水無月も終わりに近づいた、じとりとした雨の降る日だった。
庭へと通じる窓と、大きく開け放たれた扉から吹き込む風は、まだ、夏の暑さからは遠い。
それなのに、僅かばかりの涼やかさなどかき消すように、室内には篭った熱気、荒い吐息と
淫らな喘ぎ声が満ち響いていた。
「あ・・・、や・・・・嫌、だ、あぁ・・・っ!」
断続的に襲う刺激に、楊戩は狂おしい息を漏らす。
意識は既に朦朧としていて、そのせいか視界までもが霞んでいた。
もうどれくらいの時間、この不自由な体勢を強いられ、放置されているのかわからない。
楊戩にとっては、数時間のように感じられたが、雨の中の光は翳る様子はなく、実際は数十分程度の
事なのかもしれなかった。
しかし、楊戩の白い肌にはびっしりと汗が浮かび、堪えきれずに声をあげて身を捩れば、滴が肌を
伝い落ちた。
そんな微かな刺激にさえ、今の楊戩には甘い責め苦だった。
数日にわたって嬲られ続け、体力は限界に達しているはずなのに、こみ上げてくる快楽は留まる所を
知らなかった。
それどころか、嬲られるほどに、敏感さは増しているような気さえした。
今日は、このまま拘束から解かれないのかもしれない。
思考を巡らせる時間は、こうして放置され、しかもまだ理性が僅かでも残っている僅かな時間だけだった。
楊戩には支配者がいて、彼が傍にいる時には、思考力など根こそぎ奪われてしまうのだ。
まだ幼いといって良いほどの年齢で、彼に供されて以来、楊戩は捕らわれている。
長い、永い、時間。
一体何時まで続くのか。
今は、玩具を受け入れさせられ、一人にされているから、はっきりしない頭とはいえ先の事に怯える
余裕があった。
「く・・・」
苦しいと、唇を噛みしめた時・・・。
不意に体内にあった、淫らな玩具が動き始めた。
何も前触れもなく、突然の事だった。
振動音が体の内部から伝わってきて、楊戩の脳髄まで冒すようだ。
「ひ・・・っ、あ、あ、」
全身を縛められ、自由を奪われていなければ楊戩はきっと仰け反って床に転がり、見苦しく悶えていただろう。
それすらも、今の楊戩には許されていない。太い柱を背に、床に座らされているのだから。
ただ座っているだけではなかった。開け放たれた扉に向かって足を開いた恥ずかしい姿で、拘束されていた。
体内で振動している物は、ここを出て行く時に、屋敷の主に挿入させられていた。
生々しい形をした玩具は、例え動いていない状態であっても、楊戩を責め苛んだ。
これに動きがついてしまえば、快楽を仕込まれた箇所が疼いてしまうのだ。
切なく立ち上がった性器がひくついた。張りつめ、色を変えたそこを、ねっとりした透明な滴が伝っていく。
足を閉じる事は許されていないから、はしたない姿を、雨の中に晒し、身悶えている。
「いた、い・・・」
楊戩が呻いた。
立ち上がる事は出来ても、解き放つ事は出来なかった。
性器の根元から先端まで、丹念に絹の紐で結わえられているからだ。
痛い、苦しい、それなのに、それなのに!
「いい子にしていたか?」
不意に楊戩に声がかけられた。
何時、現れたのか。
淫らな喘ぎが充満する空間には似つかわしくない、涼やかな声だった。
入ってきたのは長身の男性。長い黒髪に、黒い瞳を持つ、楊戩の支配者。
切れ長だが、少し黒目がちな瞳が、潤んでいるような艶めきを見せて楊戩を見つめていた。
乱れ切った楊戩の様子にも、特に感情を動かされはしないようだった。
一糸纏わぬ姿で、淫らに全身を曝け出した状態なのに。
「庭にもう、夏花の桔梗が咲いていた」
無造作に抱えていた桔梗の束に、彼が頬を寄せた。
「きれいだろう?」
ゆったりとした足取りで楊戩に近づき、すぐ傍らに膝をつくと、桔梗を床に置き、一本引き抜いた。
「おまえの髪の色に良く映える。それだけではない、何処か似ているな。真っすぐな茎といい、花弁といい、凛とした
立ち姿で、手折る時も綺麗に折れる」
桔梗の葉を落としながら囁いた彼は、楊戩に軽く口づけた。
優しい、触れるような接吻だった。
しかし、そんな彼がした事は、とても優しいとは言えない事だった。
いきなり性器の蜜口へと桔梗をねじ込んだのだ。
「ああ・・・っ!!」
楊戩は思わず叫んでいた。
尿道への異物挿入は、初めての事ではなかった。だが、慣れる事など出来るはずもない。細い管に差し込まれる
痛み、そしてその後に訪れる強烈な快楽は耐え難かった。
「よく似合っている」
彼は瞳を細めた。
「もっと、乱れさせてうやろうか」
ゆったりとした衣装の袂から、彼は玩具を操る物を取り出した。その動作部を一気に一番強い所まで動かす、唐突に。
咥えさせられた玩具が強烈に動き始めた。
「いや、いやああっ!」
容赦なく追い詰められていく。楊戩を知り尽くした彼によって、玩具の先端は感じやすい場所に押し当てられていた。
そこを責められ、刺激されるとひとたまりもないのに、達くことは縛めのせいで許されない。
「ひ、あ…止め、止めて下さい、もう・・・師匠・・・・!!」
楊戩が懇願しても、玉鼎は小さく笑っただけだった。
とびきり優しい眼差しで。
「おまえがいい子でいないから、こういう目にあう」
「う・・・っ」
瞳の裏が熱くなるのを楊戩は感じた。目の前の玉鼎の姿が滲むように歪んだ。
「止めて欲しいなどと」
歌うような口調で玉鼎が囁いた。
「気持ち良いだろうに」
挿入させた茎を一度引き、再び深く突き入れる。
「ああ・・・」
「ほら、はしたない蜜が止まる事がない。まるで粗相したようにびしょびしょだ。淫らに咲く花。それがおまえの
本性だ。認めれば良いのに。
・・・そうすれば、もっと可愛がってやれるものを」
玉鼎の言葉は甘い毒。
それが、鼓膜から注ぎ込まれる。
「私の庇護の元にいれば良い。飛び立とうとなどせずに」
縛めの上から、玉鼎が楊戩を抱きしめた。
「包み込まれた翼の中で、舞え」
「いえ・・・」
楊戩が涙を浮かべた目で玉鼎を見つめた。
「僕に舞う事を教えて下さったのは師匠です。高みを目指すのが何故、許されないのでしょうか」
玉鼎は端正な面差しを近づけ、頬に唇を寄せた。
「困った子だ。強情で・・・」
「ああああっ!」
桔梗の茎を激しく抜き差しされ、楊戩が悲鳴した。
このまま嬲られ続けたら、壊れてしまうかもしれない。体も、心も。いっそそうなってしまったなら、楽に
なれるのだろうか?
「ああ、また溢れてきたな。痛いのがそんなに好きか?」
楊戩は唇を震わせた。
だが、声は出なかった。

閉鎖された世界で、行われる事。


戻る