「離せ・・・っ」
横たわる泰明に向き合う形に座らされて、泰継は頭を振った。
近くに寄れば、彼とあまりにも同じ姿をした自分が実感される。軽く顰められた顔、封じられた
絹の狭間から、浅い呼吸が漏れていた。
それがあまりにも苦しそうで・・・思わず差し伸べかけた手は、しかし、晴明によって遮られた。
「悪戯な手だ」
ぞくりとくる声で囁き、泰継の纏う着物の帯を解く。
「だから、自由を奪おう」
言葉のまま、抵抗など考えられないほどの力で両手を頭の後ろへ捻られた。帯が幾重にも
巻きつけられるのがわかった。
食い込むきつさはなかったが、揺すってみた所で緩む様子もないようだ。
「あまり心配そうな顔をするな」
晴明が泰明の頬を撫ぜた。
「傷をつけたりすると思うか?」
一瞬、泰明の朧に霞んでいた瞳が煌いたのを晴明は微笑して見つめた。
「時空を越えてきたおまえの分身だ。二人が仲良くなれるよう、良い物をやろう」
晴明が両手を胸の前に掲げると、闇がそこへと凝縮していった。周囲は既に濃い闇なのに、
それはさらなる黒さを持っていた。
・・・そして、闇はグロテスクな形を取った。
子供の腕くらいの長さと太さを持つ物体。いびつに捻れた物は見まごうはずもなく、屹立した男の
モノだった。
異様さを増しているのは、その両端がともに、亀頭の形をしていた事だ。
「二人で楽しめるように」
晴明の笑みが深くなった。
背筋に冷たい汗が滲むのを泰継は感じた。腕は縛められていても、まだ逃げる事は出来る。足先に
力を入れ、後退さろうとした途端、床がきゅっと鳴った。
「あ・・・」
見下ろしてくる視線に堪えられず、泰継は顔を伏せた。可愛らしい仕草に軽く首を傾げ、晴明が傍らに
膝をついた。
「口を開けなさい」
「・・・」
命令とは反対に泰継の唇は引き結ばれた。
「強情や反抗は使う場所を選べ」
細い顎を掴み、無理に口を開かせるとそこへ晴明はいびつな玩具を押し込んだ。
「ぐ・・・っ、う・・・うぅ」
仰け反って吐き出しかけるのを、方を抱く事で制した。
「喉を開け。もっと奥まで」
泰継の呻きにも、躊躇なく限界まで深く咥えさせる。初めて触れる体であっても、泰明と寸分違わぬ
のだ。晴明にとっては体の作り、構造全てを知り抜いているのに等しい。
溢れた唾液が伝い落ちる頃、唐突に玩具は引き抜かれた。
とたん、激しく咳き込む泰継から離れた晴明が泰明へ向き直る。
「おまえの為に潤された物だ」
「んんっ」
秘裂に濡れた先端を押し当てられて泰明はひどく竦んだ。
その怯えは十分にわかっているはずなのに、晴明は宥める言葉一つかけるでもなく、泰明に突き入れた。
「−−−−!」
封じられた悲鳴が掠れた音となって空気を震わせた。
「出すな。しっかり締めておけ」
無常な命を発し、晴明が泰継の腰を抱いた。
「離せ! 嫌だっ!」
これから起こる事態に泰継は身を捩り、可能な限り暴れた。
「私に逆らいきれるわけがない」
晴明はひどく楽しそうだった。
「おまえは私の陰の気のみで作られた物。それすらも泰明と分け合ったのだから」
緑に色づいた泰継の髪を撫ぜる。
「その器を与えたのはさしずめ時親という所か。ここまで泰明と同じに作るとは。 あの子供は泰明を
眩しいように見つめていたからな」
さらりと晴明は己が息子の子を口にする。
「さて、姿こそは同じだが泣かせてみればどうなる?」
冷たい手で足首を掴れ、泰継は怖気上がった。
強引に泰継を泰明と触れ合うまでの距離に近づける。嫌がって身悶えるのを軽くいなしながら晴明は
二人の足首を繋いだ。
既に手を縛られている泰継はこれで完全に逃げる道を閉ざされた事になる。
「大人しくしなさい。暴れると、余計に辛い思いをするとおまえに教えた者は誰もいないのか?」
繋がれた泰継の脚を晴明は大きく開かせた。
「ひ・・・っ」
強張った入口に硬いモノが触れた。
泰明が咥えた玩具だと気づいた時にはきつく押し当てられていた。
かちかちと泰継の歯が鳴る。
「い、嫌、嫌だ・・・、止め・・・」
「おまえが手加減が必要な無垢などと、私は思わぬ」
泰継が動かないよう、晴明が支えた。
「そうだろう?」
衝撃にがくりと仰け反るのと合わせ、おぞましい形をしたそれは泰継の体内へと埋め込まれた。
「あああっ」
「これで仲良く繋がったな。どうだ? 気分は」
晴明は泰継の汗で張り付いた前髪を掻き上げた。
浅い呼吸を繰り返すばかりで、全身を襲う苦痛に堪えている泰継からの答えはなかった。
勿論期待などしていなかった晴明は、肩を一つ竦めただけだ。
言葉がないのなら、別の楽しみがあるとばかりに二人を結ぶ物に手を伸ばす。
身の内に満ちる苦しみに気を取られていた泰継はその動きに気づかなかった。
ただ、反対にいる泰明の瞳だけが切なそうに顰められた。
容赦なく、黒い物体が回転した。
その衝撃のあまりの強さに泰継は跳ね上がった。
「あ、あ、あ・・・・!!」
括られた足首の紐がぎしぎしと軋んだ。
「身を捩れば相手を刺激するだけだ」
もがく泰継を見下ろした晴明がふと視線を泰明に向ける。
体に受けた物は同じなのに、泰明は泰継に揺さぶられるまま、自身はただ堪えていたのだ。
「ずいぶん思いやりに満ちた事だ」
汗で濡れた泰明の胸に手を這わせ、ぷつりと立ち上がった乳首を摘み上げる。
「・・・ん・・・」
泰明が小さく竦んだ。それすらも、泰継には伝わった。
「我慢する事はない。あれは達きたがっている。おまえが中途半端に堪える事で、苦しみは増す
だけだ」
甘く囁いて、泰明の項に唇を落とす。
柔らかな皮膚を噛まれて、きゅっと瞑った瞳から涙が一筋流れた。
「や、は・・・あ・・・っ」
泰継は酷く震えていた。
「お願・・・っ、もう・・・っ」
「応えてやれ、泰明」
躊躇いを囁きで封じ、晴明は二人から離れた。
昇り詰める瞬間を邪魔する気は毛頭なかったから・・・。


泰明の唇に噛ませた絹を晴明は外した。結わえた紐も解き、完全に自由にしてやる。
白い肌はうっ血の跡を残していた。
止まらぬ涙を流し、薄く開いた口で喘ぐ泰明に優しい口付けを与える。
最初は軽く頬に触れ、それから深く・・・。
泰継は半ばうつ伏せるように横たわりながら、それを見つめていた。
晴明が泰明の紫に変じた場所や掌に接吻していく様を。
「あれを解いてやりなさい」
背を支えられて体を起こした泰明が泰継に手を伸ばした。
「・・・大事ないか?」
掛けられた言葉の滑稽さ。
これだけの事をされて何故自分に大事ないか、などと問うのだ。
でも・・・と、泰継は晴明を見やった。
彼の手は強引なようでどこか優しさを秘めていた。
この泰明もそこに魅かれているのだろうか。
だとしたら・・・。
ふっと視界が霞んだ。
忘れていた水の音がした。
「月が満ちた夜も、黎明が近いようだ」
晴明が泰明と泰継に腕を回し、抱きしめた。
「今宵の不可思議は一夜限りか、また訪れるのか・・・」
掛けられた声は途切れた。


京を外れた北山の季節はいち早く冬を迎えようとしていた。
未だ雪が降るまでには至らないが、大気は冷たく張り詰めていた。
夢うつつを彷徨いながら、泰継は・・・晴明に近いある男を思い浮かべていた。

泰明がどうにも脇役すぎるので、番外として泰明目線編を書いてはいるのですが・・・
泰明の一人称に大苦戦。
無事完成したらUPさせます・・・(遠い目)