しみ頂けると嬉しいです。