永泉の着物は、何時しか溶けた水を吸ってぐっしょりと濡れていた。
体温で温かくなった水の不快さに一瞬顔を顰めたものの、泰明と遊ぶ事を中断する気はなかった。
背を氷に押し付けられた泰明は、永泉と違って寒さに唇さえ震わせている。
「吐息は熱いのに・・・」
接吻で永泉は自身の熱さを流し込む。
「ふ・・・っ」
「冷たい・・・、永泉・・・」
普段はきつい光を浮かべるばかりの瞳が、今は潤んで涙さえ浮かべていた。
永泉は弄っていた胸から手を下肢へと滑らせた。
「や、触れるな! あ、あ・・・っ」
「あなたは私に抱かれるのです。自由を封じられているのですから、もう理解して下さい」
細い体の上に乗り上げ、永泉が白い顔を覗き込んだ。
「理解しても・・・納得など出来ぬ!」
この状態になっても、泰明らしさが失われていなくて、永泉は嬉しくなった。
「心まで欲しいとは思いません。いずれはそれも頂きたいですが・・・まだ・・・」
掌に包んだモノをきゅっと捻る。
「あくっ」
「痛みばかりなどという、無粋な事はしません」
ね? と耳元で囁くと、小さく震えるのがわかった。
「夏である事を忘れてしまいそうですね・・・」
柔らかく揉みしだいてやると、形良い泰明の眉が顰められた。
「離せ・・・」
「何故?」
「おまえに触れられる理由などない」
「この後に及んで」
くすくすと永泉は笑った。
羞恥ばかりではない熱に、頬だけを染め泰明が小さく喘ぐ。体は氷の冷たさをいっぱいに感じている
にも関わらず、奥深い場所に熾火が灯る・・・。
「は・・・」
唇に掌をあてがい、泰明の熱を確かめる。苦しげにくぐもった呻きが手首から腕にまで伝わってきた。
「う・・・、く・・・」
「お体は素直ですね・・・。お心もそうであれば良いのに・・・」
永泉の瞳が翳った。
「私はあなたを最初は、怖れました。今まで出会ったどの方とも違っていたから。それが欲しいという
気持ちに何時変わったのか・・・。私にもわかりません」
ふわりと紫がかった髪が泰明の胸の上に流れた。
追い上げていく指の動きは止めずに、永泉が体を寄り添えた。
「永泉・・・」
彼の抱える闇が、僅かにわかったような気がした。
「私に憐れみなど必要ありません」
泰明の視線に気づいた永泉が、きっと顔を上げた。
「あなたになど・・・」
包んだ手に力が加えられた。
「い、痛っ・・・!!」
男の急所に理不尽な圧力が与えられて。苦鳴を泰明は漏らした。
「遊びの時間に無用なやりとりなど・・・いらない」
細い泰明の脚を割り、体を割り込ませる。
「おつきあい下さいね。尤も、あなたに拒む権利などありませんが」
氷面に穿たれた鎖を軽く引いて、にっこりと永泉は笑った。


杭が溶けかけた氷から抜け落ちる頃には、泰明は動くのすら億劫なほど疲れていた。
元より、行李に入れられ酸欠に近い状態で運ばれてきたのだ。最初からまともではなかった。
ずぶぬれの体は冷え切り、傷を負った獣のように身を丸めて震える。植えつけられた熱は既に過ぎ去
っていた。
「私がお嫌いになりましたか?」
永泉の手が頬を撫ぜた。
「私にどう答えて欲しいのだ・・・」
「わかりません」
「人は心を望む物だ。おまえも人ならば、私にそう求めているのだろう。おまえの欲しいという思いは、
私の心だ」
ふっと泰明が横を向いた。
「枷を外せ」
杭は抜けていたが、未だ泰明の手足は枷に繋がれ、鎖が伸びていた。
「・・・はい」
縛めの跡を残す手首を摩りながら泰明は体を起こした。
「今宵は星辰の夜だ。知っていたか?」
「星辰・・・ですか? 音から・・・唐国の習慣でしょうか?」
「陰陽の理では、立春の夜に執り行うのが常だが、この夏を迎えた日もまた対になる」
泰明が両腕で肩を抱いて震えた。氷は溶け去ったとはいえ、素肌のまま水に触れている事が寒いのだ。
何かをかけてやりたかったが、永泉の衣もまた滴るほどの水を含んでいる。
「どうぞ、隣の部屋へ・・・」
手を引かれるままやは従った。
「朝は晴れていた。今、空に星は見えるか?」
行李に詰め込まれて以来、当然だが泰明は外を知らない。
「開けてみましょうか?」
閉じたままだった扉を永泉は押し開けた。
「雲一つありません」
「そうか」
立ち上がった泰明が永泉と並んだ。
「公式な祭りではない故、普段の年は何もせぬが・・・。おまえと眺めるのも良いだろう」
「泰明殿・・・」
「おまえの気持ちはまだわからぬ。だが、苦しい事は嫌だ。それでなければ・・・」
泰明に最後まで言わせず、永泉は彼の抱きついた。

大スランプです。はああ。どうしましょう。支離滅裂な話ですいません(涙)