瞳を閉ざされるのは怖かった。しかし、それを口に出して告げる事は嫌だった。
隠していた自分の内側を知られてしまうようで。
幾度か抵抗して頭を振ったが、既に体の自由は奪われている。
目の前にいる男は泰継の仕草を楽しみながら、余裕させ見せてゆったりと視界を厚い布で覆った。
金が織り込まれている見事な生地だが、袋に重ねられているので、光は寸分も透過する事は出来ない。
何処から手が伸び、どうされるか、これで泰継にはわからなかくなった。
肩口より少しばかり長い位置で切り揃えられた髪が掴まれた。
「・・・っ」
強い力に顎が仰け反った。
「唇を開きなさい」
柔らかな口調・・・中には逆らえない響きを込めて。
精一杯の虚勢で引き結ばれた唇の境目を、翡翠はそっとなぞった。
「言う事を聞くだろう?」
指先が柔らかな皮膚に食い込んだ。
「う・・・」
吐息とともに口を薄く開いたとたん、頬を挟まれ泰継は接吻されていた。貪るという言葉が最も相応しい、
そんな口付けだった。
胸が苦しくて身もがく。後ろに縛められた腕から、背までが硬直して反り返る。
「離せ・・・」
合間に訴えても聞き入れられるはずもなく・・・。
思うがままに成された接吻から解放された時には、泰継の体は脱力して翡翠に支えられなければ崩れて
しまいそうだった。
「たったこれだけで? 一人北山に庵を構える隠者殿は随分と無垢らしい」
軽く翡翠が笑んだ。
「こんなに近くで人と接した事はあるのかい?」
尋ねてくる声が、あまりにも耳元だったので泰継が竦んだ。深く、とろけるような男の声音が脳に染み入って
くるようだ。
「・・・わからない。過去にあった事かも知れぬが・・・私の記憶ではない可能性もある・・・」
不可解な返事に、翡翠が瞳を眇めた。
「何を・・・っ!!」
肩を掴れ、床に押し倒された泰継が、叫んだ。予想できるはずもない事態に、避けようもなく背と腕を強かに
打ち付けてしまう。
走り抜けた痛みは、上から圧し掛かられる事でさらに増した。
「さて、どうして欲しい?」
翡翠が泰継の襟を緩め、あわいから手を差し入れた。
外の雨に気温が下がっているのにも関わらず、触れた肌はしっとりと汗ばんでいた。
「この雨の夜に・・・私の元へいきなり来た君は・・・何を望んでいるのかな?」
首を一つ泰継は振った。
月も星もない重く垂れた空から降り続ける雨に、山は煙っていた。葉を打つ雫の音以外、静寂に包まれた
空間にただ、泰継はいた。
何もせず、何も考えず。
それが突然続けられなくなった。
気が遠くなるほどの時を、ただ一人で過ごしてきた泰継にとって、それは初めての事だった。
心乱された物の原因を思い浮かべ、そして・・・。
「何故、来たのかなど・・・。おまえのところへ来て、何が変わるというのだ・・・、あっ!」
乳首がきゅっと摘まれた。
すりつぶすかのように摘んだ指先に力が入り、擦られる。
「痛い、いた・・・止めっ、!」
「私の眠りを妨げたのだから。咎を受けさせてあげよう」
「おまえは、眠ってなど・・・いなかったではないか・・・」
「そうだったかな?」
白々しく言った翡翠は、指にある小さな突起を捻り上げた。
「ああああっ!!」
ちぎれるような痛みだった。
泰継は、このような痛みなど知らない。・・・そう、泰継は。
涙が漏れたのか、瞳を覆った布に滲みが出来た。叫んだ後は必死に声を押さえ、体を震わせている。
その仕草が翡翠を高揚させた。
「君自身がわからないというのなら、好きにさせてもらおう。まさか、わざわざここに、ただ泊まりに来たわけ
ではないだろう? 子供ではないのだから」
腿に手を掛け、強引に脚を開かせる。
体を割り込ませると、限界が近いのか、華奢な骨が軋んだ。
ゆったりとした着物に隠された体は、剥いてみれば男とは思えないほど細い。
年齢に不相応な体型に、僅かに手加減を覚えかけたがそれを振りきり、泰継の膝が胸につくまで折り曲げた。
「このような・・・!!」
腰が浮き、はだけた裾から臀部が晒されてしまった事に、狼狽した叫びが上がる。
「離せ、手を・・・その手を・・・、ひあ、あっ」
双丘の狭間に息づく小さな裂け目に触れられて、いっぱいに泰継が反り返った。
幾度か入口を撫ぜ、そこから爪先を潜り込ませようとしたのだが、そこは思わぬきつい抵抗をした。
「力を緩めないと入らない、泰継。それとも、無理にされたいのか? 君では私に適うはずもないのに」
従わない泰継を脅すように、一本の指だけを捻り入れる。
「痛・・・っ!!」
「たかがこれくらいで」
締め上げてくる粘膜の中で、指をぐるりと回転させる。そうしなければ固く絡め込まれてしまうようだ。
「抜いて、くれ・・・」
傷を直に擦られるような刺激にびくびくと泰継が跳ねる。 
「初めてというわけか。今まで君を可愛がってくれた男がいなかったとは」
翡翠が手を伸ばし、汗で貼り付いた前髪を掻き上げてやった。
「長雨の憂鬱を君で晴らそうとしたのだが、気が変わった。無垢な体は、静かに開いてあげよう」
視界を閉ざす布が外された。薄暗い室内でさえも、闇から戻った瞳には眩しく感じられた。
「君に、未知の快楽を」
見上げてくる瞳から新たに涙が流れた。

2周年企画の翡翠×泰継でした。
・・・でもテーマをこなしていないのです。SMはどこに行ってしまったのか・・・。
いずれリベンジでも。