それは、何時気づいたのだろう。
眠りにつく時、抱きしめるように包んでくれる温もりが時折消えている事に。
崑崙に預けられた小さな体が、寂しさに泣く度に、包み込んでくれていた、腕。
玉鼎の吐息。
朝、楊戩が目覚めるまで、当然隣にある物だと思っていた。
それなのに・・・。夢うつつの知らぬ間に、玉鼎は戻ってきてはいたが、空白の時間が存在していた事は、
楊戩を傷つけた。
肌寒さに、ふっと瞳を開けた時、寝台に温もりがない切なさ。
楊戩を置いて何をしているのだろう。
何故、一人にしておくのか。
14の春を迎え、それでも尚、玉鼎とともにいて欲しい甘えを突き離してでもいるのか。
花冷えの雨が降る夜、雨音の強さに、今日も楊戩の眠りは覚まされてしまった。
「師匠・・・」
闇の中、手探りで寝台を探す。
気配がないのだ。
いるわけがないのがわかっていても、もしやという思い。
「・・・どうして」
玉鼎は、こうして楊戩が夜中に覚醒する事もあると知っているのだろうか。
外はひどい雨だった。
まさか、この中を表には出ていないだろう。
では、屋敷内にいるはずだ。
迎えに行って、抱きしめてもらいたい。
寂しかったのだと、わかってもらいたい。
夕べ使った燭が、まだテーブルに残っていたのを思い出し、そっと寝台を降りる。素足で歩くには、まだ寒かったが、
楊戩はそのままで部屋を後にした。
広い屋敷。
暗闇が、覆いかぶさってくるようだった。
小さな明かりでは、到底払拭など出来はしない。
闇は嫌いだった。
金鰲を思い出すから。
誰も迎えに来てはくれない、楊戩の故郷。闇と人工の光しかなかった場所。
「寒・・・」
上着の一つでも羽織ってくれば良かった。
冬は終わったとはいえ、夜は深々と冷えていた。
人の気配を探るように、歩いていた楊戩だったが、見つけられない悲しさに、諦めかけ始めた頃・・・。
「あそこだ・・・」
普段、使われる事のない客間に、何かを感じた。
でも、と楊戩は足を止めた。
理由はわからない。近づいてはいけないと、本能が告げたのだ。
ゆらり、蝋燭の光が揺れる。光はあといくらももたないだろう。
玉鼎がいるはずだ。
何を恐れる頃があるのだ。
心が伝えてくる躊躇いを振り切り、楊戩はそっと、部屋の扉を薄く、ごく薄くだけ開いた。
部屋の中は、軽く明かりが灯されていた。
闇ではなかったから、玉鼎がいるのがわかった。
部屋の中心に置かれた寝台の上に。
そして・・・玉鼎は一人ではなかったのだ。
白く、細い腕が、玉鼎を引き寄せていた。組み敷かれていたのは・・・。
「太乙、様・・・」
言葉を漏らしかけた口を、楊戩は押さえた。
微かな熱が伝わってくる。
こんなに離れているのに。
彼らは何をしているのだ。


「・・・師兄」
太乙が抱きしめた玉鼎に囁いた。
「あの子がいる・・・ああっ」
かりっと首筋を噛まれて、太乙は言葉を続けられなかった。
他所に気を取られた事に、気分を害したのか、加えられる愛撫がきつくなった。
「ああ」
玉鼎が長い髪をかき上げた。
「わかっている」
すっと顔を上げた玉鼎は、楊戩に瞳を向けた。
「部屋に戻りなさい」
「いいんじゃない? 入ってもらえば」
太乙もまた、楊戩を見つめた。
くるりとした目が、光を映して、金色に色を変えていた。
「どうする?」
玉鼎の下から抜け出した太乙が、寝台の上で膝を抱えた。彼の着衣がひどく乱れている事に、楊戩は気づいた。
肌蹴ている、と表現するには留まらない。肩は露わになり、足も腿の上の方まで見えてしまっていた。
玉鼎は何も言わなかったが、去れ、と気配が伝えていた。
「あ・・・」
楊戩の知る師ではなかった。
怖い。
本能が告げたのは、これだったのだ。
後ずさった楊戩は、逃げるように、彼らから遠ざかった。


部屋に戻った楊戩は、上掛けを頭から被った。
震えがとまらなかった。
玉鼎と、どう接したら良いのか。
両手で肩を抱き、思案を巡らせていた楊戩だったが、ふと、気づいた。
太乙は幸せそうではなかったか、と。
楊戩から玉鼎を奪い、ともに過ごし・・・。
それが何故自分ではなかったのか。


時計の針が一際大きく、かちりと鳴ったような気がした。
「楊戩」
今までと何も変わらない、温かな声が掛けられた。
「起きているのだろう?」
布の塊と化している楊戩に手をかけ、玉鼎は上を向かせた。
すっぽりと被った上掛けをかき分けられ、楊戩の顔は晒されてしまった。
「太乙様は・・・?」
玉鼎はため息をついた。
「彼は戻った。おまえも、もう寝なさい。夜に部屋を抜け出すなんて、悪い子だ」
「師匠が、」
楊戩が身を起こした。
「師匠がいないから」
泣くつもりなどないのに、瞳から涙が溢れた。
縋るようにしがみついた楊戩を、玉鼎は抱きしめた。
「目を覚ますとは思わなかった」
「初めてではないです」
胸元に顔を埋めた楊戩が、告げる。
「何度も、何度も・・・。僕が小さい頃から、そうされていたのですか・・・?」
包んでくれていた温もりは、知らず、裏切られていたのか。
「僕では駄目なのですか?」
玉鼎の襟を掴んで顔を上げた楊戩が悲痛に言った。
「太乙様と同じ事をして下さい・・・」
「馬鹿な事を」
玉鼎が、そっと楊戩を離した。
「何故?」
真摯に見つめてくる視線を受け止めた玉鼎がふっと笑みを浮かべた。
「私達が何をしていたか、知らぬであろう?」
「抱きあって、一緒に寝台におられました」
「それから?」
「・・・それから??」
堪えきれなかったのか、珍しく声をあげて玉鼎は笑い出した。
「意味もわからぬのに」
「師匠!」
「おまえはまだ子供だ。夢を見る時間が必要なのだ。全て忘れて眠りなさい。今度は朝までいてあげるから」
楊戩はかっとなった。
「嫌です」
「楊戩」
「僕は何も知らないかもしれないけれど、それでも・・・寂しいのは嫌なのです。太乙様と同じ事を僕にして下さる事で、
師匠が傍にいてくれるなら・・・っ」
顎に手を掛けられて上向かされた。
いつの間にか、玉鼎から笑みが消えていた。
「駄々を言う。もっと大きくなってから、と思っていたが、一度知ると、引き返す事は出来ないとわかっているのか」
「師・・・」
発しかけた言葉は、唇によって遮られた。
楊戩の知っている、優しい口づけではなかった。
何を・・・と本能的に逃げかけるのを封じ、吐息ごと、楊戩は奪われた。
「あ・・・」
僅かに唇が離れる度に、苦しいと楊戩は喘いだ。
喘ぐ事で開いた隙間に玉鼎の舌の侵入を許し、さらに苦しくなった。
縮こまった楊戩の舌は絡み取られ、吸い上げられてしまう。
唾液が、顎を伝い落ちた。
「もう、止めぬ」
耳元に唇を寄せ、玉鼎が囁いた。
その声の低さに、背筋が震えた。
何時も、楊戩を抱きしめてくれていたように、師と太乙もいただけではなかったのか?
何かが違う、と初めて楊戩は気づいた。
耳から首筋へ、そして肩へと伝い降りた玉鼎が、吸いつくように歯を立てた。
「あうっ!」
つんとした痛み。
それに気を取られた瞬間、夜着の襟が大きく左右に割られた。
夜の冷たい空気が、素肌を包み込んだ。
震える楊戩の肩を抱き、玉鼎が薄い胸に唇を落とした。
胸に咲く、小さな花。
先端に口づけられたと思った時には、深く吸い上げられていた。
「嫌、触らないで・・・っ」
こんなに神経がそこに集中していたなんて。
びくびくと楊戩の背が撓った。
「痛い、止めて、下さいっ」
制止はきいてもらえるはずもなかった。
そして・・・、痛みばかりではない感覚に楊戩は気づく。
「いあ・・・、あ・・・」
残った片方は、指で摘み上げられた。
引っ掻くように刺激が加えられる。
知らず、固くと立ち上がったそこは、絶好の標的となった。
押し寄せる感覚に、意識を奪われまいと、楊戩が頭を振った。のしかかる玉鼎を押しのけようと、肩に手をかける。
「じっとしていなさい。悪い子にすれば、より苦痛を味わうだけだ」
「でも・・・っ」
堪えられない。
自分の体が、自分の物でないように扱われる事に。
面白いように追い上げられていく、まだ幼さを残す楊戩に、玉鼎は満足そうに瞳を眇めた。
もっと大人になり、秘め事の意味を楊戩が知ってから奪うつもりだった。
それが突然のように今になっただけだ。
完全に衣を肌蹴させた楊戩の膝裏に手をかけ、足をぐっと割り開いた。その間に体を割り込ませた玉鼎に、小さな高ぶりが触れた。
隠しようのない、感じている証だった。
「見ないで・・・っ!」
楊戩が体を捩った。
両手で必死に隠そうと足掻くのが面白いと、玉鼎は笑み、儚い抵抗を力で押さえつけた。
敵わない。
大人の玉鼎に、楊戩の幼さでは、敵わないのだ。
包み込むように触れられる。熱を持っているせいで、玉鼎の手はひんやりと感じられた。
「離して下さい、もう、嫌だ・・・」
「引き返せぬと言ったはずだ」
「知らなかったのです! こんな、こんな・・・」
「こんな?」
顔を逸らせた楊戩の頬は赤く染まっていた。
「恥ずかしい事をされるなんて」
「おまえが駄々をこねたからだ」
振り向かされた楊戩はじっと見つめられるのに、堪えられないと視線を外した。
「私を見なさい」
楊戩を包む手に力が入った。
「ああ・・・っ!」
痛みに竦んだ楊戩だったが、次いで与えられたのは、優しい愛撫だった。
ゆっくりと追い上げられていく。
「もう一度言う。私を見なさい」
「師匠・・・」
「おまえを抱く、男だ」
おそるおそる楊戩は瞳を向けた。
闇色の玉鼎の眼。
その内に、楊戩の知らない炎が宿っていた。
「私を見て・・・見つめながら、達くがいい」
高ぶりは、もう止められないほどになっていた。
熱が体中に充満し、はけ口を求めて荒れ狂う。
「あ・・・や・・・、師匠、もう駄目です・・・っ。離し・・・!!」
「達きなさい」
「嫌だ、嫌、あ・・・っ」
楊戩から涙が溢れた。


濡れた手を玉鼎は拭った。
楊戩は体を丸めてすすり泣いていた。
熱が去ると理性が戻ってきて、羞恥心からとても玉鼎に向ける顔はなかった。
「楊戩」
そんな肩に手をかけ、玉鼎は楊戩は上向かせた。
「続きを」
「これ以上、何をなさると言うのです・・・っ」
火照った頬に唇が寄せられる。
「その体で知るがいい」
玉鼎の指が、熱を放ったばかりの楊戩の足の間を探った。
再び、されるのか・・・?
恐怖に竦んだ楊戩を宥め、からかうようにそこには触れただけで、指はさらに奥へと潜り込んだ。
温かく息づく小さな隙間。
その場所を探り当てられる。
触れられて、楊戩ははっとなった。
「ここで、私を受け入れるのだ」
「受け、入れる・・・?」
「わからなければ、全て、委ねていなさい」
「でも・・・」
固い入口が指でぐっと押された。
「い・・・っ」
反射的に抵抗したものの、圧迫に負けてしまった。
抉じ開けられた場所に、鋭い痛みが走る。
一息に根元まで埋め込まれた指が、中でくっと曲げられた。
「痛い・・・っ」
「まだ指は1本だけだ。初めての体故、ゆっくりと慣らしてやろう」
曲げられたままの指が内部をかき乱していく。
異物感に、敏感な体の内側を探られる事に、そして痛みに楊戩は喘いだ。
許して、と口の端に上げても、聞き入れてもらえるはずもなく。
引っ掻き、抜き差しをされ、その摩擦が、苦しい。
「中、嫌・・・っ」
何故、このような事をされなければならないのか。
玉鼎の意図がわからなかった。
「仕方ない。少し、湿らせてやろうか」
頑なな楊戩に、玉鼎が苦笑した。
手を拭った時に、用意してた小瓶を、玉鼎は取り出した。
「私の指を感じるのが、鈍くなってしまうが」
言葉と同時に、とろりとした何かが、楊戩に垂らされた。
「冷た・・・っ」
「すぐに温かくなる」
甘い香りが漂った。
「心配はない、ただの香油だ」
指を十分に湿らせた玉鼎は、今度は2本添え、戸惑う事なく穿った。
「うああ・・・っ」
香油の滑りは予想以上で、逆らう間もなく、楊戩は受け入れさせられてしまった。
ただ、痛みも増した。
節だった、大人の男の指。小さな口は悲鳴を上げた。
ずずっと奥まで埋め込まれ、過敏になりすぎたそこは、爪の形を感じるまでになっていた。
指を回転させ、固い、固すぎる場所を玉鼎は解していく。
まだ何者をも知らない体だ。
徒労になるだろうが。
「んん・・・っ、や、あ・・・」
湿った音が耳に届く。
秘め場所から発せられる音は、楊戩の羞恥を掻き立てる。
「どうして、どうして・・・っ!!」
もう、許して下さい・・・。
声無き声が、響いた。
楊戩の限界を悟った玉鼎が、早く終わらせた方が良いと、体を起こした。
「まだ、受け入れさせるには早いが・・・」
ばさりとした衣擦れ。
割り広げられた両足が、抱え上げられた。
「師匠・・・」
何かが起こる。
きっと、指などとは比べものにならない何かが。
「助けて・・・」
他に誰もいるはずもないのに。
怖い、怖い------。
「うあ、うああああっ」
衝撃が走った。
その瞬間、脳裏に激しい痛みが突き抜ける。
「痛い、い、あああ!!」
逃れようと闇雲に暴れる楊戩を押さえつけ、深く、玉鼎は受け入れさせた。
「止めて、師匠、許して・・・」
力尽き、力で敵わないと知った楊戩が悲しく涙する。
楊戩の内部の熱さを感じているのか、しばらく玉鼎は動かなかった。
引き裂かれた痛みに楊戩が馴染むまで。
すすり泣きが弱弱しくなった。
「落ち着いたか?」
玉鼎の手が頬に触れた。宥めるように撫ぜたが、告げた言葉は冷たかった。
「だが、まだ終わらぬ」
ずっと玉鼎が腰を引いた。
「-------!!」
再び走り抜ける激痛。
無垢な場所が切り開かれ、玉鼎を刻み込まされていく。
玉鼎は巧みだった。
楊戩の意識を失わせる事なく、自身の快楽を求めたのだ。
誰が自分を抱いているか、しっかり覚えさせるように。
愛しい、楊戩。
愛しいから、奪う。
それが、玉鼎の愛だった。


抱きしめる腕。
差し込む光。
何時もと変わらない朝だった。
そのはずだった。
「ん・・・師匠・・・」
「起きなさい、楊戩、もう夜は明けた」
「はい・・・」
瞳を開けると穏やかに笑む玉鼎がいた。
変わらずにいられるだろうか。
知ってしまったのだから。




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