少し身じろぐだけで苦しかった。
動けぬ楊戩を放って、玉鼎は部屋を去ってしまっていた。
独りにされてしまうと、堪え切れなかった涙が流れた。
辛い
苦しい。
何故こんな事になってしまったのか。
玉鼎の言葉通り、飛翔する術を失った楊戩は、もうここから逃げる方法はないのだろうか。
騎獣に乗って飛来した折、ここは独立した一つの山だった。
浮遊する多くの山の一つ。
何処とも繋がってはいなかった。
だが、全てを確認したわけではない。
もしかすると、何処かと陸続きである可能性はあった。そうであれば、逃げる事も可能では
ないだろうか。
涙を拭い、そろりと楊戩は立ち上がった。
「・・・くっ・・・」
体内の異物に顔を顰めたが、歩行は出来るようだ。
逃げられるならば。
性奴として囚われるなど。
続きの部屋に入ったが、玉鼎はいなかった。
それに安堵の息を吐き、廊下へと出る。見渡してみても、出口がわからないくらい、広い屋敷だった。
どちらに進んで良いかわからないので、取りあえずの方向へと進む。
階段を降り、ずいぶん彷徨ったような気がした頃、ようやく表へと出る扉を見つけた。
外で出てみると、眩しいほどの青空だった。
周囲は緑で覆われていたが、程よく手入れされていた。
少しずつ屋敷を離れる。
誰にも咎められる事はなかった。この広い山と屋敷には、玉鼎と・・・先日出会った太乙しかいないの
だろうか。
ならば幸いだ。
急いで、出来るだけ急いで。
逸る気持ちについていかない体に苛立ちを覚えつつも、楊戩は足を速めた。
玉鼎と太乙に追わされたダメージと、体内に抱え込む異物と。それが何時もの俊敏さを奪っていた。


陽が西に沈む頃、楊戩は木立に身を寄せかけていた。
上がる息を抑えきれなかった。
どれくらい歩いたのか、思っているだけで僅かなのか。それもわからない。
月のない夜だった。
足元も覚束なくなって、これ以上進む事が躊躇われた時、頭上に人の気配を感じた。
「もう終わりか」
苦笑混じりの笑い声。
仰ぎ見れば、騎獣に乗った玉鼎が高い場所にいた。
ふわりと楊戩の前に降り立たれる。
「嫌だ・・・」
楊戩がじリ、と後ずさった。
「逃げられるとでも? ここは私の結界内。何が起こっても、私が察知出来ない事などあるはずもない」
腕を取られたと思った時には、引き寄せられていた。
「靴も履かずにここまで来たのか。愚かだな」
傷だらけの足を見て、歩かせるのを諦めた玉鼎が、楊戩を騎獣へと乗せた。
「くだらない事は考えぬ事だ。帰るぞ」
楊戩を抱え込むように背後に跨り、宙を駆けながら、玉鼎はそう囁いた。


屋敷に戻るのは一瞬だった。
騎獣の速さもあるが、楊戩は逃げた距離が僅かであった事に気づいて唇を噛んだ。
「汚れを落として来い」
玉鼎の部屋に隣接して作られた小さな浴室に追い立てられる。
独りにされた楊戩が、ずるずると崩れ落ちた。
「ああ・・・っ」
床に座り込んだ事で、忘れようとしていた体内の異物が動いた。
呼吸が上がる。
苦しかった。
それでも、何時までもこうしているわけにもいかない。
時間をかければ、ここから引きずり出されてしまうだろうから。
汚れた道服を脱ぎ、楊戩はこびり付いた泥を落とすために湯を出した。


当然、着替えの衣が用意されているはずもなく、脱ぎ落した道服を軽く羽織って楊戩は浴室を出た。
完全に纏ってしまうのは、衣装の汚れが気になった。
体は洗ったが、再び纏えばまた汚れてしまうだろう。
背の高い椅子に腰かけていた玉鼎が、楊戩に気づいて顔を上げた。
「そんな物を身につけていれば、体を洗った意味がないだろう?」
玉鼎は顔を顰めた。
「来なさい」
楊戩を呼び寄せると、纏っている衣を落とすよう命じる。逡巡していると、強引に脱がされてしまった。
「傷の手当をする。前の椅子に座りなさい」
「いい、です・・・」
ゆるりと楊戩が頭を振った。
「醜い傷跡が残れば、興が冷める」
楊戩の為ではないのだと、言われる。
椅子に腰かけた楊戩の傷ついた足に薬が塗りこめられた。
「ん・・・・」
「足に触れられているだけで感じているのか?」
玉鼎が揶揄う。
「そんなわけありません。ただ、苦しくて」
座面に触れた腰が、否応なく異物を感じさせる。
「体の、抜いて・・・」
「何を?」
意地悪な返答に、楊戩の瞳が険しくなった。
その時、卓に置かれた物に楊戩は気づいた。赤い敷き布が広げられ、上にある銀に輝くそれは・・・
見間違うはずもない。
枷、だった。
「ああ」
玉鼎が唇の端を上げた。
「おまえを自由にしたのは早すぎるようだから。今日のような事をされ、傷を負われると面白くない」
「嫌だ! そんな物を付けられるなんて!」
がたんと音を立てて楊戩は立ち上がった。
何処に逃げられるわけでもないのに、本能的に後ずさり、身を翻そうとする。
しかし、玉鼎の動きの方が速かった。
寝台へと引きずられ、押し倒される。
俯せに押さえこまれた背に、膝が当てられ、身動きが封じられた。
「離して、離せ・・・!」
「離して下さい、だ。言葉遣いを選びなさい。ぞんざいな言いようは好まぬ」
言いながら、後ろ手に捩じりあげた手首に枷を嵌める。
かちりと留められる音がした。
次いで、首に。
内側に布が貼られた首輪は、金属の触れる痛みを軽減させていた。
「これだけでは、自由を完全に奪ったとは言えぬ。かといって、傷だらけの足に嵌めるのも哀れだな」
ふと首を傾げた玉鼎だったが、すぐに長い鎖を取り上げた。
楊戩の手枷に鎖を繋ぐ。
それを股の間に潜らせて、前で首輪に繋いだ。
「これでいい」
鎖の意図がわからない楊戩の腕を引き、玉鼎は立ち上がらせた。
長いと思っていた鎖は、立つと手首と首の間にそんなに余裕はなかった。腕の力を抜き、手を真っすぐ
降ろしていないと、股間に食い込んでしまう。
下手な動きは出来ないというわけだ。
「さあ、私から逃げようとした罰の時間だ」
楊戩を壁に押し付けた玉鼎が背後から、耳元へ唇を寄せ、囁いた。
「え・・・?」
思わず、声を上げた楊戩だったが、それはすぐに悲鳴となった。
「ああああっ」
鎖を思い切り引かれたのだ。
性器に硬い鎖が容赦なく食い込んでくる。柔らかな陰嚢の形を変えさせ、堪えられない痛みを楊戩に与えた。
しかも、鎖は引かれただけで終わらなかった。
玉鼎は前に手を回し、前後から鎖を引き始めたのだ。
「い、痛、痛い、やあっ」
こんな風に、急所を責められるとは思わなかった。
股間を冷たい鎖でいたぶられる。
「あう・・・っ」
楊戩は、壁に寄りかかるように崩れかけた。しかし、玉鼎が鎖を持っている以上、蹲る事は出来ない。
股間に鎖が食い込んだ状態で、体を支えられた形になってしまう。
「ひあ、嫌、ああっ」
楊戩は瞳を見開いた。
「あ、あ、あ、・・・」
股間を、睾丸をすり潰されてしまうような・・・。そんな恐怖を与えるほど、玉鼎は容赦なかった。
急所を手玉に取られた楊戩が、がくがくと震え始める。
「止め、て・・・」
「お止め下さい、だ」
玉鼎はすかさず命じてきた。
「・・・っ、う・・・うあぁ・・・っ」
ぐっと鎖うぃ持ち上げられて、楊戩は一際声高い悲鳴を上げた。
痛みと衝撃で意識が飛びそうになる。
しかし、鎖で股間を嬲られている限り、楊戩は気絶する事すら許されないのだ。
楊戩が屈服し、許しを請うまで。
「ああ、あ・・・」
鎖が股間を這い続ける。
屈服しない楊戩を、玉鼎は決して許さなかった。
全身が引きつけを起こしたように震え、自力では既に立っている事も出来ず、楊戩は体を揺さぶられ続けた。
どれだけの時間、嬲られ、弄ばれたか。
そのうちに、痛みを通り越したのか、頭の芯がぼんやりと霞んできた。
感覚が鈍くなったわけではない。
それどころか、下半身に変化が現れていた。
「どうして・・・っ」
楊戩は萌していた。
あまりにも強烈な痛みを与えられ続け、感覚が麻痺してきたのか、痛みを感じる神経と快楽を感じる神経が
隣り合わせのせいで、法悦へとすり替わったのか。
性器の先端から、透明な滴が滴った。
「ひ・・・ぅ・・・嫌だ、ぁ!」
「感じ始めたのか。これでは罰にはならぬ。とんだ淫乱な体だな。妖怪というのは」
「・・・!」
出自を皮肉けに言われる。
「この恥ずかしい性器にも、躾けが必要なようだ」
「あ・・・ぁ、ああっ」
硬くなった場所が縛められた。
股間に食い込むぎりぎりの長さの鎖の僅かな隙間しか余裕のなかった部分だ。そこをさらに縛められて、
鎖による圧迫はさらに増した。
その状態でも、玉鼎は鎖を前後させようとした。
「・・・ひっ、あ、やめ、嫌だ、嫌・・・」
とうとう楊戩の瞳から涙が溢れた。一度流れた涙を止める事は出来なかった。
「痛いのがそんなに良いのか?」
「はうっ!」
突然尻を叩かれて、楊戩は仰け反った。
「蜜を溢れさせて、善がるとは」
楊戩自身、信じられなかった。
先日、無理やり男を覚えされられた体の内に、斯様な自分が潜んでいるとは。
玉鼎は、何度もゆっくりと繰り返して楊戩を打ち据えた。
間隔を開けているのは、痛みの後に訪れる、痺れた快楽を、楊戩の体に教え込む為だった。
「あ・・・あ・・・」
縛められた性器が苦しんでいた。
達する事も出来ずに、膨張したままで、充血してしまっていた。
徹底的な下半身への責めに、楊戩はもう堪えられない。
身を捩り、悲鳴を上げる。
「いや、やだ、嫌、嫌、止め、て・・・!!」
「違う」
耳元で囁かれる。
ぞくっとした。
「お許し下さい、・・・そうだな、おまえの支配者、そして導く者として、師匠とでも」
「・・・ぅ・・・っ」
息が詰まり、声にならない。
促すように、一際強く鎖を引かれたのだ。
(もう、駄目、だ・・・)
楊戩の矜持が折れた。
「・・・さい・・・」
一度口を開くと、止められなかった。
「お許し下さい、師匠・・・」
「・・・いいだろう」
ゆったりと笑った玉鼎は、性器の縛めを解いた。
次いで、後ろに挿入されていた物も、ずるりと引き抜かれる。
「ああ・・・っ」
そして・・・掌で楊戩の性器を包み込んだ。
「ん・・・は、はう・・・あっ!」
楊戩を散々痛めつけたとは思えないほど、優ししい仕草で扱かれただけで、一気にそこは爆ぜた。
押し付けられていた壁が白く汚れた。
それを呆然と見つめていた楊戩は、次の瞬間、倒れ込んでいた。

戻る