「ん・・・眩しい、何で・・・」
楊戩は夢うつつのまま、魘されていた。
眩しい光。
金鰲の奥深く、人工的な光しか知らずに育った楊戩は、部屋がこんなに明るい事を
知らなかった。
「光、消して・・・」
寝返りを打とうとして、そこで楊戩は目が覚めた。
まだ霞む視界に映るのは、見慣れない部屋。
「ここは・・・何処、だ」
ゆっくり体を起こしかけた時、全身に痛みが走った。
「・・・くっ」
再びシーツの上に突っ伏した楊戩に、先日来の記憶がまざまざと蘇った。
金鰲を抜け出し、崑崙に侵入した事、そして・・・。
握りしめた両手がぶるぶると震えた。
残る痛みが、犯された事が事実だと伝えていた。
逃げなければ、と思った。
ここにいればまた、恐ろしい事が起こる、と楊戩の本性が告げている。
楊戩は体に衝撃を与えないよう、そろりと寝台から降り立った。
その身には何も纏わされていない。暑くも寒くもないように、室温は調整されていたので、
体調に悪さを感じる事はなかったが、足を地に着けるだけで、辛い。
シーツを剥いでくるりと体に巻き付ける。帯がないので、床に引きずるのは不快だが、全裸で
いるのは、この光の中では憚られるように思えた。
部屋をぐるりと楊戩は、見まわしてみる。
先ほどから忌々しかった光は、二カ所に設けられた窓からだった。近づいてみて、
薄いカーテンを開ければ、そこには格子が嵌められていた。
さして頑丈には思えなかったが、揺すってみても壊れる様子はない。否、例え格子を
外せても、この窓から地上は遠かった。
飛び降りるには高い距離。無理に降りれば、怪我を負ってしまうだろう。
寝台と小さな卓が置かれただけの部屋。残るのは・・・。
楊戩が扉へと近づいた。
当然、鍵でも掛けられていると思っていたのに、その扉はあっさりと開いた。
しかし、その先にあったのは廊下ではなく、また別の部屋だった。
楊戩がいた部屋より、大きな造りだが、物のない質素な所は変わらない。
そして・・・、その男はいた。
気配に気づいた玉鼎がゆるりと顔を上げた。
「ようやく、目覚めたか。長い眠りだったな」
長い黒髪を揺らし、切れ長の瞳が楊戩を見据える。
「あ・・・」
怯えに楊戩は知らず、後ずさった。
「こちらへ、楊戩」
楊戩、と呼ぶ声は低く滑らかで背筋をぞくりとさせる。
「・・・嫌・・・」
逃げ場などないというのに、楊戩は元いた部屋に入り、扉を閉めた。
くくっと玉鼎が苦笑した。
「仕方のない子だ」
立ち上がり、道服の裾を揺らしながら楊戩の入った小部屋に向かう。扉を開いて中に
入れば、怯えた小動物にも似た仕草で、捉えた楊戩は体を丸めていた。
「来るな・・・」
全身からぴりぴりとした警戒感が立ち上っている。
それに構う事なく玉鼎は近づいた。
腕を取られそうになった楊戩が、後ろへと飛び退る。しかし、小さな部屋故、その体はすぐに
壁にぶつかってしまった。
「何処に逃げようというのか」
玉鼎が楊戩を追い詰め、引き起こした。
「離せ!!」
腕を突っぱねて楊戩はもがいた。
「おまえの抵抗は虚しい物だと知れ」
華奢な体を寝台へと放り出し、その上に玉鼎は圧し掛かった。
「だが、あくまで逆らうというのなら鎖に繋ぎ、拘束してやろうか? そこまで愚かではないだろう?」
流れ落ちる黒髪に周囲を覆われる。
顎を取られて覗き込まれ、楊戩は視線を逸らせた。漆黒の瞳に吸い込まれそうに感じたからだ。
震える唇に玉鼎が口づけた。
「ん・・・」
「逆らうな、この金霞洞からは逃げられないのだから。・・・っ!」
唇に噛みつかれた玉鼎は、さらにきつく楊戩の顎を掴んだ。頤の境に両手の指をめり込ませ、
無理に口を開かせる。
口づけは続けられ、広がった血の味に楊戩は顔を顰めた。
「本当に、虚しい抵抗だ」
「は、あ・・・っ」
呼吸が苦しいと、楊戩が喘いだ。
僅かばかり唇を離して息を継がせると、角度を変えて幾度も玉鼎は楊戩を味わった。
楊戩の体からくたりと力が抜けた。
「もう終わりか?」
玉鼎が優しく髪を撫ぜた。
「虚しいと・・・」
「ん?」
「言ったではないか」
緑色をした瞳が玉鼎を睨んだ。
「そうだな」
唇が触れ合うほどの近さから玉鼎は囁いた。
「私に対する言葉に気を付ける事だ。丁寧な言葉で、話しなさい」
「何者だというのか」
「・・・おまえの支配者だ。はき違えてもらうと困るが、人形になれというわけではない。逆らう事が
虚しければ、それを跳ね返すだけの力をつければ良い事だ」
玉鼎は立ち上がった。
「来なさい。遅い時間だが、朝餉が用意してある。食さねば、体は回復せぬぞ」
「何か纏う物を」
「そのままでいろ、と言いたい所だが仕方がない」
羽織っていた上掛けを楊戩の肩に掛ける。
「ここには小さなおまえに合う服などない。おいおい仕立ててやろう。しばらくは私の衣を
たくして身につけるしかないな。
それでも、シーツを纏っているよりはましなはずだ」
楊戩を誘い、衣装部屋へと玉鼎は連れて行った。
丈の長い衣装に帯を締める事で調節させる。
「僕が着ていた服は?」
「私と争った時に随分傷んでいたので、処分させた」
「そう、ですか」
「気に入っていたのなら、同じような物を作ると良い。別におまえがどんな形の物を身につけていようが、
私は構いはせぬ」
「・・・はい」
「衣を纏ったなら、朝餉を取りに行こうか」
石が敷かれた床の部屋に用意されていた朝食はもう冷たくなっていた。
戸惑う楊戩に、玉鼎が言った。
「温めるなら、やりなさい」
「僕にせよ、と?」
楊戩は首を傾げた。
「僕は下男ではない」
「ああ、確かに」
向かいに座りかけた玉鼎だったが、卓を周って楊戩の背後に立った。
「おまえは下働きの者以下だ」
肩に手を置き、長い髪を除ける。
「自分の事どころか、これからは私の身の回りの細々とした事も、やってもらうのだから」
「出来ません」
「逆らうな、と先ほど教えたはずだが」
触れてくる指を嫌がって楊戩は身を捩った。
「やり方など知りません」
「甘やかされて育った王子様だな」
玉鼎は肩を竦めた。
「では、今は冷たいまま食しなさい。それがおまえには相応しい」
スプーンを楊戩に握らせる。
昨日から何も食べていない楊戩は、確かに空腹を覚えていた。促されるまま冷めた粥を口にする。
「全て食べ終わったら、食器を下げなさい。それくらいは出来るだろう?」
器が空になったのを見計らい、玉鼎は命令した。
食器を片付けさせ、卓を拭かせるまで指示した後、玉鼎が細い腕を掴んだ。
「何を・・・っ!」
今まで食事をしていた卓にうつ伏せに押さえ込まれた楊戩は狼狽した声を上げた。
「空腹が満たされたなら、次の事をしようか」
玉鼎が纏った衣を乱していく。
「心配するな。この光の中で犯したりはせぬ」
ただ、と言葉は続けられた。
「まだ未熟な体故、今宵の準備だけはしておかなければならない。再び、ひどく傷つかないように」
犯された恐怖と痛みが楊戩の脳裏に蘇った。
「僕に、また・・・」
「そうだ、と意識を失う前に言ったはずだ。今のおまえは、それだけの価値しかない。自死する事も
認めてはおらぬ。尤も、死しても尚辱められるとあっては、自死など選べぬな」
裾を捲り上げ、下肢を剥き出しにさせ、足は両手をかけて割り開かせた。
秘められた箇所が晒されるまで、大きく。
玉鼎の指が、小さく息づくその場所に触れた。
「ん・・・っ、や・・・」
男を知ったはずなのに、そこは既に慎ましく閉ざされていた。
「頑なな」
痛いほどの視線を感じた楊戩が、逃れようと身もがいた。
「見ないで・・・っ!」
入口を揶揄うように爪先で引っ掻けられ、息をひっと詰まらせる。
「解してやろう」
袂から小さな小瓶を取り出した玉鼎は中身を指に絡め、残りは楊戩へと垂らした。
秘裂を伝い落ちた液体は、太腿へと流れて床にまで滴った。
滑った感覚に楊戩は顔を顰めた。
ふっと甘い匂いが漂う。
「良い香りだろう? 西域の果実を混ぜた香油だ」
玉鼎が楊戩に塗り込めるように、指を走らせた。
「ゆっくり息を吐き、力を抜いて、私の指を受け入れなさい」
優しい言葉で楊戩に囁く。
「少しでも辛くないように」
「嫌・・・」
楊戩は頭を振った。
青い髪がぱさぱさと音を立てて揺れた。
「・・・出来ません、指、離して、嫌、だ・・・」
「出来ぬのではない、したくないだけだ」
玉鼎は急かす事はせず、諦めから楊戩が脱力するのを待った。
頃合いを見計らい、指が固い入口を突き破った。
「ひあ・・・っ」
抵抗する内壁を一息に貫き、根元まで押し込める。
衝撃に跳ねる体は力で押さえつけた。
楊戩の内腿がぶるぶると震えた。
熱を篭らせた内部を指は、容赦なく抉った。
香油の滑りのせいか、痛みはさほど感じないが、その分、異物感は凄まじい。
「抜いて、抜いて下さい!!」
「聞けぬ」
押し戻そうと、楊戩は強張った。受け入れさせられた他人の体の一部。いくら拒もうとしても、それは
楊戩の抵抗を嘲笑うかのように、奔放に肉の内部で蠢いた。
「まだ初々しい硬さだな。・・・しかし、少しずつ解れだすと吸いついてくる。
この体なら、直に感じられるようになるはずだ」
玉鼎が指をぐいっと曲げた。
「勿論、簡単にはそうさせぬが」
楊戩の表情を覗き込みながら、玉鼎は指を抜き差しさせた。視線で頬をなぞられるだけで、背筋がぞっと
震えた。漆黒の瞳が絡みついてくるようで・・・。
「そろそろ、良いだろう」
「あ・・・っ」
何時の間にか二本に増えていた指を引き抜かれ、楊戩が喉を鳴らした。
指で嬲られた場所が名残を惜しむように、切なく開閉した。
自分の体の反応が楊戩には信じられなかった。
「寂しそうにしているが、このままだとまた口を固く閉ざしてしまうだろうから」
指の代わりに、冷たい何かが宛がわれた。
緩んでいた楊戩を再び抉じ開け、弾力のない硬い器具が押し込まれる。
「い・・・っ!」
「夜まで、咥えていなさい」
玉鼎は体を起こし、楊戩の着物の乱れを直した。
押さえられていた支えを失った楊戩は床に崩れ落ちたが、座り込んだ事で内部にある物をさらに深く
受け入れる事となった。
引き裂くほどの大きさはそれにはなかった。
緩く楊戩を押し広げ、存在を主張する。
「取って・・・」
「夜になれば」
告げられた言葉は、何処か楽しそうだった。
「さて、日暮れまでには、後半日ある。おまえは何がしたい?」
楊戩が玉鼎を切なく見上げた。
「書を読むも良し、私と手合わせするのも構わぬ。・・・それとも、下働きらしく掃除でもしているか?」
その瞳が熱く潤んでいるのに気づいた玉鼎がくっと笑った。


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