楊戩が意識を取り戻した時、包みこむように玉鼎に抱かれていた。
温もりが、体を包んでいた。
その温かさに知らず、安堵を覚えた。
「起きたか? 楊戩」
髪を撫ぜられる。
とても優しい仕草だった。
しかし、その動きを感じた瞬間、先ほどまでの出来事が楊戩の脳裏に思い起こされた。
「・・・っ!」
与えられた屈辱。
淫らな記憶に、楊戩は離れようと身じろぎしたが、玉鼎が腕を離す事はなかった。
それどころか、あまりにも暴れると、楊戩が抵抗する気力をなくすまで口づけられた。
「師匠・・・」
楊戩は小さく玉鼎を呼んだ。
体が重くて、全身が倦怠感に覆われていた。
繰り返される口づけに、再び楊戩は瞳を閉じようとしたが、それは許されなかった。
立ち上がった玉鼎に抱き上げられる。
「何を・・・!」
「湯を使いに行こうか。中に私のものを留めたままでは気持ち悪いだろう?」
「・・・」
赤く染まった頬に唇を寄せ、楊戩を揶揄いながら、玉鼎は浴室へと連れ込んだ。
当然のように浴室の床に這わされた楊戩は、再び暴れ、玉鼎を突っぱねた。
「離して下さい!!」
「何故?」
「自分で・・・自分で出来ますから・・・」
与えられた度重なる凌辱は、楊戩を淫獄へと落とした。しかし、屈辱から解放されたら、
粉々に砕かれた自分を取り戻す事が出来るような気がした。
「おまえは本当に強情だ。あれほど、貶めてやったのに、まだ壊れずに殻に篭ってしまうのか」
楊戩の背を押さえながら、玉鼎は言った。
「だが、そこがいい。落とし甲斐がある」
反抗的な楊戩の態度も、さして気にならないのか、それどころか一層玉鼎の瞳は笑んでいた。
そして、徐に指を後孔に突き立てる。
「や・・・っ!」
繰り返し犯されたそこは簡単に開いて、玉鼎を迎え入れた。何時もはひどく頑なな場所だったが、
激しい交わりの記憶に、まだ慎ましやさを取り戻せずにいた。
だから・・・容易く玉鼎の餌食になってしまった。
「嫌、嫌・・・」
楊戩は声を上ずらせる。
粘膜を指が這うだけで、びくりと腰が動いてしまう。こんな行為は屈辱でしかない。決して屈したくは
ないのに。
「少し腫れているが、傷ついてはいないようだ」
逃げようとする楊戩の腰を掲げ、玉鼎はそこを眺めた。
朝の光が煌々と差し込む中、そんな場所を見られるのはあまりにも恥ずかしかった。
「もうお止め下さい、何故、昨夜はあのような・・・」
「あのような?」
ふっと笑った玉鼎が、指の腹で前立腺を押した。
「ああ・・・っ」
瞬間、楊戩の体は電流でも通ったかのように大きく撓った。衝撃は大きく、到底堪えられる物ではなかった。
びくびくと腰が蠢いた。
感じたくなんてない。それなのに、性器は高ぶり始めていた。
楊戩の反応に気づいた玉鼎が形を確かめる。
「んんっ」
「おまえの中が、きゅっと吸いついてきた。好くなっているはずだ。 隠さずに言ってみなさい。
わかっているから」
言葉を促されたが、反対に楊戩は唇を噛みしめた。
こんな扱いに流されるほど、楊戩の矜持は易くはないはずだった。それなのに、どうして体は陥落して
しまうのか。
体の内側を、あやすように辿られて、快楽に喘ぎそうになった。
それを振り切り、楊戩は問う。
「僕を・・・壊すのですか・・・?」
玉鼎は静かに微笑した。
「私が壊したいのは、おまえの心ではない。人である事を強いられ、それが為に自分を嘘の自分だと思い込み、
必死に装うとしている殻だ。
おまえの本性も、美しい今の姿も、どちらも本物であると、理解して欲しい物だ」
楊戩の体内でゆるゆると指を動かしなから、玉鼎は囁き続けた。
「殻の下のおまえは繊細な感じやすい心を隠している。だが、誰の前でも、頑なでは辛いだろう?」
「そんな事・・・」
「私の前だけでいい。素直なおまえでいなさい」
空いた手が、楊戩の背を撫ぜる。
「勿論、長い時間を掛けて覆った殻がすぐになくなるとは思えないから・・・。
私はおまえの内に入り込んで、突き動かして、もっと乱れさせ、壊してやろう」
「師匠・・・」
楊戩の抗いは、咥えさせた指で封じる。
「おまえが装うとしている全てを私は奪う。最後に残るのは、私に預けられた頃のような、無垢な生身のおまえだ。
そうなったおまえを私は、いっぱい抱きしめてやろう」
「う・・・」
何時しか、甘い囁きに楊戩の瞳から涙が溢れていた。
「言わないで下さい・・・」
与えられる刺激に、言葉は拒んだが、喘ぐ声は意思に逆らっていた。
昨夜よりも快楽を感じながら、再び楊戩は唇を噛んだ。
こんな扱いをされている事に、反発したい。これは屈辱のはずだった。それなのに、何処か甘美な行為に
思えてしまうのは何故だろう。
玉鼎の指が楊戩を抉る。
「ああっ」
「抱きしめて欲しいだろう? ありのままのおまえを」
ぞっとするような甘い誘い。
「お止め下さい・・・それは、師匠の言い分であって・・・」
「では、どうしておまえはこんなに感じているのだ? 心と体は別だ、などというのは言い訳にすぎない」
柔らかい口調だったが、玉鼎はきっぱりと言い切った。
「気持ちいいなら、素直にいいと言うんだ。その方が楽になれる。本来のおまえは、そういう子だと
思うのだが」
「・・・っ、あ・・・っ」
込み上げてくる欲望に堪えるように、床を這う手を握りしめていた楊戩の体が震えた。
「僕が素直・・・?」
とてもそうは思えないのに、何故師は・・・。
返した問いかけに言葉は返されなかったが、二本目の指がぐっと差し入れられた。
前立腺を中心に、揃えられた指で肉壁を抉られると、その滑る速度に合わせて、性器がより立ち上がって
いくのがわかった。
「もう、や、嫌です、師匠・・・」
内部に留めていた玉鼎の残滓を掻き出される。
掻き出されているのか、嬲られているのか・・・。
あれだけ犯された後なのに、感じてしまう体が信じられなかった。
怖い。
気を張り詰め、玉鼎を拒んでいるつもりでも、既に自分は壊れて快楽の虜になっていはしないか。
「気持ち良い、だろう? おまえの本当の気持ちは」
玉鼎の声も手つきも、優しくなっていた。それなのに、返って支配されてしまいそうな恐ろしさがあった。
「・・・や・・・あうっ!!」
性器を握りこまれ、楊戩は背を反らせた。
同時に後孔が硬く絞り込まれたのがわかった。
体は玉鼎の手管に従順だった。昨夜、さんざん仕込まれた事を覚えているのだ。
突き入れた指を、擦り、掻き出すだけではなく、回すように動かされる。
何時の間にか、体内を蠢く指は三本になっていた。肉壁はその指から少しでも痛みではなく、快感を
得ようとはしたなく締め付ける。
楊戩の意思を裏切って。
「感じたく、なんてない・・・」
否定の言葉に、玉鼎はため息を吐いた。
立ち上がり、震える性器が悔しいと、楊戩が頭を振る。それなのに玉鼎の手のひらに包まれ、どんどん
膨れ上がっていくのだ。
あまりにも浅ましい体の反応。
ぐっと拳を握った楊戩の耳元に、玉鼎が追い打ちをかけた。
「そろそろ達きたいだろう?」、と。
「いいえ!」
即座に否定したが、先端に爪を立てられて言葉は悲鳴に変わった。
「だが・・・達かせてはやらぬ。達きたうなったら、おまえはどう言わなければならないか、覚えているか?」
苦痛に呻いていた楊戩だったが、玉鼎の囁きに全身が羞恥に染まる。
その言葉は、昨夜さんざん教え込まれた。
中で射精してもらうまで、達する事は出来ない。達きたいから中に入れて、射精して・・・とよがり狂いながら、
何度も哀願させられたのだ。
屈辱だったはずなのに、思い出した事で、下腹がいっそう熱くなったのがわかった。
あの辱めは悦びだったのだ、本能のままに口走った事で、心が解放されたのだ、と。
楊戩は頭を振り続けた。認めるのはあまりにも堪えがたかった。
「意地っ張りだな」
含み笑いを漏らした玉鼎が、楊戩の前立腺を爪で引っ掻いた。
「ひ・・・っ」
犯され続け、敏感すぎるほどになっていた場所だ。小さい痛みも鋭く感じられた。しかし、その痛みが
通り過ぎた後に、猛烈な快感が襲いかかったのだ。
もっといたぶって欲しい。
強い刺激が欲しくて、腰が動いた。
「こんなの、嫌、嫌なのに・・・」
感じているなんて嘘だと、どれだけ否定しても、快楽を知っている体は貪欲で、素直だった。
「う・・・」
楊戩が嗚咽した。
根元を指で縛められていなかったら、とうに達していただろう。
しかし、そこは今玉鼎の管理下だった。楊戩は射精の自由すら与えられていないのだ。
「達きたいなら、私に強請ればいい。心のままに強請る事が出来たなら、どれだけでも与えてやろう。
・・・これは練習だ。おまえが私の前で、素の自分でいられるようになる為の」
「ひあ、っ、あ・・・止め、離して・・・」
決して玉鼎は、性器を擦ろうとはしなかった。絡められた指先はじっとしていて、楊戩の欲望を抑え
込んでいるだけだ。
なのに、後孔を弄る指の動きだけはどんどん激しくなっていく。
入口が引っ張られ、びりびりと引きつっていた。
それすら、今の楊戩には快感だった。
性器の先端からは、先走りが垂れ続けていた。それはきっと、玉鼎の指もぐっしょりと濡らしているだろう。
「あ・・・あ・・・」
「中を嬲られて、こんなにも硬くさせ、私の指をきつく締め付ける。気持ち良いのだろう?」
玉鼎が声を立てて笑った。
「我慢比べだ。おまえが強請れるのが先か、私が根負けするのが先か。早めに諦めた方が、多分
楽になれると思うが」
玉鼎の言う通りだった。
だがしかし、楊戩には、易々と従う事が出来ないだろうという事もわかっていた。


「・・・う・・・、あ、ひあっ、や・・・あ・・・」
噛みしめる力も既に唇にはなかった。
閉じきれなくなった口からは、喘ぎ声が漏れる。
だらしなく開いているのは、そこだけではない。玉鼎の指を咥えている後孔も、性器の先端ですらも、
しどけなく広がって楊戩を苛んでいた。
「もう、お許し、下さい・・・」
とても、足腰が言う事を聞いてくれる状態ではなくなっていた。
それなのに、まだ腰だけを上げた姿でいるのは、玉鼎の指が楊戩の中にはまり込み、引き上げて
いるせいだ。
そこだけで繋がっている。感じさせられている負荷すらも、快感でしかない。
「ああ・・・う・・・や・・・もう、達きたい・・・」
既にどれだけの間、後孔を辱められているのか、もうわからない。
楊戩の理性が掠れ、落ちかけているのに、玉鼎は気づいていた。
「許して・・・」
堪えられないと、楊戩が何度訴えても、玉鼎が許す事はなかった。
「強請り言葉はそうではないだろう?」
出来の悪い子供を諭そうとでもいうのか、あくまで玉鼎の口調は静かで優しかった。
何度も繰り返される反発と甘い囁き。それが楊戩の心を侵食する。・・・そして、頑なな意地は崩されようと
していた。
「・・・や・・・っ、もう、嫌・・・」
意識を朦朧とさせながらも、幾度となく楊戩は抵抗を試みた。
しかし、前立腺への責めは苛烈を極めていた。張りつめすぎた性器は、今、快楽を通り越して痛みすら
感じていた。
ひくひくと痙攣しながら、透明な蜜を滴らせる。でも、本当に吐き出したいのは、白濁とした快感なのだ。
玉鼎の手の中で、性器は切なくのたうちまわっていた。
突き入れた指を、玉鼎が拡げた。その状態のまま、蠢く体内を押し広げるように回し、最後に前立腺を
今まで以上の強さで擦る。
その途端、楊戩の理性はついに崩れてしまった。
痛い。
苦しい。
でも、これは快楽なのだ・・・。
蜜口は壊れたように、滴を吐き出し続けている。尿道は、痙攣しすぎて、切れてしまいそうな痛みを
楊戩に与えていた。
あまりにも擦られ続けた後孔は充血して熱くなり、ふっくらと腫れあがっていた。
切なく、苦しい場所に、もっと熱い物をかけてもらえたら・・・。
「挿れ、て・・・」
乾いた唇を、とうとう楊戩は動かした。
「・・・れ、て、下さい・・・、師匠を中に・・・」
はしたない言葉を口にした瞬間、楊戩の心の中で何かが音を立てて壊れた。
「お願いです、お願い・・・」
「中に入れるだけで良いのか?」
「嫌・・・出して・・・」
切羽詰まって強請っているのに、あくまで玉鼎は完璧を要求した。
「何故、そうして欲しいのだ?」
「達きたい、から・・・」
「良く言えた」
上体を傾げた玉鼎が、楊戩の項に口づける。
「だが、まだ不十分だ」
玉鼎はこの期に及んで、冷静だった。
「とぎれとぎれで、良く聞こえなかったし、な」
「そんな・・・っ」
ここに至って焦らすなんて酷すぎる。
堪えかねて楊戩はぼろぼろと涙を流した。
「さあ、楊戩」
優しく促される。
もう、止められなかった。
堰を切ったように、楊戩は言葉を紡いだ。
「達きたい、達かせて・・・、師匠の----を入れて、中で射精してもらえないと、僕は達けないから・・・っ」
「いいだろう」
玉鼎はくすっと笑うと、ようやく指を引き抜いた。
「では、おまえにご褒美をやろう」
「あ・・・っ」
期待に楊戩は打ち震えた。
力が入らない脚を懸命に支え、腰をさらに高く上げて、玉鼎に差し出す。
「挿れて・・・」
「力を抜きなさい」
「あああっ!」
望んだ物を与えられた楊戩は、大きく目を見開いた。
熟れきった肉壁に与えられた性器は、とても熱く感じられた。もっと欲しいと、楊戩は自ら腰を玉鼎に押し付ける。
「欲しがりだな」
下腹部で蠢く尻を、玉鼎は優しく撫ぜた。
その感触もとても好かった。
「師匠・・・」
「まだ、達ってはいけない・・・」
「はい・・・」
楊戩は小さく頷いた。
「もっと奥まで・・・下さい、熱くて、気持ち、い、い・・・」
「入れるだけで良いのか?」
「中に出して下さい・・・」
「何故?」
どう答えれば良いのか、無意識にまで叩き込まれている。
「中に出してもらえないと、僕は、達けないから・・・、早く、師匠の熱いの、僕に・・・」
「わかった」
今までになく、腰を強い力で押さえられ、体内を激しく突き上げられる。
「ああっ、ああ・・・、師匠、師匠・・・」
射精して欲しい一心で、後孔がきつく窄まった。
すると、玉鼎はより深く楊戩を穿ち、小さくため息を吐いた。
途端、体内に熱い物が溢れた。
玉鼎が射精したのだ。
想像した通り、熟れきった肉筒へと流れ込む精液の感触は心地良い物だった。
「おまえも、達くがいい」
「はい・・・」
楊戩自身の吐露は静かだった。粗相をしたかのように、弾けた性器から白濁が溢れた。
そのまま床に崩れそうになったが、玉鼎が背中から抱きしめてくれた。
「いい子だ、楊戩」
甘く、名を呼ばれる。
「師匠・・・」
心も、体も征服された。
支配者の姿を、楊戩は蕩けたような眼差しで見上げた。
「可愛い、私の楊戩」
玉鼎は満足そうに笑うと、楊戩の唇を奪った。
激しい口づけに、また溶けていきそうだった。
快楽の余韻に震える体を、玉鼎は丹念に愛撫した。
その指が、ふと胸の突起に触れた。
「あ・・・っ」
軽く触れられただけなのに、乳首はしこっていた。その硬さを楽しむかのように、揉まれてしまい、楊戩は
体を痙攣させた。
「ここも、敏感なのに、放っておいたな」
「あ・・・ふ・・・っ、く・・・」
乳首への刺激で、再びじわじわと追い上げられる。
「尻で気持ち良くなれたのだ。次はここだけで、射精出来るように。自分で弄りながら、乳首だけで
達けます、と言えるまで、じっくり教えてやろう」
乳首を苛められて、達したばかりの体にまた、熱が燈ったのがわかった。
体内に未だ留まっている玉鼎のものを締め付けると、呼応するかのようにそれも硬くなった。
まだ、終わらないのだ。
楊戩はくらりと眩暈がした。
それは、絶頂感にも似た、眩暈だった。


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