しとしとと雨が降っていた。
「・・・はあ」
思わずため息が漏れた。一人でいるから気が滅入る。
しかもそれを助長するような天気なのだ。
戻れない、と玉鼎は言った。早くても明日の夕刻だろうと。
金霞洞は広い。一人で過ごすのは嫌だった。
それなのに、子供のように行かないでと、縋るのは恥ずかしい。
だから、平静な顔で言ってしまう。
「僕なら大丈夫です。お気をつけて」と。
許されるなら、闇に包まれる間だけでも、傍にいて欲しいと言いたい。
例え毎夜抱かれる事になったとしても、その方がいい。
しかし、楊戩に告げる事など出来はしないのだ。
玉鼎が言う所の矜持である。
--矜持が高い。
しばしば玉鼎は口にした。言葉の深い意味をまだ楊戩は理解出来なかったが、
自分の性格の事だろう。
師が言うのならそうなのだな、と楊戩は思っていた。
水音を感じた。
目を上げると、風が強くなって、窓から雨が吹き込んできていた。
「閉めないと・・・」
春にしては暑いからという理由で、昼間、あちこちの窓を開けていたのだ。
いくつもいくつも。
燭台の蝋燭に全て火を点け、楊戩は部屋の外に出た。
暗い廊下。
しとしととだった雨が、風に煽られて激しくなっている。
窓を閉めていく間に、高い湿度に空気が暑く篭っていった。
今日は夜になっても、温度は下がらなかいようだ。
薄っすら汗ばむ不快さに楊戩は顔を顰めた。
暑さは苦手だった。
寒い季節ならば、衣を重ね、玉鼎に寄り添えばいい事だ。
しかし、暑い季節は凌ぎようがないから。
雨のせいで、締め切って過ごさなければならない夜は尚更。
何時しか、袖口を始め、衣服が吹き込む雨に濡れていた。
「嫌だなあ」
ぶるんと腕を振った時、風が一層強く窓から吹き付けた。避ける間もなく、
持っていた燭台に雨がかかり、火が消えた。
「あっ!」
周囲が暗くなる。明かりをなくせば、闇が再び楊戩に襲い掛かってくる。
蝋燭を探ってみても、芯が濡れていては、もう一度灯す事は出来ない。
楊戩は暗闇に立ち竦んでしまった。
歩いてきた方向は勿論わかっている。見えなくても、壁伝いに部屋に戻れば
良いだけだ。
戻って新しい蝋燭を灯し、今度は予備も持って、それだけで・・・。
頭では理解しているのに、体が動かない。
閉める事を忘れた窓から入り込む雨で、髪が、衣服がさらに濡れていく。
ねっとりと温かく纏わりつく雨。
「------!」
その時、楊戩は気づいた。
屋敷の中に誰かいる。
気配。
金霞洞の住人は二人。玉鼎は戻らず、楊戩はここにいる。
一瞬、師が戻ったのだと考えたのだが、すぐに否定した。
楊戩が、彼の気を間違うはずがないのだから。
「誰だ」
近づいてくる。
気配から遠ざかろうと後ずさった。逃げようと踏み出しかけた楊戩は、自分がひどく濡れて
いる事を忘れていた。
あっと思った時には足が滑り、床に倒れていた。
燭台が手から離れて床に転がり、派手な音を立てた。
「楊戩?」
少し離れた場所から声が聞こえた。同時に細く鋭い明かりが当てられる。
眩しさに目を眇めて光の方角を見やった楊戩が、見つめてくる一人の男に気づいた。
肩口で切り揃えられた黒髪がぱさりと揺れた。光源にいる彼が首を傾げたのだ。
その表情は楊戩からは伺えない。
「いくら今宵が暑いからって、雨に濡れたままで床になんて寝ていると風邪をひくよ?」
「・・・何故太乙さまがいっらしゃるのですか?」
起き上がり、乱れてしまった髪と衣服の裾を直しながら、楊戩は尋ねた。
「入口で、呼び鈴を何度も鳴らしたけどね。誰も出てこなかったから、勝手に入った」
「留守だとは思わなかったのですか?」
くすりと太乙が笑う。
「思わなかった」
「呼び鈴など聞こえませんでしたが」
「廊下などで寝ていては、それも当然」
「寝てなんていません!」
「じゃあ、無様に転んだの?」
楊戩がきっと睨むと、太乙は肩を竦めた。
「怖いなあ。昔は可愛かったのに」
こんなに小さくて、と腰のあたりの高さを示した太乙に楊戩が溜息を吐く。
「僕は昔からあなたが好きではありませんでした」
「知っているよ。お互いさまじゃないか」
太乙が吹き込む雨を避けながら楊戩に近づいた。
しっとりと濡れた髪に触れられる。
「着替えてきたら?」
楊戩は動かなかった。
「早くそのみっとみない衣服を着替えて、私に何か飲み物をいれてくれないか」
それでも楊戩は動こうとしなかった。
太乙が首を振った。
「私は一応、君より上位にあるんだけど? 命令を聞くのは当然だろう?」
楊戩の腕を引く。
「行くんだ。私を怒らせないうちに」
太乙の腕を振り払った楊戩は、きりと唇を噛んで彼うぃ見上げた。
「明かりを貸して下さい」
「光がないと、一人で行けないのかい?」
声を出して太乙が笑う。
屈辱感に楊戩の頬が染まった。
「私は慈悲深いからね。勿論貸してあげる。客間にいるから、さっぱりと冷たい物をね」


楊戩は、レモンを浮かべた冷たい茶を二つ運んできた。
「どうぞ」
些か手荒に卓に置いたのは、心情の表れだ。
気にするでもなく、太乙はグラスを引き寄せた。
「その着物、師兄のだね」
示されたのは、楊戩が着替えてきた一重の着物だった。濃い藍に染められた襟元だけが、薄く
白い模様で抜かれている。
「仕立て直したんだ」
「・・・はい。師匠がもう着られないと言われたので」
玉鼎より、頭一つ分と少し楊戩は低い。仕立て直したというより、裾を切り落としたという
方が早かった。
楊戩自身はもっと大きくなれるだろうと思っていたのだが、どうしても玉鼎に追いつく事は
出来ないようだ。
もう、成長が止まる年齢に達していたから。
そして、太乙にも微妙に届かないのだ。
目の前に座る彼は、華奢で繊細な風貌であるにも関わらず」
「師兄の黒髪にも映えたけど、君にも似合うね」
「どうも」
楊戩の返答は素っ気なかった。
「お茶、頂くよ」
グラスに口をつけた太乙だったが、すぐに離してしまった。
「レモンの酸味強すぎ」
舌がチロリと覗いて唇を舐める。
「茶の香りよりきつい。これではレモンの絞汁だ。茶の入れ方、料理の作り方、色々教えて
やったのに、こんな簡単な物も出来ないなんてね。
毎日どんな物を師兄に食べさせているのやら」
返す言葉が楊戩にはなかった。
自身のも飲んでみたが、確かにひどい味だ。
朝、出かける玉鼎にも同じ物を出したのだ。師は何も言わずに飲み干してくれたが・・・。
楊戩に砂糖と少しの蜂蜜を持って来させ、手際よく太乙は二つのグラスの味を調えた」
「これでいい」
呟いてから、一粒の薬丹を何時も持ち歩いている小袋から取り出す。
「・・・?」
楊戩の目の前で、太乙がグラスの中に入れた。軽く発泡して、薬丹はすぐに溶けて
なくなった。
「何をされたのですか?」
不審気に楊戩が尋ねた。
「君には拒めないよ。命令だ。飲みなさい」
「正体のわからない物を口には出来ません。いくら十二仙である太乙さまの命令とはいえ。
身を守る義務が僕にもあるはず」
「毒だとでも思ってる?」
「幾ばくかは」
「まさか。玉鼎真人の弟子である君を危うくさせるような事を私がするとでも?
・・・例えそうだとしても、こんな小さな薬で仙道が命落とすわけないだろう?」
「確かに思えませんが・・・」
「では、さっさと飲むんだ」
楊戩が口にしなければならないグラス。
「さあ」
太乙が促す。
強情に拒めば、無理やり飲まされるだけだろう。楊戩には逆らえない方法を使って。
警戒心に体が震えた。
それでも、逆らえないのだ。
太乙は、ただの道士でしかない楊戩の上位ににいる者。玉鼎と同格の十二仙。
命令は絶対だ。
意を決してグラスを取り、楊戩は一息に飲み干した。
甘くなった茶の味を感じる間もなかった。
「折角美味しくしたのだから、もっと味わって欲しかったけど?」
頬杖をついて、これみよがしの溜息を太乙は吐いた。
「全部、飲みました」
「そう?」
太乙が立ち上がり、卓を周って楊戩の背後に近づいた。
「じゃあ、素直に言う事を聞かなかった罰をあげてから、楽しい事をしようか」
細い指が、楊戩の青い髪を掻き上げた。
「・・・師匠をお待ちになられるのでしょう?」
金霞洞に太乙が訪れるのは、玉鼎と過ごす為。楊戩に用などあるはずがない。
・・・共に玉鼎に抱かれる者同士。
太乙と楊戩は今ではただ反発するだけの関係だ。
「違うね」
くくっと太乙が笑った。どこか冷たい表情で。
「今日は君を抱きに来たんだ」
「な・・・っ!」
驚いて楊戩は振り返った。
「痛っ・・・」
今まで、軽く弄んでいただけの髪を太乙が指に絡め、強く引っ張ったせいだ。
バランスを崩した楊戩が椅子から落ちた。体を支えようとした手が空を切る。
楊戩が態勢を立て直す前に、太乙は上から圧し掛かった。
「あなたは・・・」
きっと太乙を睨む。
「師匠が今日戻られない事を知っておられましたね?」
「だったら?」
答える言葉にはからかいが含まれていた。
「何故、来られたのですか? 何故・・・僕なのですか?」
「暇つぶし、だよ」
「僕を相手にですか? お断りします」
「私はしたいけれど?」
楊戩の頬に手を触れ、太乙がにっこりと笑った。
「研究が一段落ついたしね。時間を持て余しているんだ」
これは嘘ではない。一旦研究室に篭れば、落ち着くまで出てこれない事など
しばしばだったが、終わってしまえば、時間があく。
太乙が、玉を連ねた物を取り出した。
「仙人の力を抑える物だ」
宝貝とまではいかないけどね、と太乙が続ける。
楊戩の瞳が見開かれた。
崑崙随一の宝貝開発の腕を持つ太乙が造った物であれば、効力は確かだろう。
「嫌だ・・・」
逃れようとするのを阻まれ、寄せられた唇に囁かれる。
「無駄だよ。そろそろ薬丹も効いてきたはずだ。水中にいるように、君は動けなく
なっていく」
玉連が首に回され、かちりと留め金が掛けられた。
「これは、それを助長する」
怯えがさざ波のように、楊戩の内に起こった。
それを感じた太乙がうっすらと笑んだ。
「涙して苦しむ様が見たい」
「太乙さま・・・」
体の末端から力が抜け落ちていくのがわかった。すぐに楊戩は自分の意思で動けなく
なってしまうのだろう。
薬の効力がなくなるまで。
後は太乙の思いのままだ。
「く・・・っ」
残された力をかき集め、楊戩は立ち上がった。
太乙は僅かに瞳を眇めたが、何も言わずに目の前を楊戩が過ぎるのに任せた。
無駄な事だと心中嘲笑いながら。
「倒れてしまう前に、私から逃げ切って外に出られたら、諦めてあげようか?」
「・・・・・」
楊戩の足元に光を放つ小さな塊を投げる。
「いるだろう? 闇が怖くて歩けない、なんて事では面白くない。
太乙が手を翳すと、着けられたばかりの玉が砕け散った。
光を反射して、硝子のように破片が舞った。
「ハンデは取った。身の内に入ってしまった物は仕方ないけど。せいぜい頑張るんだね。
私はしばらくここにいるから」
一つ、押さえられていた力が解放されて、全身が僅かに軽くなった。
「約束を違えませんよう、お願いします」
「嘘は言わないよ」
楊戩は走り出した。磨かれた石の床を横切り、まっすぐ、扉へ。
部屋の扉を開けた途端、何かが頬を掠めた。
鋭利な痛みに触れてみれば、血がうっすらと滲んでいた。
振り返ってみたが、太乙は少しも動いていない。笑みを刻んだ表情も変わらず。
楊戩の反応を楽しんでいるのがありありだった。
「早くした方がいいよ。私が君を追い始める前に」
楊戩がいるのは二階だ。雨の為に窓全てを閉ざし、蔀を下したのが災いしていた。
それを開くより、階下に降りて正面入り口に向かうのが最短だろう。
使われていない部屋が並ぶ、必要以上に広い屋敷がこの時ばかりは恨めしい。
太乙が追って来る気配はまだない。
階段を下り切った楊戩は知らず、安堵の息を吐いた。
後は廊下を突き当りまで進むだけだ。扉も視界に入っている。
本気で自分に手を出すつもりではなかったのだと。いつもの揶揄いだったのだと。
呼吸を整え、踏み出しかけた足に、冷たい何かが絡みついた。
「うわ・・・っ!」
楊戩は転んで強かに膝を打ち付けた。
「一体、何が・・・」
足を取られた原因を確かめようと、着物の裾を持ち上げた楊戩が固まった。
光に照らされた足首に、緑色をした気持ちの悪い粘液が絡みついていたのだ。
凝視した先で、それは生き物のように容積を増した。
「もう捕まってしまったんだ」
階上から声がした。
「絡繰り仕掛けの玩具だけど、役に立つ物だね。・・・最も、君程度の相手だった
からかな?」
太乙がゆっくり階段を下りてくる。
「油断は禁物。それはあまり速く動けないから、君が立ち止まらずに最初の
スピードのまま走り抜ければ、逃げ切れたかもしれないよ?」
「取って下さい!」
「嫌だ」
太乙が腕を掲げた。それに操られるように、粘液は宙に高く浮いた。
「ああっ」
足を掴まれたままだった楊戩は逆さづりにされ、捲れてしまった裾から腿まで
剥き出しにされてしまった。
「覚悟はできた」
膝をついた太乙が楊戩の顔を覗き込んだ。
「・・・っ!」
太乙が呻いた。鋭い爪で引っ掻かれたのだ。
「よくこんな状態で反抗する気になるなあ。何時までも悪あがきしていたら、扱いが
酷くなるだけだというのに」
言葉と同時に楊戩は頬を打たれていた。きつい打擲に頭がくらりとした。
すいと太乙は首を傾げる。
「顔は駄目だね。見苦しく腫れたりしたら興が覚めてしまう」
打たれた衝撃からすぐには立ち直れない楊戩の、藍色の着物に手を掛ける。
「自由は全部封じないといけないらしい」
着物を無理に剥がし、帯で後ろ手に縛めた。さらに太乙自身の領巾も外して、上半身ごと
腕を縛り上げる。
勿論、唯々諾々とされるままになったわけではない。
力の限り逆らったはずなのに、楊戩の抵抗は封じられていた。
「薬・・・」
「そうだね。そのせいだと思っていた方が気が楽だ」
全身を隠す事も出来ずに晒されてしまった楊戩が、羞恥にもがいた。
「廊下でなんて、無粋な事はしない」
「君の部屋に行こう。空間を繋げるから」
周囲がぴしりとなった。大気が震えるのが伝わる。
微かな違和感とともに、楊戩は自分の寝台に投げ出されていた。
逆さまの辛い姿勢から解放され、楽になったのもつかの間で、足首を持って引きずられた。
「罰は、お尻を打ちすえられたい? それとも・・・」
太乙の指が、乾いて竦んでいる秘所に触れた。
「ここで痛い目にあいたい?」
楊戩が首ろ振る。
「答えなさい」
空いた手が、乳首を摘んで強く捩じった。
「あああっ!!」
反対側も同じように力を加えて悲鳴を上げさせてから、太乙は許した。
「ねえ、どっち?」
痛みを残す胸を庇えもせず、震えながら楊戩は太乙を見上げた。
「・・・許して下さい」
「今更哀願? 無駄だよ」
楊戩の両頬を手のひらで挟み込み、太乙が覗き込む。
先ほど打たれた時に、切れたのか僅かに血をこびり付かせた唇が、微かに開いて喘いでいた。
「お願いです」
自由を奪われ、逃れる術のない楊戩には、もう太乙の気が変わるのを期待するしかないのだ。
「ん・・・っ」
未だ足に纏わりついていた粘液が動いた。楊戩から引きはがし、太乙が手の中で弄ぶ。
何をしているのかわからなかったが、決して良い事ではないだろうから、楊戩はただそれを
見つめた。
「ほら、硬くなった」
太乙は、岩にようになった物を楊戩に示した。
「いきなり挿れると痛いかな」
「・・・!」
青い瞳が怯えを浮かべた。
受け入れる事を知っているから。慣らされもせずに入れられるなど・・・!
追い詰めた楊戩をいたぶるのを太乙は楽しんでいるようだ。
「足は自由になった。寝台を下りて跪きなさい。そして、君の唇で私を慰めてくれないか。
師兄に仕込まれているのだろう? 
上手く出来たら、挿れるのを止めるかどうか考えてあげる」
すぐに従おうとしない楊戩に、太乙は肩を竦めた。
「譲歩したつもりだけど?」
太乙は手助けしようとはしなかったので、楊戩は彼の衣服を唇で退ける事から始めなければ
ならなかった。
楊戩の温かい唇に含まれる感触に、太乙が息を吐いた。
舌が絡みついてくる。ぎこちなさはある物の、精一杯太乙を慰める。
まだ成長しきらない体で頻繁に玉鼎を受け入れるのには、負担が大きすぎるから。それ故に
口淫を楊戩は教えられたのだろう。
改めて、楊戩を抱く玉鼎を太乙は思った。彼に楊戩と共に抱かれるようになってから、
もう何年も経過している。
「う・・・」
太乙は意識を引き戻された。いつの間にか呼吸が荒くなっていた。
簡単に乱されてしまった事が悔しくて、放り出していた、緑色の物を再び手に取る。
硬いそれに太乙が唇を当て、先端を湿らせた。赤い唇が笑む。
太乙を慰める事に意識を集中させていた楊戩が気づいた時には。宛がわれた物に力を込められていた。
「あああ----っ!」
解しも、慣らしもされていない場所を無理に拡げての侵入。激痛が下半身から全身を巡った。
「口が休んでしまっている。続けなさい、楊戩」
容赦なくねじ込みながら太乙が命じた。
「痛いからって歯を立てたりしたら、どうなるかわかるよね」
頬に指を掛け、顎の上下の境に食い込ませて口を緩ませる。その指に流された涙が触れた。
じんわりと温かい涙が、太乙には心地よく感じられた。
すっと楊戩が唇を離した。
「しないって・・・」
「ん?」
「口でしたら、しないと言われたのに・・・、ああっ」
「考えてあげると言っただけだよ。さっさと君のやるべき事を続けるんだ。さあ!」
塊を抉り、太乙は完全に差し入れてしまった。紅を刷いたように充血をしてはいたが、受け入れて
しまえば、そこはぴっちりと閉ざされた。
「慎ましいね」
「ぐふっ」
喉奥を突かれて、楊戩が苦鳴した。思わず離れかけるのを許さず、二度三度と繰り返す。
青い瞳から流れ出る涙を指に掬い、その味を太乙は確かめた。
「もうそろそろ私も限界かな」
楊戩の髪を掴んで引き離し、寝台にうつ伏せに押し付ける。
太乙が立ち上がると、袍の裾がふわりと翻った。焚き染められた香り。帯どめの玉。
衣服を何も乱していない太乙と、裸体を縛められた楊戩と・・・。
「く・・・」
屈辱だった。
楊戩の背後に回った太乙が、腰を掴んだ。
「太乙さま!!」
「煩いなあ、何だい?」
腕の自由がない為に、肩だけで上半身を支える苦しい姿勢で、それでも必死にもがく楊戩に、
太乙は冷たい一瞥をくれてやった。
「中の、取って下さいっ!!」
「そうだね。忘れていた」
そんなはず、ないのに。
「深く、物なんかに奥まで抉られて、感じた?」
「そんなわけ・・・!」
太乙の指が突き入れられた。
「あああっ!」
「ほら、噛みしめていないで、力を緩めなさい。抜いてあげられないだろう?」
ゆっくりとそれは引き抜かれ、固い音を立てて床に転がった。
「・・・さて」
太乙が体を倒し、楊戩の耳元に囁いた。
「私を、受け入れるね?」
「・・・はい」
もう、反論はしなかった。
「------!!」
深く突き立てられ、楊戩は悲鳴した。
「あ、あ、あ・・・」
無意識に逃げ掛ける体は、上から押さえこまれた。
「君も感じさせてあげるから。ああ、もう感じているのかな」
太乙の手が、楊戩の前方に触れた。
「ひあ・・・っ」
そこは、既に形を変えつつあった。
「抱かれる事に慣れた体だ・・・」
「あなただって・・・師匠にっ」
「だから?」
黒い瞳が冷たく、しかし何処か悲しく光った。
「君に何か言う事が出来るとでも?」
手にしたものを強く握りしめる。
「う・・・ああっ」
「感じていても、まだ達かせてなどあげない」


引き延ばせる限界まで時間をかけて楊戩を苛んでから、太乙は離れた。
最早顔を上げる事もなく楊戩は泣いていた。
「布だから、跡にはなっていない」
縛めを解きながら太乙が言う。
「だから師兄に隠す気なら出来る。愛撫も与えていないから、印はないし・・・ね」
僅かに乱した衣服を直し、肩にふわりと領巾を羽織る。
窓辺に近づいた太乙が外を見やり、ため息をついた。
「雨、余計にひどくなったかも。今日は泊まっていくから、客間を使うよ」
楊戩を毛布に包み、寝台に上げる。
「退屈しのぎにはなったし。じゃあね」
立ち上がりかけた太乙がふっと首を傾げた。
「手、離して欲しいんだけど」
長い裾の端が、小刻みに震える指に掴まれていた。
「・・・楊戩」
いつの間にか、意識を失っているようだった。
「もっと何かするかもしれないよ?
・・・仕方ないね。私は師兄ではないというのに」
長い髪を太乙は梳いた。