胸を押されて友雅はおや、と首を傾げた。
組み敷いた泰明が拾い胸板に両手をついて、はたと見つめていた。
「どうした?」
問いかけても、さんざん喘がされた唇は戦慄く吐息を漏らすだけだった。しかし、瞳は熱く潤んで
いるものの、何かを訴えているのは明白だ。
「君は人形ではない。言葉を使いなさい」
呼気を絡めるように、友雅が湿って赤みを増す場所をなぞった。
「ん・・・」
嫌がって一度は顔を逸らせたが、再び泰明は友雅に向き合った。
乱れ、解れた髪が褥いっぱいに波打って広がっていた。完全には剥がされていない夜着が一層
淫らに泰明の肢体を夜の闇に浮かび上がらせている。
「さあ、泰明」
「痛い・・・のだ・・・」
言ってしまったとたんに泰明の頬が染まった。
矜持の高い彼にとって自身の体の事を訴えるのは、かなり辛いのだ。
「それで?」
なのに、友雅はさらに追い討ちをかけた。明らかに泰明の態度を面白がっている様子だった。
心を開いたばかりの人形が、人としての感情を開花させていく様が友雅にとって、堪らなく愛しい。
「もう挿れる、のか・・・?」
「ああ」
あっさりと答えた友雅が、泰明の細い両脚を抱え上げる。
「こうして、君の膝が胸につくくらい折り曲げて・・・今日は真上から貫いてあげようと思っていた」
泰明が息を飲んだ。言った通りの姿にさせられたのだ。
ほんの僅か、朧に灯された燭明かりに秘めておきたい場所が晒される。
「まだ充血しているね。この前の交わりの名残かい?」
友雅の視線を感じた泰明が竦んだ。
「見るな・・・っ」
「君の全ては私の物だ。拒まれる理由はない」
掌で泰明は顔を覆った。そうすれば少しでも羞恥が柔らぐとでもいうように。
唇を笑みの形に持ち上げた友雅が口を泰明の耳元に寄せる。
「痛いのなら・・・×××・・・して、あげようか・・・?」
「ば・・・っ」
泰明が身を捩った。力の入らない体で友雅から・・・褥から逃げようともがく。
そんな泰明の腕を背後から友雅が掴んだ。
「そのまま、腰だけを上げなさい」
「出来ぬっ!」
「君の為だ」
「嫌、嫌・・・だ・・・っ、ああぁ!」
下肢の狭間に潜り込んだ手で形を辿られて、泰明がびくりと動きを止めた。
「痛いのは嫌なのだろう?」
泰明が肉体的な苦痛に脆い事はわかっていた。未成熟な心にこうして、嬲るように問うていけば、いずれ
陥落していく事も。
「だからとはいえ・・・舐める、などと・・・」
頭を振って泰明は言った。
「君が最初に口にしたのだ」
手で捕らえたモノの先端にある小さな裂け目に爪を宛がう。
「あまり、私を焦らすと・・・何もせずに君に挿入してしまうかもしれない」
「それだけは・・・」
泰明の声は怯えに嗚咽させ滲ませていた。
乾いた場所に突き立てられるのは、懲罰以外の何物でもなかった。
「そうされないように・・・どうする?」
「うう・・・」
伏せた背が震えていた。
促すようにそこに掌を滑らせると、震えはひどくなったものの、泰明の腰は持ち上げられた。
「良い子だ」
「ひ・・・っ」
熱い舌で舐められて泰明から細い悲鳴が漏れる。
「止め・・・」
思わず前に這いずろうとした体は、友雅によって遮られた。素早く泰明の前方を捉え、きゅっと握り締める。
「んん、あ・・っ、友・・・、ふ・・・、あ、ぁ・・・」
濡れた音がひどく淫らで泰明は泣き出した。
小刻みに震えるのを宥める為か、優しく友雅の手が肌を這う。
「私に意識を委ねなさい。君は、身を任せているだけでいい」
すいと顔を上げた友雅が囁いた。彼の言葉は甘い痺れとなった。真っ白になるほど、羞恥に覆われていた
脳にとろりと溶けいってくる。
「友雅・・・」
詰めていた息を泰明がゆっくり吐いた。
「そうだ・・・」
強張っていた体から力が抜ける。
「そのままで・・・」
友雅は慣らす愛撫を再開した。
執拗なほど続いたそれが終わりを告げたのを、泰明は双丘を掴れた事で知った。
絹が擦れ合う。
膝立ちになった友雅が、背筋を指で辿った。
「力を入れてはいけない。今のようにしていなさい」
ともすれば崩れそうなほど脱力している泰明の腰を支え、友雅は小さな場所に、楔を埋め込んだ。
「友雅・・・っ」
瞬間、上がった叫びは明らかに拒絶ではなかった。
痛々しい苦しさを交えてはいたが・・・。
敷かれた夜具が握り締められた。
柔らかく蠢く粘膜が、絡みついて友雅を離さなかった。
泰明が感じている悦びの表れに、ゆるやかに抽送する事で友雅は答えた。
「ああ、あ・・・」
名を呼んだ後は、意味のない喘ぎだけが泰明の口から溢れた。
体いっぱいに満たされていく・・・。
欲しいと望み、交わりの前に自身を訴える事を覚えても、未だ愛という一言を泰明は知らない。

90000のキリ番で菊足彩様へ。
鬼畜テイストにしようかしら?とも思ったのですが、甘い物をお届けです。
Dollは久しぶりですが、泰明は新たな言葉を探して・・・。また、続くかも、です。
今回はこれで読みきりです。