「・・・っ」
楊戩は痛みの残る体を起こした。
抱かれた朝は辛い。
それでも、玉鼎が戻る前に、身支度を整えておかなければならない。
全身を清め、髪を洗い、衣服を整える。
努めて平静にふるまわなければ。
気づかれないように。 決して。




玉鼎が戻ったのは、その日の夕刻に近い時間だった。
昨夜から降り続いていた雨は止んでいたが、どこか纏わりつくような湿度が
残っていた。
「お帰りなさい。ご無事で何よりです」
出迎えた楊戩は、玉鼎が飛行してきた騎獣の手綱を取った。
「思ったより遅くなったが、何事も変わりなかったか?」
「・・・はい」
一瞬、返す言葉は遅れたが、楊戩は肯定した。
「そうか」
額に口づけ、頭一つ小さい楊戩を抱きしめる。
それが気まずくて、楊戩はうつむいてしまった。
そんな楊戩の様子に、それ以上は何も言わず、玉鼎は屋敷に入った。


何時ものように。
何時もと変わらず。
何も変わらず・・・。


それが楊戩には居たたまれなかった。
だから、すぐには気づけなかったのだ。
玉鼎がじっと楊戩を目で追っていた事に。
「楊戩、言いたい事があるのではないか?」
「え・・・?」
夕餉を片付けていた楊戩は、腕を取られた。
引き寄せられて、座ったままの玉鼎に見上げられる。
「いえ」
咄嗟に否定したが、玉鼎の力は緩まなかった。
「私に隠し事が出来るとでも?」
楊戩の膝を折らせて口づける。
ふわりと甘い香り。
変わらない師の香りに、抱きしめてくる腕の温かさに、楊戩は切なくなった。
「何も、・・・、んっ」
襟の留め具が外され、玉鼎の指が首筋に這わされた。
「無理に言わされたいか?」
それとも・・・と、口づけの合間に囁かれる。
「私が知っていたとしたら?」
瞬間、楊戩は玉鼎の胸に手を当てて突っぱねた。青い髪がぱさりと揺れ、玉鼎を
見つめた表情は、硬く強張っていた。
「太乙さまに会われたのですか!」
胸に置いた手が震えていた。
「太乙?」
玉鼎がくっと目を眇めた。
「・・・あれが原因か」
頤を強く掴んで楊戩の顔を上げさせる。
「何を言われた? もしくは、されたか」
そこで初めて楊戩は誘導された事に気づいた。
「お許しを」
楊戩の頬を涙が伝った。
「僕は・・・太乙さまに抱かれました・・・」
「おまえの様子から、ひどい事をされたのは感じていたが、そういう事か」
玉鼎から離れた楊戩が、彼の前に膝をついた。
「僕を罰して下さい。どうか、ひどく」
「ひどく、か。おまえから求めたわけでもあるまいに」
楊戩の性格はわかっている。玉鼎に操を捧げているわけではないが、誰にでも体を
委ねる子ではない。
「おまえはそれで、気が済むか」
「そういう問題では・・・」
俯いたまま、楊戩は顔を上げなかったが、まだ幼さを残す体が震えているのが、玉鼎には
感じられた。
抱きしめてやるのは容易いが、それでは楊戩が納得しないだろう。
だから、玉鼎はあえて冷たい口調で告げた。
「では、脱げ」、と。
楊戩が明るい光の中での行為を嫌うのを知っているから。
「ここで・・・ですか?」
「そうだ」
案の定、楊戩は固く強張った。
「出来ぬか? 出来ぬなら、私にはもうおまえに用はない、出て行きなさい」
「従います」
乱されていた襟に手を掛け、戸惑いながら衣服を脱いで行くのを、玉鼎がじっと見つめた。
「こちらを向いたままで行いなさい」
視線に耐え切れず、羞恥に後ろを向きかけるのを制止させる。
楊戩の細い指が震えていた。
「全てだ」
「・・・はい」
下履きを外す事を躊躇う楊戩に命令する。
煌々と光が照らされた室内で。
「卓に手をつきなさい」
目の前で、卓に両手をつかせ、玉鼎は立ち上がった。
「この口で」
背後から楊戩を包み込む。
「どのような抱かれたか言ってみるがいい」
玉鼎の指が唇をなぞった。
「そんな、事・・・」
言えるはずがない、と楊戩が首を振る。
「跡はないな・・・太乙はおまえを愛撫しなかったのか?」
項に口づけた玉鼎が、楊戩の体に情交の跡がないの事に気づいた。首、肩、背、まるで何事も
なかったかのようだ。
それなのに、楊戩は傷ついているのだ。
背後から、薄い胸に咲く乳首を摘み上げる。
「あ・・・っ」
きつく捩じられて、楊戩が苦痛の声を漏らした。
ここも、敏感ではあるが、弄られた形跡はない。
「や、師匠、痛い・・・」
楊戩は背を仰け反らせた。
玉鼎が両手で、さらに痛みを与える為に力を入れる。
耐える為に仰け反った事で、さらに突き出す形になった胸は、絶好の的でしかなかった。
「これは罰なのだから」
肩口に歯を立てた玉鼎が囁く。
「痛くても、受け入れなさい」
「は、い・・・っ、ああっ!」
爪を立てられ、捩じられる事で感じやすくなっていた箇所に新たな苦痛が加わった。
噛んだ事で、くっきりとついた跡に、玉鼎は舌を這わせた。
「ん・・・」
その感触に楊戩がぞくりと震えた。
罰を受けているのに、感じてしまうなんて。
「どうか、痛みだけを・・・」
玉鼎は答えず、指の腹で爪で弄った場所を撫ぜた。
「ふあ・・・っ」
痛みの後に、じんとしたくすぐったいような感覚が走る。
乳首から離れた玉鼎の手が、脇腹を撫ぜ、下肢へと降りていった。
「脚を開け」
「嫌・・・っ!!」
与えられた罰にさえ、感じてしまった事を恥じた楊戩が、必死に抵抗した。
「楊戩」
嫌々と頭が振られる。
「心配するな。どのような事になっていようとも・・・達かせてなどやらぬから」
腿に手を掛け、無理やりに脚が割り開かされた。
「止めて下さ・・・っ」
制止を訴えた時には、既に大きな手のひらに包まれていた。
「はしたないな。太乙にもこうして感じていたのか?」
「いいえ・・・いいえ!」
強く揉みしだかれているのに、苦痛より快楽が勝った。
膝が、体を支えきれずにがくりと折れた。
崩れ落ちるのを、玉鼎が支える。
そのまま、抱き上げられて、楊戩が目を見張った。
「私に見せつけるような跡がない事がわかっただけで良い。明るい場所では嫌なのだろう?
続きは寝台でしてやろう」
「・・・」
楊戩はきゅっと玉鼎にしがみついた。