体が重たくて堪らない。楊戩は溜息を吐いた。
自分の体が鉛のようで、僅かに傾げたりするだけで、バランスを崩して落下してしまいそうになる。
ここは空の上。今、楊戩は哮天犬の背で地上遙かな場所を飛行していた。
もし落ちたなら、不死を約束された仙といえども、ただでは済まないだろうほどの高度。
太乙のように高所を恐れはしないが、さすがに疲れた体では、下方を見ただけで目が眩む。
知らず、哮天犬に縋る手に力が入った。
心配そうな鳴き声が聞こえた。
「・・・僕なら大丈夫」
力なく楊戩が笑んだ。
疲れてはいても、心境は何時までも飛行していたいくらいなのだから。
地上で起こった出来事を楊戩は思い返し、表情が暗くなった。



古来より、崑崙山の仙人達と関わりのある町や村が、この大陸には幾つかあった。

その一つ、砂漠の入口にある町で開かれていた市に、この日楊戩は降り立っていた。

夏の始め。新しい着物を仕立てようとして。

そこで、同じ目的で訪れていた太乙に出会ったのだ。この頃の太乙は特定の弟子を持たず、
身の回りの細々した事を自身でこなしていたからこその出会いだった。
先に太乙に気づいたのは楊戩だった。
先日の雨の夜の出来事があったから、即座に踵を返したのだったが、逃げる前に見つかってしまった。
「私を見ただけで逃げるんだ」
「先日、酷い事をされましたから」
楊戩が取り落とした生地を太乙は拾い上げた。
「師兄に?」
「そうです」
「良い色だね。似合いそうだ。良い職人を知っているから、渡しに行こうか?」
取られた腕を楊戩は振り払った。
「結構です。僕だってこの町は初めてではないですから」
太乙は肩を竦めたが、それ以上は楊戩を止めなかった。
「失礼します」
「仕立てあがるまで、日数がかかかるだろう? しばらく私はこの町にいるから、完成したら受け取って
おいてあげる。私はあそこに常宿しているから、生地を預けたら君もおいで」
「お断りします」
つんと顔を背けた楊戩の背後から、太乙が腕を回した。
「師兄に持って行って欲しい物があるんだ」
「ご自身でお持ちになれば良いではありませんか」
髪を弄ばれて、嫌そうに楊戩が顔を顰めた。
「・・・命令だよ」
縦割り社会の崑崙において、上位の仙にこう言われては、楊戩は逆らえないのだ。わかっているから、
あえて命令だと太乙は告げた。
「もう、先日のような事は・・・」
「それは君次第かな」
掻き分けた髪の下に覗いた項に、太乙は口づけた。
「ん・・・」
「待っているよ。お使いを頼みたいのは嘘ではないから」


用件を済ませても尚、すぐに太乙の所に行くのが躊躇われた楊戩が、宿に現れたのは、夕刻に近い時間だった。
町中から少し離れた場所にあるそこは、喧噪もさほどなく、程よく落ち着いていた。
楊戩の戸惑いと警戒に勿論太乙は気づいていたが、何も言わずに、部屋へと誘った。
西日の差し込む部屋の蔀を楊戩に閉めさせた太乙が、細工の施された箱を取り出した。
「玉が入っている」
太乙は蓋を開けた。中には直径4cmほどの不思議な色に光る玉が10個、収められていた。
「師兄は、西方で取れる玉を好むからね。帯玉などに使っているのを、君も知っているだろう?」
「はい」
「ちょうど良い物が手に入ったんだ」
「では、これを師匠に届ければ良いのですか?」
「そうだね」
にっと笑った太乙がいきなり楊戩に襲いかかった。
「太乙様!!」
玉鼎と違い、どちらかといえば華奢な部類に入る太乙なのに、何故か楊戩は敵わない。力づくではなく、人の体を操るのが
上手いのだ。手際良く押さえつけられて、下から楊戩は太乙を見上げる形となった。
「冷た・・・っ」
両手首と足首に絡みついてきたのは、先日と同じ、緑の粘液だった。
ひくりと楊戩の喉が恐怖に引きつった。
「君がもう少し成長したら、私より強くなるだろうね。今でも手こずりそうだけど」
粘液によって床に縫い止められた楊戩は、起き上がれなくなってしまっていた。
「離して下さい」
「用件が済んだなら」
太乙が楊戩の胸を膝で押さえつける。
「犯すのですか?」
楊戩の物言いに、太乙が眉を顰めた。抱かれるという行為を、楊戩は犯されるとあえて言っているのだ。
「どうしようか」
襟元に手をかけ、寛げていきながら太乙は首を傾げた。そして、薄く笑む。
「あの夜、私に抱かれた事、師兄にばれただろう?」
隠し事するの、下手そうだものね、と面白そうに続けられて、楊戩はかっとなった。
「あなたのせいで!」
「罰でも受けたかな? 私と師兄の間に入り込んだ君への仕返しだ。何時までも子供のままでいれば良かったのに」
着衣を乱された楊戩が、精一杯太乙を睨んだ。
「怖いなあ」
大げさに肩を上げた太乙は、一旦楊戩から離れた。戻ってきた手には、香油の入った瓶があった。
「ただ、玉を運んでもらうだけではつまらない。ここに咥えさせてあげるから、噛みしめて運ぶんだ」
「ひあ・・・っ」
割り開かれた脚の奥を探られて楊戩が小さく悲鳴した。
「お使い、でしょ?」
香油を絡めた指が秘所に差し入れられた。
「力を抜かないと、慣らしてあげても入らないよ。無駄に痛い思いはしたくないだろう?」
ぐるりと指を回しながら、太乙が囁いた。
「それとも、私にもう一度犯されて、緩める?」
太乙もまた、答えるように、犯すと言葉にした。
「どうか・・・」
楊戩が哀願した。
体が、精神が拒む相手を受け入れるのはあまりにも辛い。玉鼎になら寛ぐ部分も、固く口を閉ざしているだけだ。
「仕方ないね」
指を増やし、無理やりに緩めさせようとしていた太乙が諦めの溜息を吐いた。
「埒が明かないから、もう玉を入れてしまうよ?」
「・・・犯されるよりは・・・まし、です・・・」
異物感と苦しさに喘ぎながら、楊戩は答えた。
「10もあるから、大変だろうけれど、頑張ってね」
太乙が玉の入った箱を引き寄せた。


時間をかけて楊戩に玉を咥えさせた太乙は、落とさぬようにその後から留め具を差し入れた。
かちりと鍵をかければ、受け入れた入口にそれは固定されてしまった。
「無理に抜こうとすれば、裂けてしまうから」
太乙が、楊戩の秘所を指で辿る。
「止め・・・」
「合鍵は、師兄に先日贈った箱の中に入っている。君を躾ける為に、と言って渡しておいたけれど、役に立てる時が来て
良かった」
「その鍵を」
今使われた鍵を奪えば、師に頼る事なく、取り出せる。
手を伸ばした楊戩を、太乙は振り払った。
「駄目だよ」
太乙が手のひらを握った。
「これは、壊してしまおう」
どんな技を使ったのか、鍵は砂のようにぼろぼろになった。
「ほら、体を起こして」
楊戩の背に腕をかけ、起き上がらせる。途端、体の奥から玉の触れ合う音と、咥えさせられた重みがかかった。
「ああ・・・」
この全身を苦しめる物から楊戩が解放される為には、玉鼎に縋るしかなくなってしまった。
楊戩は首を振った。
鍵を求めれば理由を聞かれる。
玉鼎に告白し、起こった事を伝えなければならない。
惨めに抱え込まされた玉。
「さあ、お帰り。それとも、少し酒でも飲んでいく? 素面では辛いなら」
「・・・いえ」
「そう?」
それ以上太乙は止めなかった。




視界に玉泉山が移った時、楊戩は哮天犬を止めた。
戻る場所が他になくても、躊躇われた。しかし、体内に抱える物をそのままにしてもおけないのだ。
「行って」
哮天犬が高度を下げ、金霞洞の前へと静かに降りた。
「・・・っ」
地に足をつけただけで、異物が動き、吐息が激しくなった。大きな犬に凭れて、治まるのを待つ。
苦しさに額に汗が滲んだ。
「ついてきてくれるかい? 一人ではとても歩けそうにない」
玉鼎に会う前に、冷たい水でも浴びれば、少しは落ち着くだろう。
「そっとだよ」
気づかれないように。
ふらつく足取りで、楊戩は浴室に向かった。水に入るにはまだ季節が早かったが、構っていられず、
いっぱいに張った中へ体を沈めた。
異物。
入口に触れてみても、ただ固い留め具があるばかり。自身では解決しようがない事は明らかだ。
楊戩は俯いた。呼吸が再び上がっている。
「え・・・? 何か、変・・・だ・・・」
体の深い部分で異様な感覚がした。
目の前を白い炎が躍ったような気配を楊戩は覚えた。


「師匠、戻りました」
「遅かったな。日が暮れる前には戻ると思っていたが」
玉鼎が書から顔を上げた。
「久しぶりでしたので、手間取りました」
扉を叩いてから入って来た楊戩の、濡れた髪と模様のない地味な・・・普段は嫌って身に着けない・・・袍に、
玉鼎は眉を顰めた。
「何だ、そのなりは」
「下の砂漠の町にに降りていたので、汚れました」
楊戩はぎこちなく玉鼎に近づき、膝を折った。青い髪が揺れた瞬間、玉鼎の表情が険しくなった。
強引に楊戩を立ち上がらせ、手を取って引き寄せる。
「・・・!」
体勢を崩した楊戩が倒れ込んだ。
何を・・・と問いかけた唇に指が当てられる。
「太乙にあっていたのか?」
「どうして・・・?」
楊戩は竦んだ。
「髪に、あれが使う香りがまだ残っている」
くすりと玉鼎が笑った。
「偶然か、それとも故意にか。香りが移るほど近くに。また、抱かれたか?」
「違います! ・・・今日は・・・」
「今日は?」
玉鼎から離れようとした楊戩だったが、身の内に抱える重さに、それは出来なかった。思わず、しゃがみこんでしまった
楊戩に、玉鼎は首を傾げた。
「楊戩?」
「師匠、どうか・・・」
「要求があるなら、言ってみなさい。内容にもよるが、なるべく叶えてやろう」
顎に手を掛けられ、上向かされる。
「鍵を、下さい・・・」
「何の鍵だ?」
「太乙様が師匠に贈られた箱の中に・・・」
「それは、何処の鍵だ?」
恥ずかしさに楊戩は告げられなかった。
そっと楊戩を離した玉鼎が、衣擦れの音をさせて立ち上がった。
堪らず顔を伏せた楊戩に、玉鼎が言った。
「顔を上げなさい」
言われて、視線を向けた先に、銀に光る鍵があった。
「おまえが欲しているのはこれか?」
「ああっ」
楊戩は手を伸ばしたが、与えられはしなかった。
「師匠!!」
「もう一度聞く。どこの鍵だ」
透き通る黒漆の瞳が、楊戩を見下ろしていた。
「・・・僕の・・・体です・・・」
ぞくりと震えた時には、抱き寄せられていた。薄い袍の上を、玉鼎の手が辿る。
「テーブルの上へ、楊戩。伏せて鍵の必要な場所を曝せ」
「嫌・・・」
ふるふると楊戩が首を振った。
「おまえがそれほど切羽詰まった表情をしているのは、限界が近いせいだろう? 太乙に何をされたにせよ、自分では解決
出来ないから、私に頼っているのだ。
では、抵抗した所で意味がない」
玉鼎の声は静かであったが、言葉に容赦はなかった。
唇を噛みしめて、楊戩は玉鼎の横をすり抜け、テーブルに上がった。
「く・・・っ」
不自然な動きに内臓が圧迫された。玉鼎が手にした燭に全てを曝す前に、消えてしまいたかった。
体内の熱とは別の、炎のような羞恥心が全身を覆いつくす。
着衣のまま這いつくばった楊戩だったが、さらなる命令が下された。裾を寛げろ、と。
震える手で裾を捲ると、落ちないようにピンで上衣に留められた。
玉鼎はすぐに、楊戩の状態に気づいた。
「面白い物をしている」
指が、双丘の狭間に埋められた物の、はみ出した先端を摘み、左右に揺すった。
「い、痛い・・・」
「ずいぶんしっかり咥えているな。気に入っているのか?」
「そんな!!」
「どうかな」
玉鼎の手が滑り、楊戩の形を確かめる。
「あ---っ、あっ」
先ほど感じた身の内の異変で、そこは意思に関係なく張りつめていた。
「止めて下さい!!」
軽く擦られただけで楊戩は呆気なく昇りつめた。しかし、一度達しただけでは熱は治まらなかった。
「な・・・どうして・・・」
時間を置かずに次の波が訪れて、切なく身悶える。
「まるで盛りのついた獣だな」
楊戩は答えられなかった。押し殺したはずなのに、喉がなる。
留め具の鍵穴に玉鼎が触れた。
「取って・・・、外して下さい!」
「これは、中の物を落としたり漏らしたりしない為の物だ。まだ他に何か入っているのか?」
「玉が・・・」
切れ切れに楊戩は訴えた。
「玉が入っているのです・・・。太乙様が、師匠へと・・・」
「そうか」
楊戩の腹を玉鼎は探った。
「確かに異物を孕んでいる」
意外なほどあっさりと玉鼎は鍵を開いた。留め具がずるりと引き出されていく気持ち悪さに楊戩は顔を顰めた。
「留め具は外してやった。後は自分で出来るな」
「え・・・っ?」
「出しなさい。おまえの内にある物は、私に贈られた物なのだろう?」
腹部が優しく撫ぜられた。
「力を入れて、外へ押し出すのだ」
「出来ません!」
楊戩が悲鳴した。玉鼎の眼前で、排泄に似た行為をするなど。
「私の物を留め置かれても困る」
玉鼎は苦笑し、長時間含ませられている物のせいで、赤く充血して息づく場所を見つめた。
視線を感じた楊戩が震えた。
「器具で広げて、私の指で取り出してやっても良いが・・・どちらにせよ、指が届く範囲より奥は、おまえ自身で
入口まで持ってこなければならない事だ」
玉鼎の指は、さしたる抵抗もなく受け入れられた。
「ひあっ」
しかし、刺激は感じるらしく、熱っぽく纏わりつく肉を通して戦きが伝わってきた。
付け根近くまで入れた指が、最初の玉に触れた。それはしっかりと絡められているので、触れただけでは
動かなかった。
水を浴び、濡れていたせいで、入口は潤っていたが、それでは内部までこれほどにはならない。
「玉だけではないな。太乙らしい悪戯をしかけたようだ」
玉鼎の長い指が、玉をさらに奥へと押し込んだ。
「何を・・・、師匠!」
驚きに瞳を見開いた楊戩の顔の横に、玉鼎は小さな陶器の呼び鈴を置いた。
「私の前では嫌なのだろう? 終わったらこれで私を呼ぶといい」
開いた脚の間には、玉の落下の衝撃を和らげる為に領巾が敷かれた。
「全ては中の物を始末してからだ。それと・・・自身で慰める事は禁ずる」
玉鼎が立ち去る気配がしたが、楊戩は顔を上げなかった。
涙が瞳から溢れた。
一度達かされた事で、体の熱は上がっている。吐息までもが燃えるほどだというのに。
新たに禁じられなくても、普段から楊戩は自らを慰める事は許されていない。そう、躾けられている。
そろそろと楊戩は下半身に力を入れた。腰を掲げた姿勢では、思うように体の奥は反応しなかった。
しかし、しばらく苦悶していると、最初の玉が滑るのがわかった。
その言いようのない感覚。
悍ましくて、汚らわしくて・・・。
固い入口を通過させるには、さらに努力が必要だった。意識して秘所を緩めるという。
「く・・・」
締め付けるのと逆の動きは難しい。意識してとなると尚更だった。
眉間が寄せられ、額に汗が浮いた。
玉が顔を覗かせるまで、かなりの時間を要した。
突っ伏した楊戩の耳に、玉が領巾の上に落ちる鈍い音が聞こえた。香油がゆっくりと腿を伝った。
最も敏感な入口に近い場所にある粘膜を擦られ、懊悩が深くなった。玉は一つ落ちると、道を付けられたのか、
次々と体内を滑った。
「や・・・あ・・・っ」
10の玉が全て出る頃には、何も触れていないのに、楊戩は立て続けに吐精し、テーブルを白く汚していた。
力の入らない指で、楊戩がベルを鳴らした。陶器独特の澄んだ音色が広い空間に拡散した。
ほどなくして現れた玉鼎は、楊戩を抱き起こし、テーブルに座らせた。
「地中深くより採取される玉だな」
玉鼎は躊躇いもなく、香油に塗れた玉を手にした。楊戩の体内に長くあったそれらは、温かくなっていた。
確認してみると、唯一琥珀色を帯びていた玉の内部が空洞だった。底には滑りが残っている。
「この隙間に、何かを詰めたのだろう。時間とともに、玉がおまえの体温で温められれば、溶けだす仕組みになっている」
では、この全身の熱は、太乙が原因なのだ。自身が淫らになったわけではない事に、楊戩は安堵を覚えた。
「まだ体は熱いか?」
「は・・・い」
頬を染めながら、楊戩は答えた。テーブルにまき散らした物が明らかな以上、隠しても無意味だった。
「師匠、どうか・・・」
玉鼎の胸に縋る。
顎を掴まれたと思った瞬間、楊戩は口づけされていた。
深い接吻は苦しくて・・・そして、甘い。
「抱いて、下さい・・・」
太乙によって押し込められた薬の熱を上回る物が与えられれば良い事を、本能で楊戩は知っていた。
「ベッドへ行きなさい」
耳元への囁きは、脳髄を痺れさせた。
灯りが落とされた中で、楊戩は袍を脱ぎ落した。横たわったシーツはひんやりと冷たい。
受け入れやすいように、自分からうつ伏せに這いつくばる。羞恥心も半ばは、玉を落とした時に麻痺していた。
横向きに片頬をシーツに押し付けて、楊戩は玉鼎を待った。
「ん・・・」
双丘に手が掛けられた。知らず、体が期待に震えた。
それが・・・。
「ひっ!」
ふいに楊戩が跳ねた。入れられたのは、玉鼎のモノではなかった。熱を帯びた物をは対極の、凍り付く寸前まで
冷やされた…水。
「つ、冷たいっ!」
「・・・だろうな」
「止めて下さい・・・っ!」
急激に敏感な箇所が冷やされるのは、痛みを楊戩に与えた。
玉鼎が手にした水差しの細い吸い口が、深々と楊戩を貫いていた。
体の奥に注がれた水は、即座に内臓を冷やした。内側は、表面の何倍も脆く、弱い。
歯が寒さにかちかちと鳴った。
「どうして・・・っ?」
「正気を失ったなりで、おまえは私を求めるのか。それとも私を愚弄しているのか?」
「いいえ! いい、え・・・」
驚いて楊戩は否定した。
「では、性急に抱かれたがっているその態度は何だ」
吸い口の先端が楊戩の内部を抉った。突き刺さる痛みに体がびくびくと痙攣する。
「くぅぅっ!」
「答えられないか、事実だから。
薬が切れても尚、私を求めるなら抱いてやろう」
注がれた水が温くなる頃、タオル地の布が宛がわれた。何度も、楊戩の瞳が熱による潤みを無くすまで、
洗浄は繰り返された。
「もう良いだろう」
幾度めにか、内部の水を掻きだした玉鼎が言った。支えていた腕を離すと、楊戩ぐらりと倒れた。
横倒しになった肌が青白い。熱を奪われた体はひんやりと冷たかった。
「欲しいか?」
「はい・・・師匠に、抱いて欲しいのです」
抱きしめてやってから、玉鼎は楊戩を組み敷いた。
膝裏に手を添えて持ち上げる。胸につくほど折り曲げ、足首は玉鼎の肩に掛けさせた。
「師匠・・・」
楊戩が腕を伸ばして、玉鼎の首に回した。それを合図に、玉鼎は秘めやかな蕾を突き破った。
「---・・・!」
ガクンと楊戩は仰け反った。
感じたのは熱さ。押し入ってくる玉鼎のモノが炎のように熱い。
「あああっ!」
凍り付いていた内部が、熱を求めて絡みついた。
「薬の効果が切れても尚、そんなに欲しかったか」
玉鼎が胸に咲く赤い実を指で弾いた。
「んんっ」
楊戩は胸を弄られる事に弱い。ただ、愛撫されるだけで達くほどに。
今も、軽く爪が擦っただけで、玉鼎を咥えた肉がきつく締まった。
執拗に弄ってやると、嫌々と首が振られた。止めさせようと、楊戩は玉鼎の手首を掴んだが、払われてしまった。
拒まれた腕がシーツの上に落ちた。
「別の所を愛撫して欲しいか?」
玉鼎が、立ち上がり戦いているモノを撫ぜ上げた。
「は・・・っ、あ・・・」
快感に楊戩の背が痺れた。先端に滲んだ滴を塗り広げられたが、達くほどの刺激は与えられなかった。
「まだ我慢しなさい。早く達くとおまえが辛い」
楊戩はこくりと頷いた。
引き出されて、貫かれる。時に浅い突き上げ。
玉鼎の抱き方は激しい。激しいから、楊戩は思考を奪われ、何も考えなくて済む。例え意識を保とうとしても、
すぐにバラバラにされてしまうのだ。
「良い子だ・・・」
玉鼎が上体を傾げ、楊戩の耳に軽く歯を立てた。
「ん・・・」
受け入れる機能のない場所での交わりの為、隠しきれない痛みはついて回るのだが、与えられる快楽は
それを凌駕していた。
青白かった肌が、再び淡く染まりだした。
薬の作用ではない、楊戩が望んで求め、燃やした熱だった。
「師匠・・・」
「どうした?」
とても体を交わらせているとは思えない、静かな声で玉鼎は尋ねた。
楊戩は続ける言葉を失い、きゅっと縋りついた。
玉鼎に愛される時間は何時も、楊戩の限界より長い。今日は一日の間に色んな事が起こりすぎた。成長途上の体に
受け止めるのはそろそろ限界に近かった。
意識が混濁する。
「嫌だ、眠らせないで・・・」
「・・・わかった」
玉鼎が身を起こした。背に腕を添え、繋がったまま楊戩を座らせる。
真下から垂直に貫かれる衝撃は強かった。
「ああ-----!」
「おまえが望んだ事だ。甘んじて受け入れなさい」
撓る楊戩の腰を持ち上げて、抜け落ちる寸前まで掲げた瞬間、玉鼎は腕を離した。
内壁を激しく擦られながら、再び楊戩は重力によって全てを呑み込まされた。
「ひ・・・あ・・・っ」
涙が飛び散った。
さらにもう一度、持ち上げられそうになって、楊戩は玉鼎にしがみついた。
「止めて、や・・・」
願いは聞き入れられず、高く、浮かされる。
落とされる時には、怖くてぎゅっと瞳を瞑った。
「そんな事をして何になるというのだ」
玉鼎が笑った。
「感じているのだから」
落下。
「--------!」
「感じている、抱かれる事に」
返答はなく、楊戩からは浅い呼吸が繰り返されるだけだった。
きつく抱きしめてやると、全身が委ねられた。
「愛しいよ、楊戩」


楊戩は、玉鼎を深い場所で受け止め、体が離れてのち、満足そうに意識を喪失させた。
完全に成長を終えていない、あどけなさを残す顔の汗をそっと指で拭って、玉鼎はその額に口づけた。




玉鼎は一人、テラスへと出た。
夏の始まりの夜は、ゆったりとした熱を帯びていた。
「・・・太乙」
虚空に向けて、玉鼎が言葉を発した。
「あ、気づいてた?」
空間が歪みを見せ、その間から太乙の影が現れた。本体は遠い場所にいるのだろう。それは微かな映像だった。
「このままで失礼するね。私はまだ崑崙に戻っていないから。ねえ、楊戩はどうしたのかな?」
「おまえに関係がある事か?」
抑揚のない声で玉鼎が答えた。もとが静かなだけに、それは冷たく聞こえた。
「怖いなあ」
肩口で切り揃えられた髪をさらさらと揺らして、太乙が身を竦めた。
「玉は気に入ってくれた?」
「ああ。多くは出回らない天然玉だ、礼を言う」
「うん」
沈黙が揺蕩った。それを先に破ったのは玉鼎だった。
「・・・何故楊戩を抱いた?」
「どうしてだろうね」
太乙が考え込むように首を傾げた。
「私があの子を好きじゃないのは知っていると思うけど」
嫌い、ではなく、好きではないというのが、感情の複雑な所だった。
楊戩も、玉鼎と自分に関わってくる太乙に抱いている気持ちは似た物があるのかもしれない。
太乙と楊戩の共通点は、二人ともが玉鼎と体の交わりを持っている事。
「どうにも生意気だから、ちょっと痛いめにあわせただけ」
溜息が玉鼎から漏れた。
「おまえが素直に本心を明かすはずもないか」
「だったら聞かなければ良いのに」
岩に腰かけた太乙がふふと笑った。
「あの子を抱くのは、止めないよきっと。師兄は止めないの?」
太乙は、玉鼎が止めない事を知っていた。楊戩は庇護されるべき幼いだけの子供ではないから。
本気で嫌ならば、太乙を上回る力を身につけ、自身で撥ね退けるべきなのだ。
玉鼎が庇うのは簡単だった。しかし、庇えば楊戩はそこで歩みを止める。例え理不尽な事であっても、降りかかる物は
払わなければならない。誰の手も借りずに。
「ついこの間、師兄の金霞洞に引き取られたばかりなのに。気が付いたら、子供ではなくなって、あなたの相手を
するようになるとはね」
予感はしていたけど、と太乙は横目で玉鼎を見つめた。
梢が騒めいた。
「もう、消える。遠隔地に投影するのは疲れる。言霊を飛ばせばよかったんだけど、何となく師兄の顔が見たくってさ」
そう言うと、急激に影は薄くなり、消えていった。
ただ、風が吹きわたるだけの場所に、玉鼎はしばらく佇んでいた。


2018/05/13

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