所用で、洞府を空けていた玉鼎が、戻ったのは出かけてから3日後の事だった。
楊戩にはもっとかかると言っておいたが、事象は考えていたより早く片付いた。
騎獣を操り、屋敷の前へと降り立つと、剣を振るっていた楊戩が慌てて駆け寄ってきた。
「お早いお戻りですね。驚きました」
「連絡をしなかったからな。実際、こんなに早くなるとは私も思っていなかった」
騎獣の手綱を取り、楊戩が繋ぎに行くのを見やった玉鼎が声を掛けた。
「来なさい、楊戩」
ぴくんと楊戩が震えた。
「今日は珍しく冷える。温めてくれないか」
「では、すぐに準備を・・・」
頬を赤らめた楊戩は、玉鼎の横をすり抜け、屋敷へ戻ろうとした。
その腕を玉鼎が掴む。
「必要ない」
「嫌です、僕は汚れて・・・」
何故か頑なに従おうとしない楊戩に、不信感を覚えた玉鼎は引きずるように部屋へと
連れ込んだ。
「師匠・・・」
切なく見上げてくる楊戩の頤を取り、口づける。
その唇は、ひんやりと冷たかった。
「おまえも、冷えているではないか」
肩を抱き、襟を緩めようとしたが、楊戩が腕を突っぱねて拒絶した。
「・・・嫌・・・」
玉鼎の目が鋭くなった。
「どうして、今日は私に抱かれる事を拒む?」
「それは、僕が汚れて・・・」
「下らぬ言い訳だ。本当の事をいいなさい。私に隠し事か?」
「言えません」
自身の腕で体を抱くようにした楊戩に、玉鼎は溜息した。
「仕方がない。逆らうおまえに仕置きを与える」
「・・・っ」
楊戩は息を飲んだ。一体何をされるというのか。
方法はわからなくても、辛くて苦しい事をされるのはわかっている。仕置き、とあえて
言うくらいなのだから。
「お止め下さい、師匠!」
拒絶しておいて、虫のいいことだとはわかっている。しかし、今、体を見せられない事情が
あった。
反射的に嘆願した楊戩を冷たく見やり、玉鼎は告げる。
「やめてほしければ、言う事をききなさい」
「嫌です。僕を清めさせて下さい。それからならいくらでも従いますから!」
「駄目だ」
必死に訴えてくる楊戩に、玉鼎は蠱惑的な笑みで応えた。


「・・・っ、あ・・・もう、や・・・っ」
泣きじゃくりながら、楊戩が抑えきれない声を上げ続けた。
勃起したまま嬲られている性器が限界を訴えていた。高ぶらせるだけ高ぶらされた状態で
欲望を吐き出す事を許されない辛さが、楊戩の理性を壊していく。
「お願いです、止め・・・っ」
後ろ手に楊戩は縛められていた。
下半身は既に剥かれていたが、胸だけは拒むので、着衣を纏ったままだ。
勿論、腕の自由を奪っているのだから、上着を剥ぐ事も玉鼎には出来る。
しかし、あえて拒むのなら、その理由を楊戩自身に言わしめたかった。
「おまえがいい子になるまで、止めはしない」
柔らかい口調で、その中に支配欲を含ませて玉鼎は告げた。
達く為にはどうしたら良いのか。
それは既に体に叩き込まれている。
「師匠・・・、師匠を、下さい・・・」
くっと笑った玉鼎が、震える楊戩を俯せに押さえこんだ。
深いスリットの入った上着の裾が持ち上げられ、恥ずかしい場所が明かりに下に晒される。
犯してもらえるのか?
楊戩が息を殺していると、後孔に大きな物が宛がわれた。
慣らされていない体では、辛い事はわかっている。
それでも、犯してもらい、中に受け入れれば、楊戩は達く事が出来るのだ。
ところが、宛がわれたそれは、玉鼎の性器ではなかった。
まるで熱がない。
「え・・・?」
思わず楊戩は苦しい姿勢の中、背後の玉鼎を振り返った。
視線があったその瞬間、玉鼎はこの上もなく優しく微笑した。
そして、一気に楊戩の秘所にそれを捻じ込んだ。
「あああっ」
赤子の腕ほどもそれはあるようだった。
幾度となく玉鼎を受け入れている肉筒とはいえ、呑み込むのは容易ではない。しかも、
慣らされてもいないのだから。
裂けてしまったのではないかと、錯覚するほどの痛みが楊戩の全身を貫いた。
「師匠ではない・・・っ?」
楊戩が瞳を大きく見開いた。
「当然だろう? これは仕置きだ。簡単に私を与えられると思うのか」
「ああっ!!」
いきなり仰向けにさせられて、楊戩は悲鳴した。
衝撃が尾てい骨に響き、太すぎる物を咥えた後孔がじん、と痺れた。
「師匠・・・」
楊戩は涙目になり、絶対的な支配者を見上げた。
「萎えていないな。気持ち良いようだ」
切なく震える楊戩の性器が爪先で弾かれた。
「はう・・・っ」
溢れ出る滴が、玉鼎の手を汚す。
「・・・少し時間を置こうか」
玉鼎が立ち上がった。
「おまえを抱いた後に行おうと思っていた残務がある。片付けてくるから、しばらく
そのままでいなさい」
「や・・・っ、待って、待って下さい、師匠・・・」
呼びかけても、玉鼎が聞いてくれるはずがない。
楊戩に背を向け、そのまま出て行ってしまった。


腕以外、拘束されてはいない楊戩は、床をのたうち回っていた。
一人残された室内で、快楽に頭を朦朧とさせながら涙を流す。
下肢がひっきりなしにひくついていた。
「・・・も。や・・・だめ・・・」
先走りでしとどに濡れた性器は、細い紐で縛り上げられているせいで、不自然に歪んで
しまっていた。
それは、痛みを通り越して快感にすらなっている。
小さな強情が招いた事だ。
楊戩が隠したい事を打ち明けるまで、本当に許してもらえないのだろうか。


卓に向かっていた玉鼎が息を吐いた。
「私の悪い癖だな。逆らわれると、理性的でなくなってしまう」
楊戩もそれをよく知っているはずなのに、何故今日は頑ななのだ。
玉鼎の調教により、すばらしいほどに素直になったはずなのに。
恥じらいながらも何時も落ちてくる。
そう、躾けた。
纏った殻の下にある、甘えたい、包み込んで抱きしめて欲しいという可愛らしい欲望。
それを満たせるのは玉鼎だけだ。
洞府から出る事などあまりなかったが、他人に対して、あまつさえ玉鼎に対してさえも、
一生懸命あがいて、嫌われるのが怖いと思っている。
気丈さと、隠そうとする健気さと、その下にある脆さを玉鼎は愛でた。
時計の針がかちりと鳴った。
もう一刻ほど経過しただろうか。
玉鼎にとって、時とは無頓着に流れる物にすぎなかった。
しかし、今の楊戩にとっては違うだろう。
そろそろ良いかと、玉鼎は静かに立ち上がった。


楊戩を置き去りにした部屋の扉をあけると、くぐもった声が聞こえ、大きな音がした。
「ずいぶん暴れたみたいだな。怪我はしなかったか? 柱にでも拘束していれば良かったか」
乱れきった楊戩の傍らに膝をつく。
笑みを含んだ視線を投げかけると、楊戩がじわっと涙を浮かべた。
普段がクールな分、乱れた時に素直に感情が表れるのが、とても愛しい。
抱き起こして、背中を優しくさすってやると、縋るように楊戩は身を寄せてきた。
「苦しかったか?」
「師匠、もう、僕は・・・っ」
楊戩は嗚咽を漏らした。
性器を縛めている紐が食い込むほど、そこは膨らんでいた。我慢出来ないのだろう。
先端からひっきりなしに溢れる蜜が、楊戩の下腹部を濡らしていた。
「達きたい、です・・・」
「達きたい?」
「・・・はい」
震えながら楊戩は頷くと、涙声でせがんだ。
「だから、僕を犯して下さい。奥まで来て、中で出して・・・」
乳首を弄って自慰をするか、玉鼎が中に射精した時にしか達してはいけないと躾けてある。
胸を拒む以上、楊戩には犯してもらう以外、達く事は出来ないのだ。
「私に犯されたいと?」
「・・・はい、今すぐ欲しいです」
「どうしようか」
わざと逡巡してみせると、楊戩は耳まで赤くなった。
こういう態度を玉鼎がとった時に、何を望まれているかよくわかっているから。
楊戩は口を開くと、自らを言葉で嬲り始めた。
「僕の中・・・、入れて頂いた物で今もいっぱいで・・・、もう緩くなっていますから・・・平気・・・」
途切れながらも、自分の体の状態を報告する。そうする事で、楊戩はさらに高ぶった。
「では、大丈夫か。挿れても」
小さな子供をあやすような手つきで、青い髪を撫ぜる。楊戩が嬉しそうに何度も頷いた。
可愛い仕草に、言う事をきいてやりたくなる。しかし、そうはいかない。
楊戩は不服従の罪を償わなくてはならないのだ。
「・・・まだ駄目だ」
玉鼎はぴしりと楊戩を拒んだ。
「・・・え?」
与えられると思った快楽を、期待して待っているというのに。
「何故、胸を見られるのをそんなに嫌がるのだ? おまえは乳首を弄られるのが好きだろう?」
「それ・・・は・・・」
俯いてしまった楊戩の顎を摘み上げ、玉鼎は緑の瞳をじっと見つめた。
「浮気でもしたか?」
ありえないとわかっていながら、言葉で楊戩を嬲る。
「感じやすい乳首を、他の男に吸われて真っ赤にしたから見せられないという事か?」
「ち、違います!!」
楊戩は、激しく頭を振った。
「僕、浮気なんてしていません! そんな事、考えた事もありません! 本当です!!」
「さあ、どうかな」
「師匠だけです。僕の乳首吸って欲しいのは、師匠だけ・・・っ」
必死に楊戩が訴える。
何も玉鼎とて本気で疑っているわけではない。ただ、隠し事をされたという事が、どうしようも
なく引っかかっているだけだ。
「私が隠し事をされるのを嫌うのは知っているだろう? 私の前では何時も、全てを
晒しなさいと」
「・・・はい」
「では、どうして上着を脱げない?」
「それは・・・」
楊戩がかっと頬を染めた。
「私には言えない事か?」
「恥ずかしいから・・・」
泣きながら楊戩は告げた。
「おまえの乳首がいやらしくて、はしたなくて、気持ちのいい事が大好きなのは知っている。
それより恥ずかしい事か?」
楊戩は、きゅっと唇を引き結んだが、やがておずおずと玉鼎に尋ねた。
「・・・笑いませんか?」
「笑う? 何をだ。だが、おまえが言うなら笑いはしない」
「じゃあ・・・見て下さい」
腕が縛められているので、自分では出来ず、楊戩は胸を突き出した。
「自分でやりなさい」
ようやく隠し事を打ち明けようとした楊戩に、玉鼎は縛めを解いてやった。すると楊戩は恥じらうように
顔を伏せながら、襟の留め具を外して、前を寛げた。
真っ白な胸が露わになった途端、玉鼎は瞬きしてしまった。
その平らな胸には、思いがけない物が宛がわれていたからだ。
四角に折ったガーゼが乳首を覆い、肌用のテープで留められている。
「何故そのような物を貼っているのだ??」
思わず玉鼎が呟くと、楊戩は俯いてしまった。
「楊戩?」
「師匠が・・・お弄りになられるから・・・敏感になって、服が擦れて、痛むのです・・・」
「私だけのせいか?」
乳首を自身で弄り、達するように命じてあるから。
玉鼎が嬲るだけではなく、楊戩自らも弄っている事もあり、そこは濃く色づき、少しばかり
大きくもなっていた。
「私がいない間、一人で遊んでいたのか。悪い子だ」
「違います・・・っ、最近、ずっと・・・何もしなくても勃ってしまって・・・それで・・・」
恥ずかしくて仕方がないと、楊戩が言葉を区切らせた。
「昼間はこうしています。抱かれる前には外していたのですが・・・」
それで、あんなに頑なに、体を清めてくる事に拘ったのだ。
「・・・なるほど」
玉鼎は楊戩の髪を優しく撫ぜ、耳元で囁いた。
「おまえの乳首がはしたなくて、すぐに硬くなってしまうのは、私が弄っているせいだし、おまえが
私の言う事を聞いて、ここでしか自慰をしないせいだ。
私の前で恥じる事なんて何もない」
「本当に?」
「ああ」
玉鼎が苦笑すると、楊戩はほっとしたように息を吐いた。
「覆っている物を外して、勃ってしまっている乳首を弄りなさい」
「はい・・・」
ゆっくりとガーゼとテープを剥がすと、そこは既に赤くなっていた。
「私に呆れられると思ったか?」
「あ・・・っ」
ようやく顔を出した乳首に玉鼎が触れると、楊戩は甘い声を漏らした。
「んん・・・、師匠に嫌われたりするのは、嫌・・・」
「いじらしいな」
爪先でこりこりと嬲ってやると、震えた体がもたれかかってきた。
「安心しなさい。私はおまえの事を嫌ったり、呆れたりはしないから」
「・・・はい」
楊戩はこくりと頷いた。
「師匠・・・乳首、僕が・・・弄ります。させて下さい・・・」
二人でいる時に自慰をする前の決まり事を、楊戩は口にした。
「いいだろう。見ていてやる」
許しを与えると、楊戩が自分の胸を弄り始めた。
両方の乳首をそれぞれ摘み、引っ張ったり爪を立てたりする。楊戩は少しばかり痛いのが
好きな事に玉鼎は気づいていた。
その様子を、傍らに膝をついたままで眺める。
未だ紐の絡みつく性器はすっかり滾ってしまっていた。解放してやり、射精しろと命じたら、
きっとそのまま弾けるだろう。
だが、それはまだ行わない。
恥ずかし気に乱れていく楊戩をもっと眺めていたかった。
しかし、楊戩はそうはいかないようだ。放置され、ただでさえ昂っていた体は、玉鼎に
見られながら自慰をする事で、我慢の限界になっていた。
「・・・ん、あ・・・ああ、師匠、もう達きたい、達かせて・・・」
「では、紐と解いてやろう。乳首で達きなさい」
熱い性器に触れ、紐を解いてやったが、嫌、と楊戩が首を振った。
「下さい、師匠が欲しい・・・一人で達くのは嫌・・・」
潤んだ眼差しが、まっすぐ玉鼎を見上げた。
「二人がいい・・・」
可愛く強請られてしまうと、鑑賞どころではなくなってしまう。
玉鼎が、楊戩に口づけた。
乳首を弄っていた手をそっと離し、楊戩が玉鼎の下肢へと伸ばした。
「悪い子だ。私に触れるか」
その手を取ってやり、指先に接吻してやってから、玉鼎は楊戩の上へと覆いかぶさった。
咥えさせていた物を引き抜き、一気に貫くと、楊戩が背を大きく撓らせた。
いくら綻んでいるとはいえ、挿入の瞬間の衝撃がなくなる事はない。
しかし、苦し気に眉を顰めたのは一瞬だった。
衝撃に噛みしめた唇が解け、甘く喘ぎ始める。
「気持ち、いい・・・。師匠の・・・気持ちいいです・・・。出して、早く中で出して・・・っ」
言葉だけではなく、肉壁がせがむように玉鼎を締め付けてくる。奥から絞りこまれるようで、
何時の間にか、こんな事を会得している楊戩が、淫らで可愛かった。
だから、玉鼎は告げた。
「愛している」、と。
「僕も、僕も・・・っ」
これ以上焦らすのは可哀想だと、導かれるまま、愛しいという思いを込めて温かな肉壁へと
玉鼎はたっぷりとした飛沫をかけてやった。
「師匠・・・」
楊戩が幸せそうに笑んだ。
そして、包み込まれた手の中に、達した。


ぐったりと意識を失った楊戩を横抱きし、玉鼎は部屋を出た。
このまま風呂に入れてやり、また可愛がってやろう。
ゆったりと玉鼎は笑む。
もう許して下さい、と懇願してくるまで、離してなどやらぬ。
届くはずもない言葉を耳に吹き込んで、玉鼎は歩き出した。


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