玉鼎の寝室に運ばれた楊戩は、腕を差し出すように命じられた。
「僕を、拘束なさるのですか?」
「おまえが自分で慰める事が出来ぬように」
「そのような事・・・致しません」
「どうなるかは、わからぬ物だ。さあ、楊戩」
後ろに回した両手首に絡められたのは柔らかな布だったが、容易に解く事が出来ない
程度の強さで括られてしまう。
先ほどの行為で着衣は既に何も身につけてはおらず、楊戩は裸身を玉鼎の前に
隠す事なく晒してしまう事となった。
苛まれて赤く染まった胸も、熱を帯びた秘所も全て。
「師匠・・・」
まだ灯されたままの明かりに楊戩が視線を向けた。
「わかった。消してやろう」
「ありがとうございます」
円やかな暗闇が室内に満ちた。
暗くなった事で楊戩は安堵したが、同時にそれは何をされるかがわからなくなったという
事でもあった。
玉鼎の手が肩に触れたと思った時には、楊戩は押し倒されていた。
大きな体に圧し掛かられて、体がかっと熱くなった。
「師・・・」
「もう、黙りなさい」
唇が触れあうほど近くから囁かれた。
縋りたくても腕の自由がきかないもどかしさに、楊戩は身を捩る。
「腕を敷いていては苦しいな」
玉鼎が楊戩をうつ伏せにさせた。
細い腰が引き上げられ、暗闇の中でも、その体勢の淫らさに楊戩の頬は赤く染まった。
肩だけで上体を支え、突っ伏した顔に触れるシーツはまだ冷たい。
「ひあ・・・っ」
とろりとした液体が、下肢に垂らされた。
もう、愛撫は行われないのだ。
これは、罰なのだから。
長い指が、液体を絡め取って、秘裂を割る。
「湿らせるだけだ。苦痛ごと、受け入れなさい」
塗りこめるだけの軽い接触で指は離れた。
玉鼎が背に口づけた。
「最も、それすら快楽と取るか」
衣擦れの音。玉鼎もまた、着衣を乱していく。しかし、最小限に。
切なさに表情を曇らせた楊戩だったが、押し当てられた熱にはっとなった。
「師匠、まだ・・・」
体に受け入れる覚悟が出来ていない。
頭では、貫かれるとわかってはいたものの、楊戩の体はまだ強張りが抜けきってはいなかった。
それでも、止めてもらえるはずもなかった。
「い・・・あああっ!!」
悲鳴が楊戩から迸った。
受け入れる場所ではない所で、繋がるのだ。何度抱かれても、引き裂かれる痛みが消える事はない。
今のように、慣らされる事がなかった場合は、特に。
「く・・・ううっ、う・・・」
苦しい呼吸に横を向いた顔が苦痛に歪んでいた。
動けないよう、腰をしっかりと掴み、玉鼎は先端を強引に突き入れた。
背中で縛められた手が、爪が食い込むほど強く握りしめられている。
「受け入れる術は教えてある。それとも、馴染むまでこのままでいるつもりか」
唇を噛みしめ、苦痛に喘ぐ声を漏らすまいとする楊戩に、玉鼎が声をかけた。
しかし、その声が届いていないのか、楊戩はただ、必死に痛みに耐えていた。
そんな楊戩の横顔を見ながら、半分ほどまで飲み込ませると、玉鼎はようやく両手を腰から離して
両脇についた。
痛みに耐えている楊戩から、返答など得られるはずもないから、もう、声を掛ける事はしなかった。
幾度となく、玉鼎と交わった体だ。
いずれ苦痛は快楽へと変化していく。
楊戩が望んだ罰は、意識を取り戻し、自我が戻った時に行えば良い。
手を伸ばし、大きな瞳から溢れる涙を拭ってやる。
玉鼎が今、腰を動かさずにいる事で、少しだけ、楊戩の痛みは治まっていた。
勿論、束の間の休息にすぎない事はわかってはいたが。
拭われる指の優しさに、楊戩は胸を詰まらせた。
「ああ・・・」
固く噛んだ唇にも指を這わせて緩ませると、玉鼎は体を起こした。
「うううっ!」
奥深くまで、玉鼎を受け入れている楊戩の秘所は、少し動かれるだけも激しく痛んだ。叶う事なら、
すぐに身を翻し、逃げ出してしまいたいほどに。
そうしないのは、このような行為をされても・・・玉鼎を想うからだ。
覆いかぶさる玉鼎が動きを再開させた。
「-----!」
同時に、押し広げられた箇所に激痛が走った。
玉鼎は、ゆっくり腰を引き、抜け出る寸前で再び奥深くまで戻す事を繰り返した。
急きはしなかった。楊戩を煽り、苦痛ばかりの今から解放させてやる為に。
「・・・ぁ、あっ・・・」
楊戩の切ない吐息に熱が混じり始めた。
それに気づいた玉鼎が、開かせた楊戩の脚の間に手を差し入れる。痛みに萎えていたそこが、
再び、感じ始めているのを確認する為だ。
「嫌・・・」
触れないで、と玉鼎を拒もうにも、両腕の自由はない。下肢を逃がそうと、虚しくもがく事しか楊戩には
出来なかった。
あくまで拒もうとする楊戩に、玉鼎は感じている事を思い知らせるように、肉の先端で、知っている敏感な
箇所を抉った。
「ひあああっ!!、駄目・・・っ、」
楊戩の目の裏に火花が散った。勃ち上がったモノに指を絡めた玉鼎が含み笑いを漏らす。
「もう破裂しそうだな。痛みを与えていたはずが・・・淫乱な体だ」
下半身を小刻みに揺すられて、絶頂に近い快感が体の芯を駆け抜けた。
「あ・・・あ・・・ッ。ヤ・・・」
立ち上がりを握られ、弄ばれて、楊戩は嫌々と首を振った。
嫌なはずなのに、穿たれると中心部は敏感に反応して蜜を滴らせた。玉鼎に揺すられる度、楊戩の
喉からは恥ずかしい呻きが迸る。
「何が嫌なのだ? こんなにしておいて」
一際大きく揺すられて、楊戩は悲鳴を噛みしめた。
「締め付けが甘くなっている。もっと力を入れなさい。そう、教えたはずだ」
ぐいと腰を押し付けて、玉鼎が白い双丘を平手で打った。
「あうっ!」
さほど強く叩かれはしなかったが、衝撃で楊戩の内壁がきゅっと強張った。
途端、受け入れているモノの大きさ、形、位置までが鮮明に感じられて、挿入された部分から新たな
快感が押し寄せた。
もう隠しようがない、これは快感なのだ。
括られた手が小刻みに震えた。
深々と突き刺さったモノが体内を抉る。際限のない繰り返しに、楊戩の瞳からまた涙が漏れた。
堪えられない、と強い射精感に体が震えた時、根元をきつく握られて楊戩は目を瞠った。
「な・・・師匠・・・っ!」
なりふり構わず上体を捩り、楊戩が玉鼎を見上げた。
「どうした、楊戩。まさかもう達かせてもらえるとでも?」
冷ややかな声音に、楊戩は息を詰めた。
薄く汗をかいていても、玉鼎自身は着衣さえさほど乱してはおらず、楊戩を凌辱している。
楊戩は、まだこの行為が序盤なのだと悟って戦慄した。
握られた状態で、もう片方の手に左足を捉えられる。体の内部を穿たれたまま、くるりと横向きに
され、楊戩が呻きを漏らした。
今度は、横の姿勢で苛まれるのだ・・・。
楊戩の顔をよりはっきりとこちらに向かせたかっただけだったのだが、新たな体勢に唇を噛んでいる
姿に、玉鼎は軽く肩を上げた。
「ひどくして欲しいと望んだのはおまえだ」
「・・・は、い・・・、、ああっ!」
ぐっと腰を突き出されて脳裏が爆ぜた。
残酷な律動が躊躇なく再開されて、楊戩の細い喉から悲鳴に近い喘ぎが飛び出した。
弾けそうになっている前を、玉鼎は、親指と人差し指の輪できつく押さえ込み、残った指で苛む。
それは、僅かに残っていた理性と矜持を吹き飛ばすには充分だった。
「あ、あ・・・・、あっ」
楊戩を堰き止めたまま、狭い肉の狭間を玉鼎が穿つ。
それは正しく、罰というのに相応しい行為だった。
留めても尚、先端に蜜を滲ませる楊戩に、玉鼎は瞳を細めた。
瞬間、思い切り突かれて、楊戩は悲鳴を上げた。同時に勃起がいっそう縛められる。
「達きたいか? 楊戩」
問われて、楊戩は頷いた。羞恥心も、躊躇も最早この苦しみを終わらせる前には、何の役にも立たなかった。
最初に、腕を拘束されていなければ、なりふり構わず、自身を慰めていただろう。
それほどまでに、苦しい。
「では、私に頼んでみるか?」
「い・・・達かせて、達かせて・・・下さい、師匠・・・もう・・・っ」
楊戩は、息が止まりそうなほど喘ぎながら、声を振り絞った。
「縛られて、犯されているというのに、感じているのか?」
「は・・・い・・・、あ、あ、・・・う・・・」
緩く揺すられて視界が霞んだ。
「お願・・・い、です・・・師匠・・・」
「仕方がない」
上体を屈め、玉鼎が上気している頬に口づけた。しかし、握った手を緩める事はしなかった。
「全く、節操のない体だ。躾けたのは私だが、他者にまで足を開くとは」
「師匠・・・? ああっ!」
もう達かせてもらえるとばかり思っていた楊戩は、突然双丘を平手打ちされて背を撓らせた。
「痛っ・・・どうして・・・っ」
楊戩は声を上ずらせた。痛いはずなのに、その中に何故か異様な快感が走ったのだ。
「私の留守に他の男を咥え込んだ罰だ」
再び打たれて楊戩は仰け反った。
高い音を立てて、容赦なく打ち据えられる。じんとした痺れを感じる間もなく、立て続けに。
振動で、受け入れた玉鼎の存在感が増した。
自分の中にあるモノの形、大きさをまざまざと感じて、縛められた前方がズクンと脈打った。
「・・・?」
ふいに玉鼎の手が止まった。
楊戩は羞恥を堪えて、師を振り仰ぐ。
「あまり罰にはならないようだな、ひどい濡れ具合だ」
より硬さを増した茎を悪戯に揶揄われて唇を噛む。あまりな言われようだが、こんな事をされても
尚、感じてしまうなんて。
しかし、罰はさらに続いた。
「私に隠そうとした罰。隠したまま、今宵私に抱かれるつもりだったか」
玉鼎が腰を引き、再び奥まで打ち込むのと同時に、打ちすえた。
打擲は先ほどよりもきつかった。
玉鼎の責めは容赦なかった。
「打たれて濡れるとは、そんなに気に入ったか?」
「違・・・」
言われて、楊戩は気づく。この罰は、快楽を与えるだけ与えて、達かせない事だと。
平手打ちの間、小刻みに腰を揺すられ、楊戩が歯を食いしばった。そうしないと、何を言ってしまうか
わからなかった。
一定の間隔で連続して打たれ続ける楊戩には、もう抗う気力はない。何時許してもらえるかわからない
快楽を抱え込んだまま、衝撃の度に玉鼎を締め付けるだけだ。
「達きたいか?」
再び玉鼎が問うた。
「は・・・い・・・、達きたいです・・・」
譫言のように答えると、玉鼎が満足そうに笑んだ。
「反省していると?」
「しています、だから・・・っ」
決して楊戩から太乙を求めたわけではないのは、玉鼎とてわかっているはずだ。
抵抗出来なかった。
不可抗力だったのだ。楊戩自身、心の奥でそう思う気持ちがあったのに、自然と口が動いた。
涙目で楊戩が頷いた途端、両脚の間で玉鼎が大きく動いた。
「------ぁあ-----っ!!」
奥の奥まで抉られてから、後退され、また突き込まれる。
感じる、などという生やさしい刺激ではなかった。
細胞の一つ一つが、一瞬にして焼き尽くされる・・・そんな快感。
「・・・楊戩・・・」
頭上から、些か忙しくなった声で名を呼ばれた。
美しく、常に冷徹な玉鼎が、自分の体で感じている。
そう思うと、楊戩の快楽も一気に増した。
玉鼎に抱かれているだけで嬉しい。
担ぎ上げられた脚に触れる、衣の感触。体の中を生身で犯されていく・・・。
「師匠、好きです・・・、師匠だけ・・・っ」
楊戩の訴えに、玉鼎の動きが僅かに止まった。しかし、すぐに思い直したように律動を再開した。
「く・・・」
縛られた腕がもどかしかった。何かにしがみついていたい。そうしないと狂ってしまいそうだ。
「可愛い・・・楊戩」
玉鼎が低く囁く。
「さあ、達きなさい」
縛めた指の力が緩んだ。楊戩が息を継ぐ間を与えず、長い指が絞るように擦りあげる。
目の裏を刹那の間に、閃光が走った。


「腕は外してやろう。もう、おまえは達ったのだから」
両手が解放され、赤くなった手首に玉鼎の唇が触れた。
力の入らない楊戩の体が仰臥され、両脚が改めて抱え直される。達した時に失念してしまっていたが、
受け入れたままの玉鼎はまだ満足してはいない。
「自分だけで終わる気か? 今度は私も楽しませてくれないか」
両脚をしっかりと抱えられた状態で、激しい動きが始まった。
「あああっ」
再び体の奥から沸き起こった熱に、楊戩は掠れた声を張り上げる。達ったばかりだというのに、信じられないと
目を見開く。
「師・・・」
自由になった手を伸ばし、楊戩が玉鼎に抱き着いた。
「楊戩・・・」
しっとり汗ばんだ玉鼎の手に両頬が包まれ、楊戩は瞳を閉じた。
喘ぐ口腔に口づけられ、熱くなった舌が入り込んできた。
「ん・・・んんっ・・・」
舌で敏感な場所を隈なく探られて、快感に楊戩が身を捩る。
自分が望んだとはいえ、ひどい事をされたのに。
「もっと・・・下さい・・・」
思わず吐いた言葉に、楊戩ははっとなった。
夜の海のような黒曜石の瞳が、揶揄いを含んで楊戩を見つめる。
「呆れた物だ。全然罰にはなっていないではないか」
「あ・・・」
今更の羞恥を隠すように、楊戩は玉鼎の胸に縋りついて顔を隠した。
大きな手のひらが、楊戩の髪を撫ぜた。
「私の物でいなさい、まだ・・・」
低く掠れた声音に楊戩の心の奥が波打った。
「何時までも・・・」
答える言葉が震える。
「何時までも、師匠の物でありたい・・・」
ぎゅっと玉鼎の衣を握りしめる。
そんな楊戩の背に腕を回し、玉鼎は覆いかぶさった。