「今日はずいぶんと大人しいね」
訪れた友雅は当たり前のように泰明を組み敷いたのだが、何時もなら抵抗して
来るはずの彼が、両手足を投げ出したままなのに首を傾げる。
「さては何か悪巧みでもしているのかな?」
陶器のように白い頬に指を走らせ、色の違う瞳を友雅は覗いた。
平素のきつい光を宿していない双眸が、戸惑いがちに見つめ返す。
「私はわからないのだ・・・」
「何がだい?」
「それすらも、だ」
泰明が顔を背けた。
「こちらを向きなさい」
「・・・・・・」
従おうとしない泰明に、友雅は肌蹴させた着物の裾から手を潜らせ、慣らしてもいない
場所に指を突き立てた。
「ああうっ!!」
がくんと泰明は反り返る。友雅を咥えたそこが、収縮し、指を絡め取って締め上げて
きた。意識しての行動ではないが、これではかなり痛いはずだ。
腕の下にあるこの華奢な肉体は、本能でより辛い物を求めているのだろうか。
「抜い、て・・・っ」
口では拒絶しても、体はさらに力が入る。
「やああ・・・」
さらに押し入れられそうになって、口調が悲痛さを帯びた。
「では言う事をききなさい」
「友雅・・・」
上向いた泰明の瞳の端が濡れていた。
彼はこんなにも涙脆かったかと友雅は考えてしまう。
「わからない事があれば尋ねれば良い。わからぬのにわかったふりをして、賢しがるより、ね」
顎に添わせた手で泰明の顔を固定し、冷たい唇に口付ける。ぎこちなさが際立つ泰明が、
息苦しさにそっと喘ぐまで、長く。
「ん・・・」
流し込まれた唾液が唇から溢れた。
苦しくて、解放してほしくて、握られた拳が友雅の胸を打った。
「どうした? 私が来なかった間に、そこまで君を惑わす何があったのだ?」
「・・・師匠が・・・」
「清明殿が?」
途切れた言葉を促して、友雅が聞き返した。
泰明がゆるりと首を振った。清明が言った事を、この男に直に尋ねる事は躊躇われた。
「私はおまえがわからぬ」
「何度も身を重ねていても?」
友雅はくすりと笑みを浮かべた。
からかうと、敏感に反応してくるのが楽しいのだ。今も、白かった肌が羞恥の色を浮かべて
くる。
際立った感情などないと思い込んでいるらしい彼が、こうして変化しているのに、自身気づいて
いるのかいないのか。
「私を愚弄するな・・・」
「誰が愚弄など」
身じろぎかけるのを押さえつけて封じ、耳元に囁いてやる。
「言葉を交わすのが嫌ならば、先を続けようか。泰明、うつ伏せて腰を上げなさい」
ぴくりと泰明が震えた。
泰明、と名を呼ばれ、背にぞくりとした物が走った。
「ん? 犬のように這うのが、一番楽だと君は知っているはずだが?」
わざと、泰明を恥ずかしがらせる言葉を選んで。
「嫌だ」
案の定泰明は友雅の肩を叩いてそっぽを向いた。逃げる事は阻まれているのでそれが精一杯の
抵抗なのだ。
「拘束されるのは嫌だろう? てこずらせると、もっと酷い事をしたくなる」
「いい加減に・・・」
「諦めが悪い。私に抱かれる事はどう君があがこうと、変わりはしないのだから」
腕を取り、泰明を無理矢理伏せに返させる。
「止めろっ!」
「本来の君が戻って来たようだ」
腿に降り、膝を立てさせようとしてくる友雅の手を、蹴りつけ、体を捩り、泰明は可能な限り
抵抗した。
とたん、ぱあんと音高く尻が打たれた。
「あう・・・っ」
穿たれるのとはまた違う痛みに、泰明がうめきを上げる。さらに何度か打ち据えられて、そこが
かっと熱を持ったのがわかった。
「まだ打たれたいなら暴れるのを続けなさい。・・・尤も、頭があるなら、どうするのが一番良い
選択かわかると思うけどね」
もう一度、拭うように下から打ち、友雅は手を止めて、泰明の行動を待った。
「・・・・う・・・」
漏れたのは啜り泣きに近い声。
泰明がゆっくりと下肢を突き出した。友雅の望む通りにすれば、打たれる事だけは止むはずだから。
「良い子だ」
この男が何故、自分を一番慈しんでくれるというのだ。苦痛を与えられた先に慈しみがあるのなら、
そのよううな物は必要ないと、泰明は涙の滲む顔を隠してシーツに押し付けた。
泰明の背が震えているのを、友雅はじっと見つめた。
睦みあう事を、苦痛に置き換えてしまっているのがありありとわかる。
「感情がない・・・か」
友雅は呟き、貝に仕込ませた香油を指に拭った。
既に窄まってしまった蕾に塗ってやると、嫌だ、と泰明が何度も口にした。
拒む言葉とは裏腹に、執拗に嬲ってやると内側から綻ぶように開いてくるのも、友雅が知っている
泰明の反応だった。
ここまで柔らかくなるくせに、いざ受け入れるとなるとぎちりと閉ざされ、あえて苦痛を大きくする
道を選ぶのだ。
「・・・泰明」
彼を、何時、変えられる?

というわけで、まだ終わりが見えない・・・。