ねちゃりと粘質な音がした。二本の指で挟んだ玉が転がしていく間にゆっくり溶け、粘りを出して
いるのだ。それは指を伝い、床へと向って滴った。
「体温を吸って柔らかく蕩けるのです」
鷹通は説明した。
「指だけで、こんなに柔らかく。もっと温かな身の内であれば、存分に潤わしてくれるでしょう」
燭明かりを弾いて何処か淫靡に光る指先を見つめていた鷹通が顔を上げた。
「そう思いませんか?」
「・・・知らぬ」
卓に座らされた泰明は横を向いたまま答えた。
「ご興味がないとは残念ですね。・・・では・・・」
綴り続けた口を閉ざし、鷹通は泰明へと手を伸ばした。
緩く纏っていただけの単の襟を掴み、はだけさせていく。初秋の寒さから守る為、身についていた
厚い狩衣は既に奪われていた。
指貫すら脱がされ泰明は丈の短い単から素足を覗かせ、冷たい空気に震えている。
「炭を入れなくても、すぐに必要なくなります」
耳元へ唇を寄せ、そっと鷹通が囁いた。
「ああ、じっとしていて下さい。逆らう事など、許しません。勿論、出来ませんよね?」
扉を除く壁の四方に設えられた棚を指し示す。そこには貴族以上の者達、所謂内裏に関わりのある全て
の人間のこ戸籍が収められていた。
「わかっている」
その中に・・・鷹通によって与えられた戸籍があった。
過去がない泰明の経歴は作られた物だ。その不自然さに気づいた鷹通に−−彼は京の戸籍を司って
いる−−問い詰められ・・・真実を告げる事など出来ない泰明は秘密の代償に体を求められた。
今も、秘め事の話を出すだけで泰明はこうして鷹通の元へと訪れる。
心など私は要りませんから。
鷹通はあっさりと口にした。
ただ、抱かれに来なさいと。
「手をついて、這いなさい」
肩に手が触れて泰明は体を竦めた。鷹通の手はこんなに冷たかっただろうか。冬の寒さのせいばかり
ではない、この冷たさ・・・。
泰明は一度顔を上げて鷹通を見つめ、溜息とともにうつ伏せになった。
「卓の上で這わせると、ちょうど良い高さになりますね」
くす、と鷹通が笑った。
「私が座しても、立っていても。支配する立場の者が身を屈めるなど、おかしいですから」
臀部を覆っていた単を背の半ばまで捲くり上げる。外気に晒された肌がざっとあわ立った。
「ん・・・、見る、なっ」
突き刺さる視線を感じて泰明が呻くような声を上げた。
「無理な事をおっしゃる」
軽く首を傾げた鷹通は、泰明の髪を嬲り、頭をきつく押さえつけた。
「腰だけを突き出していなさい。その方がもっと淫らです」
「止め・・・っ」
圧迫してくる力にかろうじて顔を横に背ける。片頬がひやりとした木に触れた。
獣が番う姿に堪え切れず、腕をついて体を起こそうとする泰明の手首を鷹通は掴み取った。
「悪い手ですね」
背中で両腕を捻られて泰明は苦鳴した。
「ご安心を、骨を折ったりなど野蛮な事はしません」
冷たい言葉が降ってきた時には、奪われた単の帯で縛められていた。血流が封じられる強さはなかったが、
引いてみても緩む様子はなかった。
鷹通が卓に腰掛、泰明と並んだ。
「震えていらっしゃるのですか? 怖がる事などないのに。あなたは私に抱かれて喘いでいればいい。
それだけの事です」
「触るなっ! おまえの手は・・・冷たい、のだ・・・」
「私が、ではないですよ」
泰明が嫌がるのにも構わず、臀部を両手で包み、そっと押し開く。
「あなたのお体が熱くなっているから、私を冷たいと思うのです」
滑らかな肌を撫ぜ、優しく諭してから鷹通は香油の塊の入った硝子瓶の蓋を開けた。
まだ大きい一粒を摘み、泰明の小さな裂け目へとあてがう。
「な・・・、い、嫌だっ!、鷹・・・通!」
「力を抜きなさい。私の指ごと飲み込みたいのですか?」
返ってくるはずのない返事を待つ気はさらさらなかった。
爪先に敏感な粘膜を引っ掛け、捲ると一気に根元まで二本の指を突き入れた。
「あああっ!!」
華奢な泰明の背が大きく撓った。
「痛い! 痛っ! 抜け、止めろ・・・っ!!」
懸命に振り返った泰明が叫んだ。
「あなたが、そのように取り乱す姿が堪らない」
笑みの形に鷹通の瞳が和らいだ。
優しく囁く間も指は押し込んだ香油の塊を泰明の内部に擦りつけ、溶かす助けをする。肉の内側は外よりも
ずっと熱く、油は簡単に溶けて泰明に馴染み始めていた。
「う・・・あ、ぁ・・・」
その異様な感覚に泰明は切なく身を捩った。
「気持ち、悪い、あ、く・・・んんっ」
「はしたなく、おもらしなどしませんよう」
つぷつぷと耳を覆いたくなるような音は、先ほど鷹通が指で弄んでいた時よりもくぐもっていた。体の内部から
起こっているその淫靡さに思わず腰を引きかける。
「駄目です」
空いた手が素早く泰明の両足の間を潜り、前方に小さく萎えたモノを握り締めた。
「い・・・っ」
「大人しく、受け入れなさい。すぐに・・・もっともっと熱くなって何もわからなくなる」
囁かれた口調には冷たさの中に熱を秘めていた。
何時も、穏やかで冷静な鷹通の本性が覗き始めているのだ。
「泰明殿・・・」
三本目の指が、入り込む隙を伺って、引き伸ばされた秘所をそっとなぞった。

濃いシーンは想像におまかせです。
最後まで書いてしまうよりも、妄想は膨らむのではないでしょうか。
また、続きを書くかもしれませんが、今回はこれにて。